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勘違いです。俺はゴルゴダさんじゃないですけど……

 魔族たちがなにやらブツブツと言い合っていた。


「な? 早い! この人間の動き見えたか?」


「み、見えん。それに凄まじい魔力だ。ゴルゴダ様、念のため後ろに」


「うむ」


 魔族の取り巻き二人が中央の鎧の魔族の前に立つ。


 俺も一応は魔族どもに対峙して構えてやった。


 何となくそれっぽいからね。


「人間にしてはなかなかやるようだが、ゴルゴダ様を含む我々上位魔族三人を相手にどうなるものでもあるまい! 死ね!」


 取り巻きの口上を聞きながら、俺は問答無用に攻撃魔法を唱えた。


「エターナルフォースフレア!」


 魔族どもを魔法の豪炎が包み込む。


「「ぐわああああああああああああ!」」


 取り巻き二人の魔族はすぐに倒れた。


 だが、ゴルゴダと呼ばれた全身鎧の男は倒れない。


「くくく。この程度の炎で俺を焼けるはずがあるまい。なぜなら俺は魔界最強の鎧を身に着けているのだからな」


 魔界? わからんが、最強の鎧というだけのことはある。


 鋼鉄も溶かす俺の魔法に耐えている。


 だが、俺の魔法エターナルフォースフレアは……。


「敵が死ぬまで燃え続ける無敵の炎だ」


「なんだと? あ、熱い!? ぎゃああああああああ!」


 仮に鎧自体は燃えなくても、エターナルフォースフレアは敵が死ぬまで燃え尽きることはない。


 そして温度は指数関数的に上がっていく。


 中の生物は間違いなく死ぬ!


「ふっ。エターナルフォースフレアを破る方法を教えてやる。氷系魔法を同等以上の魔力でぶつけてみろ。もっとも核融合エネルギーを変換して魔力としている俺と同等の魔力の持ち主が、この世界にいるかはわからんがな」


「こんなところで俺の魔族制覇の野望があああああああ! ぐおおおおおおおおおおおお!」


 豪炎の高温が周囲の岩や大地を液体化させ、さらに蒸発させ、気化しはじめた頃、黒い甲冑を立たせたまま、エターナルフォースフレアが消える。 


 鎧の中身であるゴルゴダという上位魔族が焼け死んだということだ。


「魔族制覇の野望だって?」


 どういうことだ。この魔族は村を襲おうとしたフシがある。


 村の結界は千年前に伝説の勇者アルバーンがはったものだ。


 俺でも片手間では破壊できない。


「コイツは馬鹿なのか、それとも何か考えがあったのか? 今となってはわからんが……」


 エント村が滅ぼされてナンバー2のポジション自体が無くなるのは困る。


 村が滅ぼされないように色々と調べたいが、どうしたものか。


 さらにこの鎧も一体何だ? 何か合金の様に見えるが、使っている金属も製法もわからない。


 俺はこの世界の人間の知識もかなりおさえているつもりだったのだが、この鎧のことはわからない。


 エルフ、ドワーフ、獣人、あるいは魔族の知識を得れば、何かわかるのだろうか。


 この世界では人間の勢力が、亜人と拮抗しているので特別情報が劣っているとも思えん。


 前世の言葉で言えば、オーパーツが相応しいかもしれない。


 戦利品として考えたら、ちょっとしたものだ。


「着てみようかな」


 呪いがかけられている気もするが、俺は呪いに関しても、あらゆる耐性を得ている。


 さっきの雑魚魔族で大丈夫なら、その点で心配する必要はないだろう。


 氷系魔法で冷やしてから着てみることにした。


「ふーむ。悪くない」


 何というかデザインがカッコイイ。


 漆黒のいかつい鎧のデザインが俺の中二心をくすぐった。


「頭部も被ってみるか」


――しかし、その行動は後から考えると俺の運命を決定的に変えた。


 呪われてしまった……などということはなかったが。


「ゴルゴダ様~」


「ん?」


 遠くの方から飛んできた魔族に声をかけられる。


 ゴルゴダ? あ、俺のことか。


 魔族が近くまで来て着地した。


 頭部まで黒い甲冑姿になった俺は、この新手の魔族にゴルゴダとやらに勘違いされてしまったのだ。


「ゴルゴダ様。魔王様が村はまだ襲うな、そのまま魔王城に帰ってこい、と」


 やはりゴルゴダは村を襲おうとしたのだ。


 ちょっと情報を得るためにゴルゴダのフリをしてやるか。


 この世界にいる人間や魔族は知らないだろうが、前世の知識で科学的に説明すると音の正体は空気の振動だ。


 空気の振動を魔力で調整すれば……こんな声だっただろうか?


「そうか。魔王様が。では中止しよう」


「えっ? 中止されるのですか?」


 やっぱり、もう少し低い声だっただろうか?


「てっきりゴルゴダ様は魔王様が何と言おうと人間に侵攻するのではないかと思っていました」


 どうやら声音で疑われたというよりは村の侵攻を中止したことに疑問を持たれたようだ。


 とりあえず、合わせよう。


「どうしようか迷っている」


「なるほど。さすがでございます。ゴルゴダ様はまだ魔王国のナンバー2を装うのですね」


 ナンバー2を装う? そういえば、ゴルゴダは……魔族制覇の野望とか言っていたな。


 眼の前の新しい魔族の口から出たナンバー2という単語に心惹かれた。


 俺も魔族のことについてはそこまで詳しくない。


 眼の前の魔族に色々と話を聞いてみようか。


 なーに、もし疑われても殺ってしまえばいい。


 俺のほうが圧倒的に強い。


「魔族内の争いがあるのか?」


「へ? またまた。嫌ですよ。ゴルゴダ様が一番お詳しいでしょう」


 少し声を落として脅すことにした。


「いいから、知っていることと、お前の考えを話してみるのだ」


「は、はい」


 ふむふむ。知らなかった。


 元々、魔族は魔族同士でも争っていて、それを統一したのが三代前の初代魔王らしい。


 初代魔王は圧倒的な力で魔族を統一して、人間の領域にも積極的に侵攻した。


 その初代魔王は千年前の伝説の勇者アルバーンが倒した。


 ここまでは人間の歴史にも英雄譚として残っている。


 そして、ここからは知らない話だ。


 二代目魔王が魔族を統一していたのだが、老衰して死んで、最近(といっても十年前)若い魔王が後を継いだらしい。


 今の若い魔王はまだカリスマが無く、上位魔族同士の揉め事も起きているらしい。


 ゴルゴダはこの鎧を入手して急激に力をつけ、新魔王の座を狙っていたのだ。


 馬鹿だなあ。ナンバー1なんか最悪だぞ。


 孤独で気苦労ばかりだと言うのに。そう思うと魔王も……。


「魔王も可哀想に」


「へ?」


 つい、つぶやいてしまった。ゴルゴダの腰巾着が不思議そうな顔をしていた。


 この魔族、名前はユダというらしい。


 魔王ではなく、ゴルゴダにしっぽを振る魔族までいる状況だ。


 乱れた魔王国のナンバー2というポジション。


 ナンバー2としてのやり甲斐というか、ナンバー2冥利に尽きるというか。


 俺はふと思ってしまった。


 幸いにしてゴルゴダは鎧を身に付けるまで弱い魔族で、鎧を手に入れてからはずっと着用しているという。


 魔法を使った声真似も上手く言っているようだ。


「このまま魔王国のナンバー2を楽しんでみるか。ちょっとだけだ」


「え?」


「いや、何でもない。魔王様は魔王城に帰れと言っているのだな?」


「はい」


「そうか。じゃあ、魔王城に案内しろ」


「あ、案内ですか?」


「そうだ。ごちゃごちゃ言ってるとぶち殺すぞ」


「す、すいません! はいー!」


 予想通りだ。


 これぐらい強気にでたほうが、魔王国のナンバー2っぽい。


 さすがに人間とバレたら終わりなので、敵対する魔王国のナンバー2にずっとなることはできないが、ちょっとだけ……ちょっとだけだ。

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