19話 精霊系魔物を倒しに行く人形皇女
雑草生い茂る水辺。そこかしこに小動物がうろちょろしています。水辺であるからだろう。他にも動物が見られる。その中には魔物も存在している。
今まさにその魔物は私の目の前でぼぅぼぅと火に覆われて燃えているんですけどね。
水色熊。毛皮が水色なんで、そう呼ばれているらしいです。まぁ、灰色熊とか地球でも言われていたから納得です。その水色熊は炎に焼かれて苦しんでいます。
炎を防ぐ『ウォーターボディ』を水色熊は使います。防御力アップと炎耐性大幅アップの魔法です。常ならば、その効果で炎に覆われても、すぐに消化されてしまうのですが、この魔法は一味違います。
「ネム、いまだ!」
父様が動きをとめて、苦しむ水色熊を見て、指示を出してきます。なので、デックを操作して水色熊まで急接近です。
デックは足音をズシンズシンとたてて、近づき斧を振り回す。速度ののった全力での斧攻撃が水色熊の首筋に叩きつけられます。
その攻撃は水色熊の首の半分まで食い込みますが、断ち切ることができませんでした。しかし致命傷であるのは明らかであり、水色熊はズズンと音を響かせて砂利の地面へと倒れ伏しました。
「ほぉ~、これは見事ですね。デックとはここまで強いのですか」
そう答えたのは、たった今炎の攻撃を行ったロウヒ叔父様です。王様であるお爺様の弟である叔父様はふくよかな身体をしております。この貧乏な国でよくその体型を維持できますね………。
そして人に対して安心感を覚えさせる柔らかな笑みを浮かべて、デックをじろじろと見て、ペタペタと触ります。ちょっとちょっと、あんまりデックに触らないでくださいな。私のデックなんですからね。
そう思って見ていると、満足したのかお爺様へと声をかけます。
「このデックは量産可能なのですかな? これだけの戦闘力を持ったものが量産できると?」
興味津々な顔で聞いてきます。まぁ、それはそうでしょう。今までの人間族のもつ力とは違う数で勝負できる力です。しかも性能も高いときましたら、興奮するのは無理ありません。
「あぁ、今は7機のデックが完成している。力の使い方を覚えれば、もっと増えても問題ないだろう」
そうお爺様答えて、ふんふんと頷く叔父様。でもね、その操作をしているのも、最初の処理動作を設定させているのは、私です。忘れないでくださいね。
「ふむふむ、それならば農業用なども作れるのですかな? いや卵回収用を作っていましたな。それならば研究が進めば作れるようになる………?」
なんか考えこみ始めました。お~い、叔父様戻ってきてください。駄目です。レンタル料がいくらとか呟いています。現実に戻ってくるのは時間がかかりそうです。
そんな叔父様の得意魔法は幻影魔法。敵へと本物そっくりの幻影を見せて、苦しめます。地味ですが、からくりを知らないさっきのクマみたいなやつには凶悪な魔法。まるで自分が本当に燃えているように見えますからね。
今回のパーティーはお爺様、父様、母様、私のデックに、ロウヒ叔父様です。
勇者パーティよろしく5人PTで、きましたよ。最近だと5人PTって珍しいのですかね。幼女は最近のゲームの記憶は少ないのですよ。
そんな私たちは、ただいまウィンディーネスライムを倒しに来ています。ウィンディーネじゃない?精霊種は精霊界にいますし、肉体がありませんので倒し損です。エルフが好んで使うのが精霊魔法ですね。強力で魔法の武器か、魔法でしか攻撃が通じないやっかいな精霊を召喚して戦います。
ウィンディーネスライムは水辺でウィンディーネと同じような水の精霊の格好をして、敵に精霊と勘違いさせて油断させたあげくに攻撃してくるというスライムです。
その体は強力な錬金素材となるとか。魔法力が少ない人間族にはあんまり関係ない素材です。
ですが、今回はそれが必要となります。私の人形の素材にする予定なのです。
そのため、ロウヒ叔父様も一緒に連れてきているんですね。叔父様の幻影魔法は敵が見破らない限り凶悪な効果を与えます。動物とか魔物でも知能が低い敵には効果的です。
そんな叔父様と一緒にてってこ歩いていく勇者パーティ。ちゃらら~とBGMが欲しいところですね。私は馬車ならぬ城でごろごろしていますけど。
というのも、ここにくるまで大変でした。2週間はかかる森の中を移動中なのですよ。精霊系魔物は自然が溢れて、かつ敵が強い奥地にしかいないとか………。
なので、2週間もてってこ歩いている勇者パーティ。私ならノーサンキューな場所です。みんな薄汚れ始めていますし、野宿って辛そうですよね。幼女には無理です。お断りですね。キャンピングカーが必要なところです。最低でもシャワーとフカフカベッドが無いと幼女はお出かけしません。すなわち、泊りがけのお出かけはほとんどないでしょう。
だって、馬車って途中でお馬さんがねぇ、その中世の知識として知ってましたけど、酷いですね。ご飯を食べながらの話題にならないですよ。なので、街の中では道が結構汚れています。それでも頑張って掃除させているらしいですが………。
「そろそろだぞ、みんな警戒しろ」
父様が感知魔法を使いつつ警戒を促します。ほむほむ、たしかにレーダーに人型の敵を感知しましたね。でも、この人型………ぐにょぐにょと体を歪ませているので不定形です。
「メビウス、新たな敵を感知。識別コードを」
いつもの問いかけをアリスが真面目な表情でします。
「ウィンディーネスライムと名付けます。でもアリス、一つ提案があるのですが?」
「なんでしょうか、メビウス?」
最近思いついた内容です。それを提案すると、メビウスは可愛く小首を傾げて不思議そうな表情で聞いてくる。
「アリスは私の記憶領域を使用して作られているAIです。なので、私の記憶をサルベージして、識別される敵へはその名前を適用してください。私の記憶にない敵だけ、確認をお願いします」
「了解しました。メビウス」
こくりと素直に頷くアリスは可愛いですね。思わず幼女は笑顔になりますよ。可愛い少女の微笑みは見ているだけで、嬉しいです。変態ではないですよ?普通の人の考えかと思います。
「では、ウィンディーネスライムとの戦闘を開始しますか?」
「はい、戦闘開始。デック行きます!」
そう答えて、気合の入れた可愛い幼女は操縦桿を握るのです。
水辺にはふよふよとウィンディーネスの姿の青い半透明スライムがいました。他に動物や魔物の姿はなし。どうやらウィンディーネスライムの縄張りの模様です。敵を取り込んで溶かすらしいです。そして水魔法の塊のような体なそうな。
「『ファントムファイア』」
先制攻撃で叔父様が幻影魔法を使います。あっという間に炎に閉じこめられるウィンディーネスライム。
すぐさま、父様地面を蹴り、砂利を蹴散らしかなりの速度で近寄り攻撃を仕掛ける。
手にいつの間にか持っている松明での攻撃である。その炎で敵を焼くらしい。
デックもいきますよ。ドスドスと足音をたてて、斧を振りかぶり攻撃です。
ウィンディーネスライムは覆われた炎をレジストにてすぐ消し去りましたが、松明の攻撃は食らいます。
ジュワッと煙が生じて、ウィンディーネスライムが怯む。そこへデックの斧攻撃です。右腕にもつ斧をふりかぶり、頭上から振り落とします。
ウィンディーネスライムにグニョンと当たるが、あっさりと弾き返される。むむ、デックの斧攻撃が効かないみたいです。
「メビウス、敵の戦闘力は80です。防御が80だと思われます。注意を」
アリスが素早く適当な戦闘力を教えてくれる。でも今の防御力なら納得です。物理攻撃が効きにくい敵!ふぁんたじぃな敵ですね!
ウィンディーネスライムは叩きつけられた斧など効いている様子もなく、体を波紋が発生するように核を中心に体を震わせる。と思ったら体から水のレーザーみたいなのが撃ちだされました。
デックは回避できるわけもなく、そのまま食らいます。がりがりと体が削られる音がして耐久力がガンガン減っていきます。
「メビウス、今の攻撃で耐久力が6減少。残り耐久力44です」
まじですか。結構なお手前で。やるじゃないですか、ウィンディーネスライム。
そしてウィンディーネスライムは右手を鞭状に変化させて、大きく振りかぶり跳ね飛ばすように横薙ぎに振るいます。
バシンと音がしてデックがよろめく。耐久力が4減りました。
「こいつ、今までと違いますね。こんなのが奥地にいるんですか!」
これは人間族じゃなくて、人族も軽々しく奥地に入らないわけです。弱者なのは人間族だけでなく、人族も世界全体から見たら、そんなに強い種族ではないのですね。
水の鞭でデックがよろめき、後ろに下がる。ズズッと砂利を蹴散らしながら擦るように下がります。
続いて、左腕を鞭状に変化させての横薙ぎ!すぐさまデックの前に盾を突き出して防御です。
バシンと大きな音が響きますが、今度は完全防御できました。耐久力は減りません。
デックへと敵が集中している時に、お爺様がこっそりウィンディーネスライムの後ろに回り込んでいました。
「『火炎斬り』」
そう叫ぶと剣が炎を纏い、お爺様は目にも止まらぬ速さで右腕に持つ炎の剣を右から横薙ぎに振るう。
炎が巻き起こり、空中に火の粉をまき散らし、ウィンディーネスライムに当たる。
ジュワッジュワッと焦げるような音がして、
「グギィィィ」
ウィンディーネスライムが苦し気に悲鳴をあげる。
「ほいっと」
父様も松明での攻撃をします。ウィンディーネスライムへと松明の炎を叩きつける父様。
やはりジュワッと音がしてウィンディーネスライムは苦しむ。
叔父様と母様は後方で待機です。母様は治癒魔法がいつでも使えように杖を身構えていて、叔父様は周りに魔物が来ないか警戒しています。
なかなかできたPTですね。よく連携ができているので、こういうのは慣れているんでしょう。そこに役に立たないデックがポツンと立っています。
「むむむ、アリス。デックが役に立っていませんよ」
「そうですね。次の開発では魔術攻撃を機体に入れることを提案します」
うんうんと私は強く頷く。次は絶対に魔術攻撃も入れておきますよ。何にしますかね?
う~ん、迷いますね。幼女は迷いますよ。可愛く、うんうんと悩んじゃいます。




