魔王さんが祈ってる流れ星は、俺が叩き壊した隕石です
新作をはじめました。
ブクマしてお時間がある時にお読みいただければ幸いです。
俺の名はレオ。
十数年前に剣と魔法の異世界に転生したが、そんなことはどうでもいい。
俺にとって重要なことはナンバー2になることで、それを〝新しい人生の目標〟にしている。
ナンバー2はとにかく素晴らしい。
ナンバー2になれるなら、転移でも転生でも異世界でもウェルカムだが、今はこの異世界に転生したことで大ピンチになっていた。
異世界の星アース(俺が勝手に命名した)に、超巨大隕石が迫っていたからだ。
異世界には人間種以外の強力な知的生命種もいて、普通の人々は魔王とか巨竜にビビっている。
笑っちまう。
魔王も巨竜もせいぜい国を滅ぼしたりする程度だ。
直径50kmの隕石のヤバさはそんなものとは次元が違う。
その大きさは地球の恐竜を絶滅させた隕石の倍以上。
衝突すれば、星そのものが危うい。
星は大丈夫だったとしても大地が消し飛びかねない。
ナンバー1とか2とか3とかいうポジション自体が無くなってしまう。
「まっ、俺が本気を出せば、隕石ぐらい何とかなるだろう」
俺は前世の科学と今世の魔法を融合させ最強の力を身につけている。
それもこれもナンバー2のため。
確実にナンバー2の座を手に入れ、それを維持するためには、圧倒的な力が必要になる。
隕石を発見できたのも圧倒的な力を手に入れた俺が
「万が一でかい隕石とか飛んできたら、ナンバー2のポジション自体無くなるよな~」
と思って、観測をしはじめたら、マジで飛んできたからだ。
「じゃあ、行ってくる。ティア」
俺の最強を知る唯一の人間、妹のティアに告げる。
「お兄様。今回は足手まといだとは思いますけど、私も手助けをしたいのです」
ティアもそこそこ強いが、それでも彼女が宇宙でできることなどなにもない。
「でも……」
不安そうなティアの頭を撫ぜる。
「ティアにはいつもお兄ちゃんは2番目だねえと主張してもらっているだろ? それが一番重要な仕事なんだよ」
頭を撫でながら、もっとも重要な仕事を理解させる。
「はい。分かりました」
ティアは満足そうに微笑む。
よし! ナンバー2の座を守る!!! ついでにティアと、さらについでだけど両親も助ける。
俺が魔法を発動させると周囲が幾何学模様の光芒で輝く。
次の瞬間、ふっと景色が変わり、闇の空間と星の光の空間が目の前に現れる。
俺は時空魔法で、空気の層ごと宇宙空間に転移した。
「ふ~」
深呼吸をして静かに目を閉じる。
魔力を集中させるためだ。
転生前の知識を駆使して開発した核魔法を、連鎖させて隕石を破壊する作戦だ。
外したら終わり。
チャンスは一度きり。
隕石が数百キロに迫る。
「今だ! アトミック・エクスプロージョン!!!」
連続して炸裂する超爆発は隕石に亀裂を入れ、ついに粉砕した。
元巨大隕石だった岩々は、俺を通り過ぎてアースの重力に引かれて落ちていく。
あの大きさなら大気圏で燃え尽き、地表までとどくことはないだろう。
無数の岩は眼下に広がる青い大気の層で、計算通り次々に燃え尽きる。
さすがの俺でもほっとした。
「村のナンバー2、確かに守ったぜ!」
十数年前、田舎貴族の子供に転生した俺は、今日もぶっちぎりの力で、人知れずナンバー2を守り抜いた。
◆◆◆
レオが宇宙で隕石を破壊した頃、地上では魔王と呼ばれている少女が夜空を眺めていた。
少女は消沈していた。
魔王国の方針を決める議論の場で、魔族の重鎮たちは今日も少女に従わなかった。
まだ父親から魔族の王を継いだばかりで、カリスマが無かったからだ。
そもそも魔族は力の強いものに従う習性がある。
その力にも欠けていた。
「あ、流れ星……。綺麗ね……」
ぼんやりと眺めていた夜空を彩る無数の光線。
いつもは流星など、すぐに消えてしまうが、この日の夜空には次々と絶え間なく星が降り注いだ。
「そうだ」
少女は人間の言い伝えを思い出した。
異世界にも流れ星に祈ると願いが叶うという、人間の言い伝えがあったのだ。
少女には魔王として秘めた夢がある。
魔族を人間と共存させること。
だから人間の言い伝えを知っていた。
「本当に信頼できる部下をください……例えば、心の底からナンバー2を任せられるような」
魔王と呼ばれる少女の切実な祈りだった。