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これが言いたかったんだよね!

 腰巾着のユダと空を飛ぶ。


 ユダは羽を出していたが、俺は出せない。もちろん魔法で飛行する。


「羽、出されないんですか? 魔力だけで飛行するのは大変じゃないですか?」


「うるさい! 殺すぞ!」


「す、すいません!」


 別にユダを殺して一人で魔王城に乗り込んでもいい。


 だから雑な対応をしているわけだが、意外とバレないもんだ。


「そ、それにしてもゴルゴダ様。また魔力が一段と、いや十段、百段ほど強くなられたのでは?」


 なるほど。こいつにとっては強いやつに媚びることが重要で、そいつが誰であろうと、どうでもいいのかもしれない。


「へへっ。無敵の鎧に、強大な魔力。ゴルゴダ様は魔王様など、もはや敵ではありませんな」


 黒い甲冑の手甲部分でユダの顔面をつい殴ってしまう。


「ぎゃぴー! な、なにを?」


 ほう。この魔族、歯が五、六本ほど吹っ飛んだが、死にはしなかったか。


「俺は魔王様のナンバー2だ。よく覚えておけ」


「え? えええええ?」


「聞こえなかったのか?」


「い、いえ! さすがはゴルゴダ様。魔族制覇の目的を果たすために、その日までナンバー2を徹底なさるんですね」


「まあ、そのような目的ではないが、とにかく俺はナンバー2なのだ」


「え? えええええ? は、はいー! ゴルゴダ様は不動のナンバー2、絶対のナンバー2でございますうううううう」


 ふーむ。コイツも長年、腰巾着をやっていることはある。


 飛び方がフラフラするほど殴ったのに(俺としては軽く撫でた程度だが)笑っている。


 マゾか何かかもしれんが、力を見せつけてやるほうが信用するようだ。


「ところでユダ。お前はなかなか強いな。殺してもいいだろうと殴ったのだぞ。誉めてやる」


「あ、ありがとうございます~」


 険しい岩山を越えると魔王城が見えてきた。


◆◆◆


「ゴルゴダ様、お待ち下さい」


 魔王城に入ろうとすると、門番が止めた。


 鎧にも俺にも耐魔法防御がある。


 透視魔法で見破られたりはしていないはずだが。


「魔王様からの言伝ことづてです。上級魔族は大広間に集まれとのことです」


 ただの言伝か。


 しかし、大広間の場所なんか何処かわからん。


「おい、ユダ。大広間に案内しろ」


「はい! こちらでございます!」


 紫の炎の灯りで彩られた魔王城の廊下を歩く。


 途中、何人か上級魔族が話しかけてきた。


 ユダによれば、〝ゴルゴダ派〟の魔族だったようだ。


 やはり魔族にも派閥があるんだな。


 それにしてもゴルゴダは鎧を常につけていたというが、軽く挨拶するだけで誰も疑わない。


 魔王城のセキュリティ……大丈夫なのか?


 ナンバー2としてナンバー1に警鐘を鳴らしたいところだが、人間の俺が魔王国を助けるわけにもいかないしな。


「ところでゴルゴダ様」


 ユダが歩きながら聞いてくる。


「なんだ?」


「レムダとラムダはどうなさいました?」


 レムダとラムダ? ああ、エターナルフォースフレアで焼き払った魔族か。


「殺した」


「ひっひー!」


「はっはっは。お前は使えるから殺さん。少なくともしばらくはな」


「あ、ありがとうございます!」


 ここが大広間か。ずらりと並ぶ上位魔族。


 なるほど、そこそこ力はありそうだ。


 もちろん俺の敵ではないが。


 ナンバー2のポジションを築くためにありとあらゆる努力と工夫、そして前世の科学知識を応用した魔法群を持つ俺を脅かすほどでは到底ない。


 ならば、魔王はどうか?


 一段高いところ、王座に座る魔族を見る。


 そこには憂いを帯びた美少女が座っていた。


 多少の魔力は感じるが、それよりも美しさを感じる。


 ナンバー2のことばかりで、恋愛方面にはあまり関心がない俺でも一瞬、見惚れるほどだった。


 ナンバー2の大基本はナンバー1を立てて、その影に隠れることだ。


 だからナンバー1が美しいというのは良い。


 立てるにしても気分がいいだろう。魔王だけど。


「ゴルゴダよ。よくぞ戻った」


「ははっ」


 魔王に遠慮した雰囲気が感じられる。


 どうやらゴルゴダはナンバー2として謝った道を歩んでいたようだ。


「勿体無いお言葉」


「い、今、なんと申した?」


 魔王が驚く。


「よくぞ戻ったという魔王様お言葉に対して、勿体無いお言葉と申し上げました」


「そ、そうか」


 広間もざわついている。


 田舎村の若い同世代のナンバー1相手なら友人として接したほうがいいが、ここは魔王国のフォーマルな場で相手は魔王だ。


 ナンバー2として完璧なTPOを見せつける。俺は一時の間だけでも魔王国のナンバー2を全力で味わいたい。


「ところでゴルゴダよ」


「はい」


「例の目と鼻の先の人間の村のことだ。協議で侵攻することとなったが、やはり、まだ時期尚早だと私は思う」


「は。御意ぎょいにございます」


 広間がさらにざわついた。


「ま、誠か? 貴公も人間の村に侵攻したいと言っておったではないか?」


「私の愚考もございましたが、魔王様のご命令とあれば」


 魔王が何か言いたそうに口ごもっている。


「なにか?」


「いや、ゴルゴダよ。黒い甲冑の魔神とも言われるお前だ。私の命令を内心では不快に感じていると思っていたぞ」


 ふふふ。ゴルゴダよ。地獄で見るといい。俺のナンバー2道を。


「大魔王様のご意志はすべてに優先します」


 これが言いたかったんだよね。


 転生前に見た最高のマンガの最高のナンバー2のセリフだ。


 広間はシンッと静まり返り、直後に魔王の憂いを帯びた美しい顔が、華やいだ可愛らしい少女の顔になった。

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