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血塗れの魔神

 俺も鎧の中から少女、いや、魔王の嬉しそうな顔を見る。


 ナンバー2冥利に尽きる。


「ふざけるな!」


 突然、静かだった広間に大声が響き渡る。


 さらに筋骨隆々の魔族の一人が広間の石床を踏み砕いた。


「ユダ、アイツは?」


 俺は近くに控えていたユダに聞いた。


「ザガンです。上位魔族でも猛者で戦闘力が高いです」


 なるほど、俺の派閥だろうか。


「へ~俺の派閥だっけ? ちょっと忘れちゃって」


「ザガンは魔剣侯セレアの派閥でしょう」


 魔剣候セレアか。他の魔族の派閥の長のことだろう。


 それにしてもユダのやつ。こんな雑な言い訳でよく通じるもんだ。


「人間の村への侵攻は決定事項だったはずだ。これ以上、待てるか!」


 ザガンは猛っていた。よほど不服なのだろう。


 そうだ! 待てぬ! と同調する魔族も多い。


 魔王がまた憂い顔に戻る。


「魔王様、いや魔王リリスよ。魔族の盟約、行使するぞ」


 ザガンが広間の中央に歩み出て、玉座の魔王を睨みつける。


 魔族の盟約というのは何だろうか?


「ザガンは、魔王様から一対一の勝負でよって、その座を奪えるという古い盟約を行使するつもりなのでは?」


 何のことかと思っていると、やはりまた腰巾着のユダが説明してくれた。


 便利なやつだ。


「先々代魔王様がその強さで魔族を束ねた時に誓った掟にございます」


 なるほど。魔族らしい力の掟だ。


 魔王とザガンを見比べる。


 うーん。ぶっちぎりで最強の俺だが、他人と他人の強さ比較をするのだけは苦手なのだ。


 魔王とザガンの強さを多少は感じるとはいえ、宇宙で巨大隕石を破壊する俺と比べればアリだ。


 象がアリとアリのどっちが強いのかと聞かれても判断するのが難しい。


「ザガンよ。盟約は守る。だが、お前は引き下がるつもりは……ないのだな?」


「無論!」


 どうやら魔王とザガンの戦いは避けられないようだ。


 二人はどちらのほうが強いだろうか。


 多分だけど、魔王のほうが少し強いし、潜在的な力もあると思うが、萎縮している。


 魔王が逆に負ける結果になるということもありそうだ。


 魔王が王座から立ち上がろうとする。


 まずいなと思った俺は、立ち上がるのを手で制した。


「ゴルゴダ?」


「お座りください。魔王様」


「え?」


 俺はザガンに振り返る。


「ザガン。まずは俺と戦ってもらおうか」


「あぁ。何を言っている?」


「わからんのか。お前ごときに魔王様を煩わせるわけにはいかぬ。まずは俺と戦え」


「な? 貴様、魔族の掟を捻じ曲げるつもりか!」


「そんなつもりはない。俺を倒したら堂々と魔王様に挑戦したらいい。ナンバー2の俺を倒せたらの話だがな」


 ここで魔族内でのポジションを確立するのだ。


 俺は掌に魔力を集中させる。


 ザガンが笑いだした。


「ぐははは! 元々、格下の魔族の貴様がナンバー2などと調子にっ???」


 言葉を吐き出し切る前にザガンの頭は俺の手の上に乗っていた。


 首の無いザガンの体だけが広間の中央に立ち尽くしている。


「ばばば馬鹿な。貴様なん……ぞ……にぃ……」


 手の上のザガンの頭は口をパクつかせてから、やがて動かなくなった。


「馬鹿はお前だ。魔王様はもっと強いぞ。何故なら俺はナンバー2だからな」


 広間にいた魔族たちの動揺の声が聞こえる。


「な、なんという強さだ……」「誰か見えたか?」「ゴルゴダ公の魔力の底が見えん」


 首の無いザガンの体がドサッと床に倒れて首の切断部から血が広がっていく。


 魔族たちはその血に触れまいと慌てて後ずさる。


 さらに俺は手にあったザガンの首を、広間の上位魔族たちの足元に転がして睨みつける。


 魔族たちはさらに後ずさったが、震え上がって動けないものまでいた。


「ザガンの他にも魔王様に挑戦するものはいるか?」


 広間の魔族たちがブルブルと首を横に振る。


「いいだろう! 魔王様に二心を抱くならば、今日のこととナンバー2の俺がいることを思い出すんだ」


 魔王はおそらく部下に優しく接していたんだろう。


 ナンバー1が部下に優しい場合、ナンバー2は部下に厳しく接するのが仕事になる。


 逆にナンバー1が厳しい場合は、ナンバー2が優しく接っするのが仕事だ。


 いや~、今日もナンバー2としていい仕事をしたな~。


「ゴルゴダよ。よく言ってくれた。嬉しいぞ!」


 賛辞を述べる魔王を見る。


 この子、やっぱり可愛いな。


「それにしてもさらに魔力を強めたのだな。信じられん程に」


 可愛いけどなんだか恐れられてるような気もする。


 ちょっと自分がどんな姿をしているか外から見てみようか。


 自分の姿を鏡で見るように脳内に映す魔法を使う。


 黒い甲冑の魔神が、血濡れで、仁王立ちしている姿が映る。


 こわっ! 俺の魔神姿、、、、こわっっっ!!!


 こりゃ魔族たちもビビるわけだ。

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