俺の実力を探る油断できない女
村外れの門に行くとエレナが待っていた。
「レオ、ティアちゃん、おはよ」
「おはよ、エレナ」
パーティーの魔法担当の少女エレナ。
この女は俺にとって、かなり油断できない。
カンが良いのか俺の実力を見破りそうになる。
「よし! 今日のギルドの依頼を伝えるな。村の魔法結界の外にある畑がミスリルゴーレムに踏み荒らされた」
ガイが言った。
ミスリルゴーレムか。モンスターの中では相当上位に属する。
顔にある一つ目が弱点だが、他の身体の部分はすべてミスリル鉱石に覆われている。
もっとも絶え間ない努力と前世の科学知識によって最強になっている俺にとっては雑魚以下だが。
「防御力の高い強敵ね」
エレナがつぶやいた。
「ねぇ。エンシャントソードはガイが持つよりもレオが持ったほうがいいんじゃないの?」
ぐっ。この女、やはり油断ならない。
「はぁ? 何、言ってるんだ? 俺は村一番の剣の使い手だぞ。村の宝剣であるエンシャントソードは、俺が持ったほうがいいに決まってるだろ?」
ガイが不満気な声を出した。
「エレナちゃん。お兄ちゃんより、ガイくんの剣の腕のほうが上だよ。お兄ちゃんは何でもナンバー2なんだから」
妹のティアがタイミングよくフォローした。
いつもながら良い仕事をする。
「ガイは昔、俺の親父からよく剣の修行してもらっていたからな。俺じゃかなわないよ」
親父の威厳がまだ残っていたころの話をする。その様子はエレナも見たことがあるはずだ。
ちなみに俺は親父の剣の腕を認めつつも、早々に彼の剣をマスターしてしまい、それからはもっぱら前世の科学知識と魔法技術の融合を研究していた。
「そう……。私は……その……いつもレオのことを見てて……レオの剣も凄いなって思っていたけど」
あ、危ねえ。
こいつ俺を観察してやがった!
剣も俺がナンバー1じゃないかと疑っていたのか。
まさかナンバー1を押し付ける気じゃあるまいな。
「皆がそう言うならわかったわ。エンシャントソードはガイが持ちましょう」
エレナは魔法ナンバー1の座も自分ではなく俺と言ったことがあった。
幸い周りに人がいなかったので、小一時間かけてお前の魔法のほうが上だと主張して、何とか納得させたが、決して油断は出来ない。
ただ、この女にもいいところはある。美少女という視点から村のナンバー1なのだ。
正直、俺は村の女たちから陰で結構モテてしまっている。下手すりゃモテ度でエント村ナンバー1になってしまう。
村人たちはエレナとガイとお似合いの仲だと噂している。エレナは本当に強い人が好きとか言っていたから、エレナはガイが好きなはずだ。
つまり、ガイとエレナがくっついていれば、ガイは村のモテ度ナンバー1になるから、俺のモテ度ナンバー2のポジションも不動になる。
「そうね。ガイの剣は凄いもんね。レオは剣に弓に魔法にオールラウンダーだけど、剣では一歩ガイに劣る……のよね?」
「当たり前だ。エンシャントソードはガイが使えよ」
村での剣、魔法、モテのポジション。今日も俺はあらゆるナンバー2を死守するのだ。
◆◆◆
俺とティアとガイとエレナで村の結界を出る。
「ん?」
魔の瘴気が強い。
「どうした? レオ」
ガイが聞いてきた。気が付かないのか。
この瘴気。おそらく強力な魔族が近くにいるのだろう。
まあ巨大隕石の危機に比べたら鼻くそのようなものだが、一応、警戒はしたほうがいいか。
なぜなら、ガイが死んでしまったりしたら、俺がナンバー1になってしまうし、村が滅ぼされてしまっては村のナンバー2というポジション自体が無くなってしまう。
俺は険しい岩山が連なる北東の方角を見る。
「山のほうなんか見ちゃって」
ガイの質問に答えなかったから今度はエレナが聞いてきた。
瘴気はあの向こうから迫っている。
千里眼を使えない二人にはわからないが、あの山々の向こうには城がある。
城は、そう、魔王城だ。
「ごめんごめん。何でもないよ」
「あの山は強力なモンスターばかり出るから。まさか一人で行かないでよね。レオ」
「わかっているって。エレナ」
そんなことを考えているとモンスターの集団が襲ってきた。
家のような大きさのジャイアントベアー。動きが早すぎて残像を残すダブルタイガー。真空の斬撃を飛ばすデスマンティス。
他にもエトセトラエトセトラ、十種類以上はいる。
スライムのような弱いモンスターは一匹もいない。
それでもガイやエレナは苦労もなくサクサクとモンスターを倒していく。
再確認するがエント村は、魔王城から一番近い人間の村である。
つまり前世の知識で例えるならエント村は〝ラストダンジョン前の村〟だ。
村のモブでも世界の人間の平均からしてみたらかなり強いはずだ。
なかでもガイ、エレナは最上位の戦士だ。
この異世界の各国は、魔王を討つという触れ込みの勇者パーティーを抱えている。
それを国力の喧伝にしているらしいが、なまじの勇者よりも二人のほうが強いのではないだろうか?