妖怪ウォッシュ ~ 事故転生した荒井さんは、もふもふ小豆洗いでした ~
「……なに。これ?」
ぽかぽかした感覚に目を開けると、わたしは見知らぬ川べりに立っていた。空間そのものが澄んでる感じがする。綺麗だなぁ。
突然胸を締め付けられたような感覚に襲われて、直後気を失って。薄暗い空間でぼんやりした意識のまま、死んだとか転生とか言われて気が付いたら現状だった。
「ん? 頭の上になんか乗ってる?」
違和感を手に取ってみる。
「……なんで、ザル?」
ともかく、まずは頭に乗ってたこのザルを、目の前の川で洗うことにした。頭に乗ってたんだから、汚れてるだろうからね。
ーーそして、川に映った物が見えた。
「……なに? この狐?」
「それはあなたですよ。荒井真澄、改め。妖怪、小豆洗いちゃん」
「その声、さっきの。って、ええっ!? 妖怪?!」
「いやー、慌てて命の灯火付けたら転生にわたしも巻き込まれちゃいまして。背後霊になっちゃいました」
「ちゃいましたって、ずいぶん軽いな……」
「ってことで、改めまして。新米死神の命灯冥です。これからよろしくおねがいしますね」
「あ、はい。よろしく、おねがいします」
しどろもどろになるしかない。これでせいいっぱいなんだから、しかたがないのだ。
「ふむ。死神アイによりますと、あなたの綺麗好きが小豆洗いの特性とシナジー起こして、あらゆる物を洗える能力になってるようです。そのかわり小豆ありませんけど」
「なに言ってるのかぜんぜんわかんないんだけど……」
「そのザルを川に浸して、『きれいにな~れ☆』って言ってみてください」
「マイペースすぎるでしょ……」
「ほらほら、ね? 自分の変化を知っておくのは大事だと思いますよ」
「そう……ね。一理あるか」
ごり押しされた気はするけど、言われた通り、ザルを川に浸す。その冷たさに思わずザルを置き去りにしそうになったけど、なんとか耐えた。
「よし。き……きれいになあれ」
恥ずかしいのでさっさと言ってしまおうとした結果、凄まじい棒読みになった。けど、わたしの言葉で変化は起こった。
ザルが光を放って、その光が一瞬で川の見える範囲に広がって、そして消えた。
「あれ。なんか、更に川が澄んだような?」
「これがあなたの力です。これからあなたはきっと、いろんな物を洗浄することになると思います。死神の勘ですけど」
「死神の勘……いやな予感しかしないんだけど、そのフレーズ」
かくして、奇妙な相棒とおかしな力と、もふもふの姿になったわたしの、新たな人生が始まったのだった。