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剣鬼姫ナターリア

「ただ、ナターリアは伝説の日以降は一度も城に出仕しておらず反旗を翻すつもりかもしれません」

「また反旗か。まあ生きているならいい。明日にも剣鬼候の領地に軍を進めてひっ捕らえろ!」


 ユダに命令する。


「ちょ、ちょっと待て。ゴルゴダよ」


 なぜか魔王が止めてきた。


「どうしました?」

「昔、ナターリアはもっとも私に忠節だった」


 リリスから耳打ちされる。

 リリスの話によれば本物のゴルゴダがいた頃もナターリアは忠節だったらしい。


「ん~でも捕らえませんと」

 

 捕まえて力を見せつけなければゴルゴダ四天王にすることはできない。


「私が書簡を送って説得するから出兵するのは少し待ってくれないだろうか? 軍を派遣して、もし間違えたら殺してしまうかもしれない」

「まあ確かに」


 今までの実績が物語っていた。

 急に五万の大軍で魔王城に攻め込んできたり、人間の国の墓地で安らかに眠る人をゾンビ軍団にしたり、人間の国も魔王国も関係なく大津波で大災害を出すような奴らは粛清するしかなかったともいえるが、結果として殺してしまった。

 ナターリアはリリスが説得してくれるというなら任せるか。


「魔王様のご意志はすべてに優先します」

「ゴルゴダ、ありがとう」


 リリスがほほ笑む。


「勿体ないお言葉」


 リリスとしばし見つめ合う。

 ふふふ。

 やはり魔王国のナンバー2はやり甲斐がある。


「むっ」

「どうしたゴルゴダ」

「……いえ、なんでもありません」

「? そうか」


 殺気だ。それもとてつもなく強い殺気を感じる。

 フードで顔をすっぽりと隠している男が強烈な殺気を放っていた。

 コイツ誰だっけ?

 まあ覚えていないが、問題はないか。

 今の魔王国で殺気を放つ奴は、リリスに対して放つか、俺に対して放つかの二種類だ。

 リリスに放たれた殺気なら問題だが、無敵の俺に放たれた殺気ならなんの問題もない。

 魔力もそれほどは強くない。


「ナターリアは私が説得するとして他に議題はないのか?」


 リリスがナターリアをゴルゴダ四天王に説得してくれるのは助かる。

 他の議題などないだろう。


「それ以上に重要な議題が一つあります」


 あ~ユダはなに言っているんだ?

 ナンバー2の威厳の維持以上に重要な議題なんてあるか!

 また殴りたくなってきた。


「なんだユダよ」

「食糧問題です。魔族に人間を食事にすることを禁止しました。農地の開墾には成功しましたが、実るのはまだ先です……」


 ユダはさも深刻そうな顔をしている。

 どこが大きな問題だ。簡単に解決できるじゃないか。

 そんなことも教えてやらないといけないのか。


「魔王国の隣にフランシスって人間の王国があるだろ? 農業国だぞ」


 エント村もフランシス王国の村だ。

 農業国としても豊かで他国に農産物を輸出している。


「それは存じておりますが」

「黒魔石とフランシス王国の農産物と交換しろ」


 魔王国では黒魔石という魔法の触媒になる石が採れる。

 魔王国ではさして珍しくもない石なので誰も相手にしていないが、人間は採りに来てよく殺されている。

 つまり人間にとって黒魔石は魔王国に侵入して殺されるリスクを冒しても手に入れる価値があるんだろう。


「そ、それは和平交渉も進んでいませんのに貿易交渉をするということですか? できますかね?」

「お前は馬鹿か。得になることなら嫌いな奴とでも付き合うに決まってんだろ」


 魔王が席を立ち上がる。


「ゴルゴダ、素晴らしい案だ。貿易が活発に行われれば、より人間の国と活発に交流ができそうだな」


 リリスは賢い。

 ユダも見習えよ。


「なるほど。黒魔石というアメと剣鬼姫というムチを使えば、魔王様の夢である人間の国との平和条約を締結できるかもしれませんな」


 はあ? ユダのいうことは相変わらずわけがわからん。

 なんでナターリアがムチになるんだよ。

 本当に殴ったろうか。


「ゴルゴダ様はいつも名案を出してくる。人間の生態にも驚くほど詳しい」

「圧倒的な魔力だけではないということか」

「魔王国の宰相としてナンバー2の地位は安泰だな」


 重苦しい会議が和やかな雰囲気になり、魔族たちの雑談が聞こえてくる。

 なぜか俺のナンバー2の地位はさらに固まったようだが、油断はできない。

 早急にゴルゴダ四天王を揃えよう。


――ゴンッ!


 突如、会議室に衝突音が響き渡る。

 一旦緩んだ会議室に緊張が走り、出席者が衝突音のほうに振り向く。


「いった~い」


 ティアがおでこを撫でていた。

 どうやら舟をこいでいたティアのおでこが議場の巨大な卓にぶつかったようだ。

 会議は終了になった。



◆◆◆



「どっこいしょと」


 背負ったティアをゴルゴダの部屋のベッドに寝かす。

 口端を濡らし、すやすやと夢の世界に落ちていた。

 ゴルゴダの部屋とエント村の裏山には転移魔法のゲートが作ってある。

 ゲートを利用して昼と夜の二重生活をしているわけだ。

 朝になるまでに帰らないと母親に心配されるが、まだ少し時間はある。


「ちょっとリリスに四天王になれそうな奴がいないか聞いてみるか」


 ナターリアを四天王に加入できたとしても二人しかいない。

 さすがに三人ぐらいはいないといくら脳筋な魔族どもでも誤魔化しようがないだろう。

 魔王の部屋に向かう。

 ん? 廊下の先に誰か……衛兵が倒れているぞ。

 慌てて走り寄る。まだ息はあるようだ。


「お前らどうしたっ!?」

「黒いフードを来た男に」


 げっ。会議で見たアイツか。

 殺気は俺に放たれているものばかりと思ったが、この先はリリスの居室しかない。


「や、やめて。お願い……」


 瞬時に五感を研ぎ澄ました俺の耳にリリスの声が聞こえてきた。

 超超々高速でリリスの部屋のドアに体当たりをする。

 この距離であれば、転移魔法の詠唱の時間をよりも早い。

 ドアは粉々に砕け、俺の魔王の部屋に飛び込む。

 リリスを探す。

 目に飛び込んできたのは、謎のポニーテール美女がリリスの乳を後ろから揉みしだいてる姿だった。


「なんだこれ?」


 と思ったと同時に超超々高速移動で発生した衝撃波が遅れてやってきて廊下と部屋はボロボロにした。

 謎の美女は衝撃波にも気が付かず、魔王の体を弄っていた。


「ゴ、ゴルゴダ! あっ、ちょっと、やめてっ」

「魔王様、いい匂いです。え? ゴルゴダ? 私よりもあの男がそんなにいいのですかっ!」


 美女の首の後ろには会議では顔を隠していたフードがあった。

 男ではなく女だったのか。

 いや、そんなことはどうでもいい。


「おい! お前は誰だ?」

「ん? ゴ、ゴルゴダ! 貴様いつの間に!?」


 この女、あれほどの轟音と衝撃波で気が付かなかったのか?

 ポニーテール美女が剣を抜く。

 ほう。あの剣は、剣にして剣に非ず。

 反りのある片刃、美しい波紋。地球でいうところの日本刀か。


「やめて! ナターリア!」


 魔王がナターリアと叫ぶ。

 え? ひょっとして、この女が剣鬼候ナターリアか。


「なぜです? 魔王様! この賊を斬り捨て魔王様と結ばれに……いえ、魔王様をお救いにゴルゴダを斬ろうと馳せ参じましたのに」

「あっあんっ。違うのです。ゴルゴダは斬らなくていいのですよ」

「魔王様のおんためならば神が敵なら神を斬り、魔神が敵ならば魔神を斬る覚悟。ゴルゴダごときを恐れましょうや」


 ナターリアは片手で刀をこちらに突き出し、片手でリリスの胸を揉んでいた。

 なんとなく話が見えてきたぞ。


「お前は女なのに魔王が好きなのか?」

「魔族ならば魔王様をお慕いするものだ。貴様のような魔王様を利用する賊は違うだろうがな」

「そういうことを言っているんじゃなくて、恋愛対象として好きなのか?」

「ち、ちちちち違う。ま、魔王様は私にとって……そうだ! もっと神聖なアレだ!」


 魔族がもっと神聖なアレってなんだよ。

 意味がわからん。


「涙目になってないでとりあえず神聖なアレの乳から手を離せ」

「な、なぜか手が勝手に揉んでしまうのだ」


 リリスがまともな部下を欲しがるわけだ。

 まあいい。

 少なくともリリスに悪意があるわけではないようだし日本刀を使う魔族一の剣士ならゴルゴダ四天王に相応しい。


「魔王様、この馬鹿は私のことを誤解しているようです。ナンバー2としての私の忠節を教えてあげてください」

「な、なに? ゴルゴダが魔王様に忠節だと?」


 ナターリアが俺を睨む。


「そ、そうですね。ゴルゴダはこのように毎夜私の部屋に来て」


 ちょっと待てリリス。

 その言い方、誤解されないか?

 会議の後もなんだかんだと打ち合わせることがあったから、リリスの部屋に行っていただけだからね。


「な、なんと……魔王様はゴルゴダを部屋に受け入れたのですか?」

「私がゴルゴダの部屋に行くときもありますが。ちょ、ちょっとナターリア。胸が痛い」


 いや、俺かリリスの部屋じゃないと誰かが入ってきて、安心してこの重苦しい鎧がとれないんだよ。

 ナターリアはまだ乳を揉んでいるし、なんか力入っているし。


「な、なにか変だと思っていた。以前のゴルゴダは魔王様の首を狙っているようだったが、今は本当に魔王様の忠実なる戦士となっているのか? それどころか魔王様とゴルゴダは男女の……」


 ナターリアがぶつぶつと呟きはじめた。


「魔王様はゴルゴダでいいのですかあああああああああ?」

「ゴルゴダは私の下いるのが勿体ないほどの臣下です。ナンバー2として私と魔王国を立派に支えてくれていますよ」

「そういうこと言っているんじゃなくて、魔王様はゴルゴダが恋愛対象として好きなのかと聞いているんです!」

「わ、わわわわ私がゴルゴダを好きか? ゴ、ゴルゴダは…そうですね……もっと神聖なアレで……」

「もっと神聖なアレとはなんですか? 意味がわかりません!」


 神聖なアレはお前が言い出したんだろうが。


「その……あの……」


 リリスの声がどんどん小さくなっていく。


「ゴルゴダめええええええええ!」


 ナターリアが涙をぼろぼろ流しながら俺を睨む。


「な、なんだよ。ナンバー2としてちゃんと魔王様を支えているって本人が言っているだろうに」

「うるさい! 魔王様をたぶらかしおって! だが、魔王様のお心は既に貴様に……」


 ナターリアは日本刀を投げ出して、両腕を地につけ足は女の子座りで泣きはじめた。

 ポニーテールの美女が泣く姿は妙に艶めかしい。

 い、いかん!

 このままではコイツ戦士として折れてしまうぞ。

 ゴルゴダ四天王としての価値が無くなる。

 戦士として復活させるには……そうだ!


「ナターリアよ。ならば魔王様を守るものとしてどちらが相応しいか剣にて決めようではないか?」

「え?」


 ナターリアが顔を上げる。


「まさか……」


 リリスもこちらを見た。


「左様にございます。決闘にて魔王国のナンバー2、ひいては魔王様をお守りするお役目、このゴルゴダめとナターリアどちらが相応しいか決めさせていただきたい」

「ちょ、ちょっとゴルゴダ」


 魔王が止めようとする。

 肝心なことも伝えておかねばな。


「ただし、ナターリア。お前が負けた時は俺の直属の部下ゴルゴダ四天王に入ってもらう」

「ふふふ。ははははは。ゴルゴダよ。剣にて、と申したな」


 ナターリアが静かに立ち上がる。


「言ったよ。魔法は使わない」

「この私が剣鬼候と知ってのことか?」

「もちろん」

「魔王様は勝った方のモノということだな」


 ナターリアが日本刀を静かに拾い上げる。


「ゴルゴダはそんなことは言っていませんよ」


 俺は抗議するリリスを手で制した。

 元々、力でゴルゴダ四天王にするつもりだったのだ。


「相違ない。明日、闘技場で決闘しよう」

「ゴルゴダ。お前を誤解していたぞ。人を使うでもなく奸計を弄すでもなく正面から剣の勝負を挑むとは」


 ナターリアは笑いながら魔王の部屋を出て行った。


「レオ様、大丈夫なのですか? ナターリアは魔族一の剣の使い手ですよ」

「リリスにだけは教える。俺は魔法だろうが、剣だろうが、実力ならナンバー1だぜ」


 ナンバー2を得て維持するため、あらゆる分野で圧倒的実力ナンバー1となっている剣の腕を見せてやる。

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