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勇者召喚の帝国と人形遣いの皇女様  作者: バッド
2章 けんこくきのはじまり〜
16/21

16話 人形皇女の対人戦

 ごろつきと言っていいだろうね。薄汚れて汚い服。皮鎧を大体の人は着こんでいるが、みんな服も汚くて、髪もぼさぼさ、ドワーフ族、狼人族、狐族、その中に人間族もいた。錆びている短剣や、曲がっている剣を持っている。おいおい、人間族は悪人の中にはいるのねと、私はしょんぼりした。


 まぁ、悪人にはなりやすいのだろう下地はあるが、たぶん戦闘力は低そうであるので、肉壁とかに使われそうだ。


 そんな20人ほどの集団はにやつきながら、こちらを囲んできた。


 そのリーダであろう老いぼれナーガが言ってくる。


「イッヒッヒッ、どうやらそこの角つきは手ごわいみたいだねぇ。私が倒しておくから、他のを片付けな! なに、角なしなんぞ、人間族の兵士にも劣る力だよ」


 角がないって、オーガ族では恥となるんだってさ。折られた時点で人生終了というわけではない。なんとかしてその時は欠損を治す方法を探すとの事。大体は高位の治癒魔法使いに治してもらうらしい。それができないオーガは自害してしまうんだそうな。怖いね、なんというか、どこの侍?という感じです。


 そして自害もせずに、角もないまま出歩くオーガは大体弱者だそうな。オーガの戦闘力は10、ベテラン兵が20なそうな。そして弱者なオーガは5………。弱くても人間族のベテラン兵と同じなのね。悲しすぎるよ、人間族。


 そんなオーガが6人いても、楽勝だと考えたのだろう。集団はじりじりと近づいてきた。そして無人デックとある程度間合いを詰めたと思ったら、狼人族が短剣を振りかざしてかかってきた。


「メビウス、戦闘が開始されました。戦闘試験をこれより開始します」


「了解です。ちょうどいい敵ですね。デックの力を見せてあげましょう」


 無人デックに近づく狼人族は、もっている短剣を見せつけるように近づいてきて、急に横に跳躍した。跳躍した敵へと無人デックが視線を移すと、跳躍した狼人族の後ろにいつの間にかいた同じ狼人族が突っ込んできて、短剣を胸へと突き出してきた。


 無人デックは機械的に最初の攻撃をしてきた相手へと対応を決めた。脅威度を目の前の敵に変えたのだ。そこには機械であるからこそ冷静な判断があった。これが人ならフェイントにひっかかり動揺していただろう。


 盾をすぐさま短剣の攻撃上に構えて防ぐ。カチンと硬質な音がして、はじかれる短剣。驚愕する狼人族。完全にフェイントに引っかかったはずだ。それなのにオーガ族にあるまじき速度で盾を構えて防がれた。力はあるが鈍重なオーガ族なら狼人族の速度ののった短剣を防げることなどできないはず。


 驚愕した狼人族はそのまま頭上から振り下ろされた斧に頭をかち割られて死んだ。


 ドウッと地面に倒れ伏す仲間を見て、すぐさま横に跳躍した狼人族は腰を屈めて低い体勢で無人デックに向かってきた。大柄なオーガなら低い位置からの攻撃に対応できないと考えて、左足へと斬りかかる。


「短剣技『ショートスラッシュ』」


 魔法技も使い、確実に足へとダメージを与える攻撃。魔法力に覆われた鋭い短剣の一撃はたしかに相手の足を斬り裂いた。がりがりと鎧を斬り裂く嫌な音がして、脚へと深手を与える。これで、こいつは終わりだと、口元をにやけさせた狼人族は、そのまま怯みもしない無人デックの右足の強力な蹴りを腹に受けて吹き飛んだ。


 そのままドスドスと怪我を気にしない態度で近づいてくる敵を見て驚愕する。なんだ、このオーガ。足を深く斬られているのに痛みがないのか?


 蹴られた腹の痛みで動けない狼人族は、振りかぶる無人デックの斧により、胴体を砕かれて死んでいった。


 


 私は周辺の状況を確認する。次々と敵を倒している無人デック。敵はヒットアンドウェイで、ちまちまと攻撃を無人デックへと与えて倒そうとしている。だが、斬っても怯みもしない無人デックは狼人族を上回る速度で攻撃をして近づいた狼人族を倒していく。力をふり絞り鉄の斧を振りかぶり攻撃してくるドワーフの攻撃はあっさりと盾で防いで、動きが止まったところを斧で打ち砕く。


 うんうん、素晴らしい。幼女の拍手を送ってあげるよ。パチパチパチ。可愛いおててでパチパチパチ。


 今のところ、耐久力が半分まで削れている無人デックもいない。


「敵はどうやら戦闘力8~15といったところでしょうか。こちらへ攻撃しても怯みもせずに攻撃してくるので、対応ができない模様です」


 アリスがニコリと微笑みながら報告してくる。むむむ、やるね、アリス。段々感情豊かになってきているね。


「このままだと安心して量産できるかなぁ? でもデックはまだまだ改良の余地ありだから制式採用はしたくないんだよね。どうしよっか」


 私は呟いて、想定以上の戦闘力を見せている無人デックを眺める。どうやら怪我を負っても怯みもしなく死を恐れずに全力攻撃ができるデックはかなり強いみたいです。


「メビウス、戦闘試験も良いですが、目の前の敵も対処が必要ですよ」


「おぉ、そうだったね。まずはこの老いぼれナーガさんを倒しておかないとね」


「先程の攻撃から算出するに、戦闘力34はありそうです」


 敵から受けた攻撃を元に算出するアリス。超適当だから信用できない戦闘力だけど、まぁ、いいかな。どうせただの目安だしね。


 そして目の前に視線を戻すと老いぼれナーガが杖を構えて、魔法力を高めていたところであった。ありゃりゃ、隙を見せちゃったね。ゲームなら大失敗だよ。





 裏店のナーガこと、カラスメーは目の前のオーガを油断なく目を光らせて観察した。フードを被っているので顔は見れないが、立派な角をつけているので強いのだろう。人間族の護衛なんぞやっているし、角なしの親分らしいので、力の無い敵だと見くびったのは間違いであった。


 表の店より高い価格で皮を買い取ったが、渡した金はすぐに回収するつもりであった。カモであれば容赦なく、後で襲って回収するのが商売の秘訣だとカラスメーは固く己の考えを信じていた。


 事実、今まではそれでうまくいっていたし、強そうな相手とは戦わない。慎重に店を経営してきたのだ。その中でも今日の客はカモであった。もはや食べごろにしか見えない相手だ。たくさんの良質な毛皮。それを持ってきたのは、どこからかうまく盗んできたのだろう人間族の老いぼれ。そして盗んだ金で雇ったのだろう。腰抜けと思われし角なしのオーガ族。相場より高く買い取っても楽に回収できるとほくそ笑んだものだ。


 そして、いつものようにたむろしているごろつきを雇って、奴らが街から離れていくのを尾行した。どうやら南部に行くらしいので、人間族の国にでも行くつもりなのだろう。その前に片を付けようと先回りを行い、角ありを先制攻撃で倒した後は、ゆっくりと他の連中を殺す作戦であった。


 たいした作戦でもないが、充分だと信じて唱えた魔法。強力な雷の力をもつ魔法ライトニング。直線状に発生する雷は敵を貫いて、後ろの敵まで倒せる魔法だ。これなら角ありを倒して、後ろの角なしの何人かも倒せるだろうと目算していた。もし倒せなくても雷の衝撃で麻痺をして動けなくなるはず。それならば、なぶり殺しにできるだろう。


 だが、それは予想外な終わり方をした。ライトニングを発動させて、たしかに先頭にいた角ありへと命中した。


 だが、ライトニングは貫くこともなく、ただ相手の全身へと紫電を発しただけで終わりを告げた。想定以上の力を相手が持っていたのだ。


 油断ならぬ相手であることがわかった。こいつは角なしを集めてボスになるお山の大将な弱さではない。かなりの強者だ。なぜ、そんな奴が人間族の護衛をと疑問に思うが、すぐさま雇ったごろつきたちへと指示を出す。


 角なしを片付けて置けと命令して、自分はこの角ありオーガを倒すことに決めたのだ。


 ぼ~っと突っ立っている角ありは何を考えているのかわからない。何か考えことをしているのだろうか。


 それならば好機と持っている魔法の杖に力を込める。杖の先端には宝石が嵌っており、自らの集中力と攻撃力を大幅に上げる。杖があるとないとでは威力が全く違うのだ。


 その杖に力を込めると仄かに輝き始めるので、そのまま角ありへと杖を向けて、魔法力を込めて力ある言葉を紡ぐ。


「『ファイアボール』」


 必殺の魔法である。この魔法の威力を喰らえば、ただではすむまい。今までこのファイアボールを受けて無事だった敵はいないのだから。


 そうして生まれた2メートルはある炎の塊が角ありへと撃ちだされる。障壁も作らずに立っていた角ありはあっさりとその爆炎に包み込まれた。轟々と燃える角ありを見て拍子抜けな表情になる。


「考えすぎだったかい? 最初のライトニングで、もはや動くこともできなかったようだね」


 自分が過大評価をしていたと苦笑いをして、他のやつらがうまく角なしを倒しているか確認しようとしたとき


 ばさりとローブが燃え落ちて、その中からオーガ族の姿が現れた。その姿を見てカラスメーは驚愕の瞳を向けた。声が震えて口からでていく。


「サ、サイクロプス? まさかサイクロプス族だっていうのかい!」


 オーガ族とは比べ物にならない巨人族。燃え落ちたローブから現れた全身鎧に身を包んでいる相手の兜から赤い一つ目が光るのをカラスメーは震える身体で見ていた。





 炎に包まれるデック。これがファイアボールですか。この世界のファイアボールはかなり強いとお爺様が言っていたので、なるほどと納得する。神なる紙なテーブルトークゲームの仕様と同じなのですね。


 納得してアリスに聞いてみる。炎に包まれちゃったけど、どれだけダメージを負ったのかな?


「アリス。今のファイアボールでどれぐらいのダメージを受けましたか?」


「そうですね。耐久力がライトニングで1、ファイアボールで3減りました」


 全然減っていない。ダメージゼロにはできなかったみたいだけど、そこそこの強さだね。


「相手の攻撃力はこちらを大幅に下回っていますが、それでも僅かにダメージは負うみたいですね」


 ふんふんと私は頷く。余程防御力が硬くないとダメージゼロは無理かな?


 確認が終えた私は老いぼれナーガを見る。なんだか目を見開いて体を震わせているけど、デックの威容にびっくりしているのかな?


 まぁ、いいや、デックの力をお見せしましょう!慄き恐れてくださいね。

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