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魔王リリスの土下座

 俺は魔王城の大広間で無双した後、引き続き魔王城のゴルゴダとしてやつの個室にいた。


 ベッドもあったので、鎧を脱いで寝転んでいる。


 脱いで立て掛けた甲冑がまるで意志を持つ魔神のようだ。


 何となしに魔神に話しかける。


「あの子って言っても魔王だけど、美人だな。ああいう子を支えるナンバー2はやり甲斐がありそうだ」


 それに魔王国は仮にも国家規模の集団である。


 村のような小さなコミュニティーのナンバー2と比べて、その仕事の規模や質は段違いだろう。


 つい長くナンバー2を楽しんでしまった。 


「そうはいっても俺は人間だしなあ。人間が魔王国のナンバー2なんてできるわけがない」


 巨大隕石を宇宙で爆散させるレベルになると、自分でも人間かどうか感覚的によくわかんなくなってくるな。


 だが、俺の種族は人間だ。


 魔族と人間は不倶戴天の敵同士。


 この世界は伝説混じりの歴史で、魔族が人類の六割を殺したとか、勇者が魔王を倒したとか、そういうエピソードに彩られている。


 魔族は人間を滅ぼすことが、勇者が魔王を倒すことが、あたかも目的の一つであるような世界なのだ。


 人間だと知られれば、魔王や魔族たちが俺を魔王国の重鎮にすることなど認めるはずもない。


 どんなに魅力的でも、人間が魔族のナンバー2になれるはずがないのだ。


――トントントンッ


 そんなことを考えていると、突然部屋のドアがノックされる。


 やべえ。ユダか誰か来たぞ。ゴルゴダの鎧を脱いじゃっているし。


 まあ……その気になれば、魔族どもを蹴散らして帰れるし、最悪バレてもいいか。


 一応、例の魔法声で、ゴルゴダを真似る。


「なんだ? ユダか?」


 ユダがおべっかでも言いに来たのだろうか?


「私だ。リリスだ」


 リリス? 誰だっけ? あっ!


「魔王様っ!?」


 なんで魔王が。


「は、入ってもいいかな?」


「い、いや、その、ちょっと、今はマズイです」


「今はマズイ?」


「いや、その、アレですので」


「ア、アレ?」


 俺はゴルゴダの鎧を来ていないどころか、シャツに下着一枚でベッドにくつろいでいる。


 耐魔法防御は張っておいたので、ドアを透視することはできない。


 ただ、もしドアを開けられえたら、シャツ一枚に下着姿を見られる。


 あ、その前に人間ということがバレるか。


 まあ力づくでどうとでもなるが、正直この子に暴力は振るいたくない。


「ゴルゴダと少し話があるのだが……」


「話? ですか?」


「そうだ。外からなら構わんか?」


「えぇ。外からなら」


 助かった。


「私は……その……お前を誤解していた……お前はてっきり魔王の座を狙っているのかと……」


 誤解じゃない。


 あのゴルゴダとかいう魔族はアンタを亡き者にしようとしていた。


「そのようなことは決っして。ナンバー2として魔王様をお支えしていきたいと思っております」


「あ、ありがたい話だ。正直にいうと、お前には力で勝てそうもないとも思えてな」


 まあ本物のゴルゴダも鎧付きなら魔王より強かったかもな。


「今日のお前の戦いを見てなおさらにそう思った。まさに魔の神ともいうべき威容いようだった」


「そんなことはございません。私など魔王様には手も足も出ません」


「そうだろうか? 私は内心、ザガンに不覚を取りかねんと思っていたのだ。やつは人間と最前線で戦っている魔王軍の猛者だ。一方、私は戦い馴れしていない……」


 俺も同じことを考えた。


 運が悪かったら負けるんじゃないかと。


「ひょ、ひょっとして、お前も私が負けるんじゃないかと思って……わ、私を守るため、代わりに戦ったのでは?」


 なぜか魔王の声がテンションが上ったように、声が一段高くなる。


 どういうことだろう?


 間接的にはそうとも言えるが、一時的にでもナンバー2をしたかったからだ。


「ザガンごときが魔王様に挑戦することなど許されません。露払いでございます」


 そう。ナンバー2としての露払いだ。


「そ、そうか……父から魔王を受け継いだだけと思っていた私にも、かくのごとき忠臣がいたのだな」


 テンションが下がった?


 しばらく、二人で沈黙する。


「お前は人間を滅ぼすことに積極的だったから私と政治的にも意見が合わないかと思っていた」


 魔王は静かに語った。


 この状況は、またチャンスなのでは?


「魔王様のご意志はすべてに優先します」


 大好きなマンガの尊敬するキャラの科白を、また言うことができた。


 何という充実感だ。


「さ、先ほどもそのように言ってくれたが、ゴルゴダ。お前の……本心……なのか?」


「もちろんでございます」


 もし俺がアンタのナンバー2であったなら本心だろう。


「そ、そうか。ならば、私も……誰にも……打ち明けていない夢を……お前に……」


 魔王の夢? 一体、何のことだろうか?


「い、いや、それはあらためてとしようか。ドア越しではなく、鎧ではなく、か、顔を。お前の顔を見て話したいのだ」


「そ、そうですか」


 いや、それはムリだ。人間とバレる。


「考えてみれば、お前の素顔を見たことが一度もなかった。今までお前の素顔を見たいなど思ったことは無かったんだが……何故か今はとても……」


 いや、だから、それはムリなんだ。


「わ、私、ひょっとして変なこと言っている? じ、自分でも何だかよくわからないのだ。とにかく……今日は……そのなんだ……ありがとう。また来る!」


 魔王は一方的にまくしたてた後に、小走りでドアから離れていく足音をたてる。


 ドアを透視して廊下を覗く。


 魔王の後ろ姿が離れていく。


 かつての世界でいうところの黒革の水着のようなファッションをしていて形のいいお尻が見えた。


 ところが彼女は長い廊下の中途で一度止まる。


 クルッと反転してこちらに深々と頭を下げる。


 そして、廊下の角を曲がって消えていった。


「うーん。魔王可愛いな~。魔王国のナンバー2やってみたいけど、俺は人間だからなれないんだよなあ」


 ゴルゴダの鎧に話しかける。


「この世界だったら人間より魔族に転生したほうが良かったかなあ。そしたら魔王国のナンバー2できそうだし。あ、そうか。人間の王都に行って国政を担うナンバー2でもなるか。大きな商会や冒険者ギルドのナンバー2なんかも捨てがたいな」


 とりあえず今夜は魔王城に一泊して明日エント村に帰ろう。


 その前にせっかくだから、少しだけ魔王城を探索するか。


 鎧を来ていこうかと思ったが、面倒臭いし、村人の服を着る。


 誰かに顔を見られたら、そいつを殺ればいい。


 そっとゴルゴダの部屋から出る。


 ゴルゴダの部屋がある一画いっかくは特別な場所らしく、他の魔族もいないようだ。


 宝物庫は地下かなあなどと思いながら歩く。


 ゴルゴダの区画の出入り口には中級の魔族が二人見張り番をしていた。


 気配を消して近づく。


「驚いたな。さっきの大広間のことといい、魔王様がゴルゴダ様の部屋に行ったことといい」


「ああ。ゴルゴダ様は、表面上、魔王様に従っているだけだと思っていたが、本心のようだ」


「魔族間の派閥争いやゴタゴタが少なくなるのはいいが、そうすると人間との戦争は無くなるかもしれないな。人間を食いたいよ」


「そうだなあ。魔王様は人間と停戦を望んでいるという噂も聞くしな。俺は生き血を飲みたい」


 なんだって? 魔王は人間と停戦を望んでいる?


「し、あまり大きな声を出すな。殺されるぞ」


 見張り番はそれ以上、そのことについて話さなかった。


 もう少し、魔王の噂について聞きたかったが、とりあえず催眠魔法で眠らせておくか。


◆◆◆


 ゴルゴダの部屋に戻る。


 魔王城の内部は良くいえば質実剛健だが、質素とか簡素という似つかわしかった。


 城主である魔王が倹約家なのかもしれない。


 だが、宝物庫にも金銀財宝が溜まっていることはなく、眼の前にある鎧のようなレアアイテムもなかった。


 魔族は蓄財しないのかとも思ったが、それぞれの魔族が自分の蓄財に励み、国庫には供出しないのかもしれない。


 魔王国のナンバー2は、ますますやり甲斐がありそうだ。


 俺はベッドに転がりながら、また中身のない鎧に話しかける。


「でも俺は魔族のゴルゴダではなく、人間のレオだからなあ」


 人間が魔王のナンバー2になるなんて無理だ。魔族は誰も従わないだろう。


 それに国政のナンバー2を目指すなら人間の都に行く手もある。


 待てよ?


「見張りの話によれば、魔王は人間と停戦を望んでいるらしい」


 それが事実なら、人間の俺がナンバー2になって魔王をサポートしても大丈夫か?


「いやいや魔族の王が人間と停戦を望んでいるとかありえないだろう。ははは」


 黒い甲冑に笑いかける。


「……そ、それは本当です」


「なっ!?」


 鎧から声が聞こえた。中に誰かいるのか?


「……すいません」


 鎧から若い女性の声が聞こえる。何処かで聞いた声だ。


 鎧の腕が動き出し、頭部を外す。


 頭部からは美少女の顔が出てくる。魔王だった。


「なにっ?」


「まだ話したいと思い、部屋を訪れたところ留守で、つい鎧を着てしまったところ、アナタが……いや、レオ様が帰って来られて」


 魔王がどうしてこの部屋にいて、鎧を来ているかを説明する。


 タイミングが悪かった。


 誰かに見つかっても、どうにでもなるという油断もあった。


 よりにもよって魔王とは。


「ゴルゴダの様子が変だと思っていました。鎧の中は魔王を倒しに来た勇者レオ様にすり替わっていたのですね」


 俺は別に魔王を倒しにきた勇者ではないが、見られたからには可愛そうでも殺るしかない。


 生かしておくと、この子の口から広まってしまう。


 単身、魔王城に乗り込んで魔族の重鎮を何人も倒して去った人間の勇者レオがいる、と。


 そんなことになったらナンバー2のポジションどころじゃない。


 ぶっちぎりの最強、ナンバー1伝説のはじまりだ。


「ザガンを倒した時の強さ。レオ様は信じられない強さでした。魔王といわれる私でもとても敵わないでしょう……」


 口ぶりから、どうやら覚悟は決っているようだ。


 既に右手には核融合エネルギーを変換させた魔力が超圧縮されている。


 一瞬だ。蚊に刺されたような痛みも感じさせないっ!


 まさに魔王を殺そうとした時、魔王が急に土下座をする。床に額を打ち付けるような勢いだった。


 どういうことだ?


「もし私の願いをもし聞いてくださるなら、この身を含めた何もかもを勇者レオ様にお捧げいたします」


「えっ? えええっ!?」

感想……3件。

ツッコミどころ多いと話だと思うんですが、感想がなぜかつかないですね。悲しみ。

感想がほしいですけど、もし難しかったら評価でも面白いとか面白くないとか教えてくださるとありがたいです。

よろしくお願いします!

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