21話 王様は皇様となる
イーマ・ナーガが攻めてくるという知らせを受けて、早急に兵士を集めたカサマー王国。武器ともいえない武器を持ち、戦いの準備をして進軍をしている。
一般の兵に混じり武器を持つ者は商人や農民、鍛冶職人などすべての人間族で戦いを希望した者たちが集まっていた。ほとんどは農民だ。農民の装備は竹やりに麻布の服。鍬や鋤などの装備。ナーガ族と戦えば一蹴されるレベルである。
だが人々は集まった。ナーガ族の支配を受ければ、自分たちは農奴となりこれまでのような生活はできなくなると知っているからだ。人間族の商人などはほとんどいない。安心して商人をできるのはカサマー帝国か北の竜帝国ぐらいであろう。なので私財を投じて戦いに挑んでいる。負ければ財は奪われ、自分たちは農奴となるのだから。
農民も同じだ。これまでは自由に酒なども貧乏ながらにあった。貯金をして商人と買い物のやり取りなどもしていたのだ。ナーガ族に負け農奴となれば許されない贅沢となる。
自分たちは貧乏国にいるが、それでも幸せなどだと知っているからこそ、負けるとわかっていても兵士として志願してくれたのだと理解をしている。
ウォーレス・ヤーダ・カサマーは、王としてそれが誇らしかった。自分が統治している国が国民に認められていると感じ嬉しかった。
だからこそ、負けるわけにはいかぬと気合を入れる。
自らの力は他の種族と比べても圧倒的だ。敵の英雄など数人を相手に闘う事ができると、己の力を誇っている。だからこそ、今までカサマー王国を守ってこれたのだ。
そして今回の戦いで勝つには自分の力が必要である。そして家族の力、貴族の力も。
みなの力を合わせて、イーマ・ナーガを討ち取る。それが今回、唯一勝つ方法だとわかっていた。
なので、敵の隙を作るためにも、まずは兵士の士気を上げんと演説を行う事とした。ちらりと横を見ると隣の弟がにやりと悪巧みをしているとわかる笑みを向けてきた。それに余も頷く。
さて、イカサマな演説にて士気を上げるとするか。
5000人程度の軍である。とはいえ、ほとんどが民兵で騎士はほんのわずかである。軍団の前に余は立って注目を集める。これからの演説が最後の演説だと悲壮感を漂わせている軍隊だ。とても勝ちに行くとは思えない軍隊である。
大きく息を吸い、お祖父様は余裕そうに泰然とした態度で大声を張り上げる。
「国民よ! 我らの軍隊は5000である。これは敵、30000との比較として6対1.両軍の戦力差は明らかである。しかし! 神は我らに力を与えたもうた! 我ら王族が今まで秘匿して信仰していたヤマトテラス様が力を与えてくれたのである!」
想定外の演説に人々が顔を見合せ、ひそひそと会話をする。士気を上げる演説だとは知っていたが、神が出てくるとは思わなかったからだ。しかも聞いたことの無い神である。この世界でポピュラーな神は神龍である。神龍は力ある者にさらなる力を与えるという単純な教えだ。だからこそ、他の種族は信仰して、弱き人間族は信仰していなかった。それがヤマトテラス?その神はなんだと疑問に思い不思議そうな表情となる。
そこへ口を挟む者がいた。王弟であるロウヒである。両手を掲げて人々を見ながら、いつもの信頼感を与える微笑みで言う。
「実は私こそが教皇なのです。このたび、人間族が危機であるという話をお聞きになったヤマトテラス様が部下800万の神の力の加護をあたえた人間族を用意してくれたのです。神は王族を信じ忠誠を持つ者に対して加護を与えます。そして秘術も!」
こくりと頷き、話しの続きをお爺様に促す。お祖父様も厳粛な表情で話しを続ける。
「それが王族の魔法。勇者召喚! 勇者たちは、この危機に対して心よく受けてくれた! 勇者の力があれば3万程度の兵士など、相手にならぬ! あえていおう!敵はカスであると!」
ゲホッゲホッと噴き出して笑いそうな父様。パクりすぎると思ったのであろう。
「この者たちが勇者である! その力は余をも超えるだろう!」
嘘です。今のところは私が操作しなければ、お祖父様に負けるでしょうね。まぁ、ハッタリは必要です。
なので光の勇者を操り、片手をストイックに見える感じでかかげて、一言だけ挨拶をしておく。
「ゆーしゃでちゅ! かちゅますので、あんしんしてください」
やっぱり幼女だと言葉を上手く発言できませんね。みんながシーンとなりました。
でも、良いのです。どうせ後から、この勇者1型の力を見てびっくりするでしょう。
そんなことを考えていたら、お祖父様が大丈夫か、こんな子供がなんだっけ?勇者だっけ?という感じで戸惑う人たちへと話しを続ける。そっか、勇者って概念もないからよくわからないのね。たしかに普通に聞くと勇気ある者です。なんのこっちゃ?強いのって感じです。闘神とかのほうが響きは良いですね。
勇者の演説?を聞いて戸惑う人々へとゴホンと咳払いをするお祖父様。
「あ~、なので余は皇帝を名乗ることにした! 神に選ばれし者。王を超える皇となると神託を受けたため、今日は皇帝となる! 我が国は神聖カサマー帝国と名乗ることとする!」
ざわめく人々。まぁ、失うものが無い状態ですから、皇帝を名乗ってもいいんじゃないという雰囲気だ。ちょっとしらけましたよ、お祖父様。
「今日は皇帝となりし、記念日となる最初の勝利だ! 全軍進軍!」
そういうわけで、みんなは進軍を始めました。いや、本気で勝てるとは思っていませんね。この人たち。
お祖父様たちも含めてですけど。勝利を信じているのは私だけという状態なのでしょう。勇者1型の力を見せてあげようではないですか。幼女の初勝利は近いですよ。
両軍が出会うのはザーマの平原。何もない荒地です。平原というより荒地と名付けた方が良いでしょう。そんな平原にカサマー王国ではなく、今日から神聖カサマー帝国でしたっけ。なかなか気の利いた国名ですね。ジョークがきいていますよ。
敵は30000のナーガ族。ばっちし装備も整った相手です。みんな鉄製の武器防具で身を包んでいます。しかもステータスが高いので人間族なら重装甲ともいえる防具ですね。
対してこちらは基本皮の鎧が騎士。麻の服が兵士のほとんど。………うん。どんな軍略家でも、人間族が勝てるとは思っていないでしょう。
ですが、こちらには勇者1型がいるのです。先行して一番前に立っています。
わ~、わ~と、敵がなんか言ってます。なんかさすが人間族。酷い装備だと笑っていますね。
ならば、見せましょう。幼女が5つのモニタを見ながら、入れ替え入れ替え勇者を操作していきますよ。
まずは光の剣生成!光の勇者1型にバスタードソード並みの大きさの剣が生まれます。そしてその力を解放させます。
「いきますよ、アリス!」
「了解です。メビウス」
モニタに映るアリスへ戦闘開始を合図して攻撃です!
「剣技『シャイニングスラッシュ』」
仕込んである唯一の魔術です。右から振りかぶり光の勇者横薙ぎにします。光の波が生まれて衝撃波の如く、敵へと向かっていきます。この効果は極めて簡単です。威力が無くなるまで、ずっと撃ちだした軌道を飛んでいくことです。
下半身が蛇であるナーガ族はジャンプが苦手です。そのまま上半身と下半身は光の波に切りさかれていきます。綺麗にバタバタと倒れていくナーガ族。数百は斬れたでしょうか?何回か使いますよ。ていっていっ
バラバラになっていくナーガ族。慌てて接近してきますが、次の風の勇者で動きを止めます。
質量を伴わせた上空からの突風『ウィンドバースト』
風の勇者が使用するその魔術により、敵はぺちゃんこになりました。動きが止まった敵軍を全滅させるために、土の勇者の『ソードウォール』です。これは剣のごとき土壁を生み出して敵を囲むだけの魔術です。これで敵は逃げる事は不可能となりました。
魔法攻撃をしてくる敵には、その魔法を吸収して攻撃力へと変換する火の魔術『ドレインファイア』でアタック!敵の魔法攻撃が強いほど強力となるこの魔術により、敵の魔法兵は焼き尽くされました。
とどめに『ミストサクリファイス』です。水の勇者の使うこの魔術は敵のステータスを吸収して味方へと一時的に付与する魔術です。大体10ぐらいは吸収できるでしょうか?敵が多すぎる場合は余ったステータスは治癒の力へと変換されます。なので30000人分の力はそのままこちらの軍隊の力となります。
そうして圧倒的なステータスとなりました。こちらが5の戦闘力でも、ナーガ族は元は15でも、この魔法によりひっくり返ります。しかも筋力の高さにより重装甲にしていたナーガ族はほとんど動けなくなりました。
こちらは身軽な装備なので、あっという間にナーガ族を駆逐します。
後は消化試合の様相を呈していきます。私も光の勇者を操って、敵の強力な指揮官を狙い撃ちです。
敵の君主らしい敵もいましたが、ステータスが違いすぎます。80だか90では240の勇者には勝てないのです。
槍の一撃を食らいましたが、耐久力が1減っただけでした。なんかグニョンとなる槍技でしたね。ああいう技もあるんですね。勉強になりました。
なにはともあれ、そうして簡単に敵軍を駆逐しました。楽勝です。幼女が作った勇者は強すぎましたね。
そしてこの一戦を始まりとして神聖カサマー帝国は躍進することとなりました。
私も更なる機動兵器を作って頑張っていきますよ!




