ナンバー2、勇者を一撃で倒す!
「ユダ、勇者はどこだ?」
「もう、城の外、正門の目の前です」
「行くぞ!」
黒い甲冑を纏い、ガチャガチャと音を立てて走る。
重いいいいいいいいい!
並走していたリリスとユダは突き放してはいるが、魔力がつきかけているので早く走れない。
正門前には魔族の輪で壁ができていた。
見えるところまで少しだけ割って入る。
「お”に”い”さ”ま”あ”あ”あ”」
間違いない。ティアだ。
今も一人の魔族が倒れる。
リリスも俺の後ろの着いた。
ティアを取り囲む魔族が、俺とリリスに気がつく。
「ま、魔王様、ゴルゴダ様」
「今、バラガもやられました! つ、強い!」
「あと一押しなのですが」
リリスがティアを見る。
「あれが……」
声に恐れの色がある。
そりゃそうだ。
魔王のリリスからしてみたら、これから戦うかもしれない勇者だ。
既に血だらけで般若の形相。
にも関わらず、目の力は鬼気迫っている。
「あれが勇者……」
「いや、勇者じゃない、俺の妹なんだ」
俺がリリスに伝えると、こちらを向いて目を見開く。
「え?」
「妹だ……」
「強すぎませんか? いえ、レオ様と同じ血の妹さんなら」
「血は違う。義理の妹だ」
「え?」
「ともかく妹は俺の身が危険だと判断するとバーサーカーモードになってしまうんだ」
妹に魔王はリリスという名前だったという話はしているし、そのリリスと一緒に消えたということを親父から聞いただろうから、何かを誤解してバーサーカーモードが入ってしまったのだろう。
勇者の聖なる結界を破る時と復元魔法を使って、俺が魔力を大量消費したこととも関係あるだろう。
――ギャアアアアアアアア!
「あのガルゴもやられたぞ!」
「くそ~っ」
「殺せ! 一斉にかかるか?」
ティアがいかに強かろうと、まだ倒れていないのは一斉にかかれられいないからだ。
魔族はプライドが非常に高い。
鬼気迫る相手であろうとも、女勇者一人に集団ではかかれない。
だが、それも限界か。
―――グオオオオオオォォォ!
「また殺られたぞ」
ティアの動きは無駄が減り、その強さは燃え尽きる前の炎のようだ。
魔族ももはや体裁を保っていられないだろう。
「勇者を殺さずに生け捕ることは出来ないか?」
リリスが魔族に叫ぶ。
「こ、殺さずに生け捕るのなど無理です!」
――ギャアアアアアアアア!
振り返って説明してくれた魔族が気を取られてやられてしまった。
確かにこいつらではバーサーカーモードに入ったティアを殺さずに倒すのなどとても無理だ。
俺が行くしかない。
だが、俺も魔力の尽きかけている。
バーサーカーモードに入ったティアを殺さずに倒せるか。
「どくんだ。俺がやろう」
魔族が壁が輪を解く。
前に出てティアと対峙する。
「あ、お前はあああああああああああ”あ”あ”」
ティアはゴルゴダを見たことがある。
だが、エターナルフォースフレアで焼き払ったところはみていない。
話しているが、バーサーカーモードになった今、頭から吹っ飛んでいるだろう。
お兄様を危機に晒している敵になっているに違いない。
「がああああ”あ”あ”あ”あ”!」
きた!
この世界は身体能力の向上に魔力を使っている。
向こうは生命力まで魔力に転化している。
一方こちらは尽きかけている。
一瞬で間合いを詰められる。
えぐり込むように脇腹目がけて撃ちこまれる掌打!
「くっ」
あ、危ねえ。何とか躱す。
レオ式・超振動掌打散花!
俺の魔力を圧縮させた手刀に似ているが、俺ほどの魔力はないティア用の技だ。
掌打を魔力で超振動させることで威力を高め、当たった瞬間、バラの蔦のようなイバラ状の魔力が敵の体内をズタズタにする。
魔力の消費も小さい。
おそらくほとんどの魔族がこいつにやられたのだろう。
俺ですら死なないまでも無事にはすまない。
反撃をしたいが、殺さない威力に抑えようとすると、次々に繰り出される掌打を躱すのが精一杯だ。
「がああああ”あ”あ”あ”あ”!」
今も掌打の連続を必死に躱している。
兜をとって顔を見せればお兄様~とまた可愛いティアに戻ってくれるだろうが、多くの魔族の環視の中だ。
俺はこれからゴルゴダとして魔族ナンバー2にならなければならない。
残るは一発食らうのを覚悟で反撃するか、殺してしまうしかない。
「ふっ。殺すなんて選択肢はないよな」
ティアはナンバー2を維持するためにも、可愛い妹だ。
一発食らって気絶しても仕方ない。
気絶したあとはリリスが何とか俺が人間とバレないように、ティアが魔族に殺されないようにしてくれることを願うしかない。
「うおおおおおおおおお!」
「がああああ”あ”あ”あ”あ”!」
―――ギャラクティカ、エクス、首筋に手刀!
仲間を気絶させるにはやっぱり首筋に手刀だ。
そっちはいいんだが、問題はティアが必死で放つレオ式・超振動掌打散花を躱せるかどうか。
「ぐっ」
やはり……ダメか。
ティアの首筋に手刀を当てながらも、ティアの掌打を脇腹に貰ってしまう。
ティアがどさりと倒れる。
俺は体内を伝うイバラ状の魔力に耐える覚悟をする。
「あ、あれ?」
俺も試しに何度か食らってみたことがある地獄の衝撃が来ない。
「そうか……この鎧……」
使えるな。素晴らしい防御力だ。
「ゴルゴダ様が一撃で勇者を倒したぞ」
「上位魔族が十人以上やられたのに」
「無傷だ。鎧に傷一つ付いていないぞ」
はぁはぁっ。何とかティアを止めたぞ。
魔族たちの感嘆の声を聞きながら呼吸を整える。
「魔王様より強いのではないか」
聞き捨てならない言葉が聞こえる。
周りの魔族もうなずきかけている。
俺はその魔族の首を締め上げる。
「俺は最強の魔王様のナンバー2だあああああ。わかったかあああああああああああ」
「ぐ、ぐるしいいい。わかりましたあああああああああああ」
◆◆◆
ゴルゴダの部屋のベッドにティアを寝かす。
とりあえず、鎧の兜を脱いで素顔を出す。
ティアが目を覚ました時に暴れるからな。
「回復魔法をします」
「頼む……」
リリスにそう答えるのもやっとだった。
ベッドに寝ていたティアが飛び起きる。
「があ”あ”あ”。あ、お兄様?」
「ティア」
「おにいさまあああああああああああ!」
ティアが飛びついてくる。
鎧を来ていなかったら押し倒されていただろう。
「ここは?」
「魔王城だ。俺は魔王国のナンバー2をすることにした」
「魔王国のナンバー2! そうだったのですね。私てっきり魔族にさらわれたのかと」
「無敵の俺がさらわれることなんてあるわけだいだろ」
「ご、ごめんなさい……」
ティアの頭を撫ぜる。
「お兄様、いつものように私も、お兄様が魔族のナンバー2になるのを手伝わせてください」
「え?」
ティアが突然言い出す。
「魔王国でお前がいるとか無理だろ?」
俺も村と魔王国で二重生活をするつもりだ。
魔王国で生活する時に人間のティアが側に入れるわけがない。
「私に名案があります」
「め、名案?」
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