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魔王、決死の三顧の礼!

 リリスの土下座からは必死さが伝わる。


「レオ様が私を倒しに来た勇者ということはわかっています」


 必死さは伝わるが……なにもわかってはいない……。


 でも、勘違いするのも仕方ないか。


 この世界の各国は魔族の王打倒を掲げる勇者パーティーを抱えていて、国力の喧伝にもなっている。


 勇者の中の一人が魔王城に乗り込んで自分を倒しに来たと思うほうが、ナンバー2気分を味わいたくて魔族の鎧を来ていた人より説得力があるかもしれん。 


「とりあえず、話を聞こうか」


「ありがとうございます。私には夢があるのです」


「夢? どんな?」


「魔王の私が言っても信じて頂けないでしょうが……」


 リリスは言いにくいのか少し沈黙した後、ゆっくり口を開く。


「私は魔族と人間の長き争いに……終止符をうち、魔族と人間の共存を目指したいのです」


 まあ、それはモブ魔族から噂で聞いていた。


 リリスが人間の国への侵攻に消極的なことも知っていたし。


「ふ~ん。そうなんだ。偉いね」


「え?」


 俺がそういうとリリスが顔を上げて驚く。


「信じていただけるんですか? てっきり、嘘を付くな魔王! 俺の王国を攻めてるではないか! とかなるものだと思ったんですが……」


「え? そうなの? どっかの国を攻めてるの? 俺の村はむしろ平和だけどなぁ」


「どちらの村ですか?」


「エント村だけど?」


 エント村は魔王城から一番近い人間の集落なのに平和そのものだ。


「エント村への侵攻は私がなんとか食い止めていましたから。たまに命令を聞かないモンスターもいますが」


 なるほど。リリスが食い止めていてくれたのか。


 モンスター程度なら親父やガイでも勝てるし、結界もある。


「ただ、ゴルゴダがついに……すいません……」


 力をつけたゴルゴダは魔王の命令を聞かずにエント村に侵攻しようとしてたのね。


 そして俺に倒されたと。


 魔王が悲しそうに目を伏せる。


「あ~いいって、いいって。むしろ君の部下を殺っちゃってごめんね」


 この子の命を狙ってるゴルゴダを殺ったんだから、守ってあげたようなもんだけど、かわいそうだからそう言ってあげる。 


「ところで共存したいのに何でどっかの国を攻めてるの?」


「私に従わない……魔族の諸侯が……」


「あ~そういうことか」


 魔王国はゆるい封建制なのね。


 前世の世界の封建制というのは、程度の違いはあるが、国内に半ば独立した領地を持つ貴族がいて、場合によっては勝手に戦争もしてしまうような感じだ。


 つまり魔族の諸侯が勝手に人間の国を攻めてたんだろう。


「話はわかった」


「信じていただけるんですか!?」


「まあ最初からほとんど信じてたけど、わからないこともわかったよ」


「あ、ありがとうございます!」


 後は俺にとって一番重要なことを伝えておくだけだ。


「エント村のレオがゴルゴダを殺したとか誰にも言わないでね」


 俺がゴルゴダを殺して単身魔王城に乗り込んでザガンを倒したなどと広まったら、ナンバー2を満喫できなくなる。


「え? それはもちろん」


「もし話してしまったら、言った方も聞いた方も魔王城ごと核魔法で消えてもらうから。絶対に誰にも俺のことを話さないように」


「は、はははははい」


 人間と魔族が共存しようが、戦争してようが構わない。


 俺がナンバー2になれるなら!


 明日は村に帰って、また悠々自適のナンバー2ライフだ。


 いや、魔王国のナンバー2も楽しかったから、王都の宰相や軍隊の軍師になるのもいいかもしれない。


「私を殺さないのですか?」


 魔王がまた何か言ってきた。


「なんで? 黙っていてくれればいい。ひょっとして誰かに話す気か?」


 そんなに死にたいのだろうか。


 他の魔族が言うことを聞かなくて自暴自棄になっているのだろうか。


 俺はできれば殺したくないのだが。


「い、いえ。私にとっても話さないほうが都合よいですが……レオ様は魔王を討つためにきた勇者でしょう?」


「あ~俺は勇者じゃないから」


「え? 勇者でないなら、その強さ、その達観……レオ様は一体?」


 レオ様は一体と言われてもなあ。


「どこにでもいるナンバー2好きだ」


 まあ、こんなところか。


「ど、どこにでもいる??? ナンバー2好き???」


「ああ。さあ、いつまで俺の部屋にいるんだ? 帰った帰った」


 明日も田舎村と家族のナンバー2だ。


 俺は魔王を立たせてゴルゴダの部屋から押し出す。


「え? ちょっと待ってください。私の話はまだ……」


「俺のことを話さなければ、俺からの話はない!」


 どんな話やら、願いやらあるか知らんが、俺はナンバー2でいられるならそれでいいのだ!


 ゴルゴダの部屋から魔王を押し出し、ベッドで横になる。


 朝イチで村に帰るとするか。


 俺はすぐ夢の世界に落ちた。


◆◆◆


 俺はあの日、一泊した早朝にエント村に帰った。


 村人やガイたちに色々と聞かれたが、なんとか魔族をまいて逃げきったという作り話で納得してもらった。


 あの日から三日ほど、いつものように村でのナンバー2ライフを楽しんでいた。


 今も俺と親父で村の見回りをしている。


 ティアは村から少し離れたところで日課の戦闘訓練をしている。


 畑の周りに生える花を見ながら親父が言った。


「レオ、お前も王都の学院にでも入らないか?」


「王都の学院か~」


「俺からこの田舎村の領主を継ぐにしても、見聞を広げてからやってもいいだろう? このバレン王国の貴族の師弟はほとんど通うんだぞ」


「そうだな~」


 そんな時に事件は起こった。


 強力な魔族が村に近づいて、強引に村の結界の中に入った?


「む?」


「ティアも美人に育ったから、王都の貴族学院に通ったら引く手数多だろう。玉の輿に乗れるんじゃないか? 二人で行って来い」


 魔力の持ち主は魔力を隠しているようで、親父も気がつかないようだ。


 だが、どのように入ったかは知らんが、古の勇者アルバーンが張った結界の中に入ってくるとは。


 ゴルゴダのような魔族が現れたのか。


 ど、どうする? 相当な手練だぞ。 


 親父やガイで勝てるか?


 ナンバー2を死守するために俺が実力を見せるわけにはいかん!


 そんなことを考えているとエレナが走ってきた。


 不満げな顔をしている。


 既に戦闘がおこなわれているのか?

 

「レオ~! 町から来たリリスさんって子がアンタに会いたいって! 誰よ?」


 リリス? あ、まさか魔王リリスが来たのか?


「へっ? そいつは人間か? 魔族とかじゃない?」


「当たり前じゃない。誰よ!」


 人間に変装して来たのか?


「いてっ」


 エレナに何故か尻をつねられる。


 まあ、つねられてもナンバー2の座には関係ないことだろうからどうでもいい。

 

「誰かは知らん。行くぞ」

 

「ちょっと待って」


 村の広場のほうに大股歩きで向かう。


 広場の方では人だかりが出来ていた。


 リリスの奴、まさか暴露しに来たんじゃないだろうな。


「リリス!」


 俺が呼びかけると人だかりがさけて、リリスと目が合う。


 やはり人間の変装をしているようだ。角がないように見せかけている。


 と、思った瞬間、こちらのほうに駆け寄ってきた。


「お、おい! うわっ」


 ラクビーのタックルのようにリリスに押し倒される。


「何をする?」


「会いたかった……です……」


 リリスが俺の上で泣いている。


 それを見た村人たちが噂をしはじめた。


「レオが町からきた凄い美人に押し倒されたぞ」


「しかも、あの子ちょっと泣いてなかったか?」


「そういえば、魔族から逃げてたとか言って村に帰らなかった日があったが、あの子と会ってたんじゃないか?」


「レオくんってモテるよね」


 いかーん!


 このままではモテ度でガイより上の村ナンバー1になってしまう。


「きゃっ!」


 俺はリリスを担ぎ上げて村の穀物倉庫に走った。


 ねずみを入れないため気密性が高い。


 ドアに魔法の鍵もかけた。


 これで誰も入れないし、覗けまい。


「何をしにきたっ!?」


 リリスに問いただす。


「お、お願いに」


「お願いなど知らん」


 多少、怒って言ったが、今度はリリスも引かなかった。


「私の夢。魔族と人間の共存について、どう思いますか?」

 

 普通に考えれば……。

 

「でかい……ビックな夢だよ。それに立派だ。人間と魔族は千年も憎み合っている。もし、そんな夢が実現するなら多くの人々が助かるだろうさ」


「ならば!」


「だが、俺は勇者でも何でもない。例えば国王に口を聞くなんてできない。そこらにいるただのナンバー2好きだ」


「いえ、そうではなく」


 そうではない?


「レオ様に魔王国の宰相、ナンバー2となっていただき、ともに魔王国と人間の国に恒久の和平を目指していただきたく」


「えええええ? 俺を魔王国のナンバー2に?」


 魔王が身を正して頭を下げる。


「願いを聞いていただければ、この身を含めた何もかもを勇者レオ様にお捧げいたします」


「三度目の礼……」


 魔王城の廊下で一度、ゴルゴダの部屋で二度目、ここ村の穀物倉庫で三度目。


 合計で三度の拝礼。


「こ、これは三顧の礼……」


「さ、さんこのれい?」


「三顧の礼……俺がもっとも憧れるナンバー1とナンバー2の関係……」


 前世、英雄である蜀漢ナンバー1劉備玄徳が、ナンバー2の軍師として諸葛亮孔明を招こうとした。


 その時の礼だ!


「くっ! きゃああああああぁぁぁっ!」


 魔王が突如悲鳴をあげる。


「どうした?」


「ああああああぁぁっ!」


「そ、そうか」


 村には勇者アルバーンの結界がはられている。


 魔族が入ったりすれば、大きなダメージを受ける。


 この子はそんな苦痛のなかで俺に願いを言いに来たのだ。

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