13話 数値を決める人形皇女
鬱蒼と繁った草木の中を1人、いや、1機の人形が歩いていた。何十メートルあるのだろうか?天辺が見えないほどの大木。色とりどりの草木。そそくさと草木の下を動く小動物たちはいずれも地球では見たことのないものだ。あったら観光名所間違いなし。世界遺産へと登録しようとして、他国から妨害を受けるだろう景色だ。
その中で動く1機の機体。そうです。私です。可愛らしい美幼女のネム・ヤーダ・カサマー第2王女です。そろそろファンクラブができてもおかしくないですね。会長は私。
そんな私は只今デック1型トライアルバージョンに搭乗しています。いや、本当は乗っていませんよ?本当はお部屋で寝っ転がりながら、目の前のウィンドウを見ています。でも没入型なので、まるでコックピットに乗っている感じがするのです。
そして私はこのデック1型の能力を確認することと重要なことを決めるために、森の中をガションガションと移動中です。
「メビウス、レーダーに反応ありました。識別内容だとターゲットに間違いないかと」
金髪碧眼ロングストレートの可愛いアリスが教えてくれる。
そこ言葉を聞いて、私は半径300メートルを感知できるレーダーを見る。ピコーンピコーンと赤い光点が映し出されているので、指先タップで赤い光点をタッチする。
そうすると光点がどのような敵かを詳細な映像で教えてくれる。虎だ。4メートルはありそうな虎。今はこの先の小川にある水辺で寝ている。
お爺様いわく、凶悪な魔物だそうな。というか、この世界には凶悪な魔物しかいないのでは?人間族には過酷すぎるでしょと声高に叫びたい。
「識別コードをお願いします。メビウス」
アリスの問いかけに、ニコッと幼女な微笑みをして返事をする。
「敵の識別コードはアイアンタイガー、デックの性能試験に付き合ってもらう相手ですね」
そう言って操縦桿を前に大きく倒すのであった。
水辺にてアイアンタイガーはのんびりと寝そべり寝ていた。この森には自分以上の強者は奥にいかないといない。
気をつけるのは人だが、人の匂いはすぐわかる。奴らは金属の物を必ず持ち歩いているからだ。戦えば負けることはないだろうが、怪我を追うのは馬鹿らしい。
のんびりとくつろぎながら、そう考えていたところに、目の前が爆発をした。パラパラと土が爆発したところから散らばってくる。
爆発地点を観察する。なにが起こったのだと。
すぐに気づいた。爆発したのではない。なにかが落ちてきたのだ。落ちてきた物の反動で地面が爆発したように見えたのだろう。
警戒をして起き上がり、爆発した場所を見ると人族が立っていた。オーガ族か?かなり大きい人族だ。木の色をしたフルプレートメイルを装備している人族であった。
どこからやってきた?なぜ匂いがしなかった?自らの嗅覚に自信を持つアイアンタイガーは疑問に思う。風上は川側、すなわち気づかれないで近寄るのは不可能のはず。
そこで気づく。この人族は匂いがしない。生命の匂いも不死者の匂いもしない。どういうことだ?疑問に思いつつも、こちらへとでかい木の斧を持った敵に対して対抗するべく唸るのであった。
立ちはだかった敵の兜の隙間から一つ目の赤い光が輝いた。
衝撃が身体を襲う。着地の衝撃だ。没入感タイプなので、少しだけそんな衝撃を受けた感触がした。
「メビウス、着地時の衝撃により脚部に軽微ダメージ。無視できるダメージです」
アリスが丁寧に現状を教えてくれる。敵の場所まで新魔術の風魔術ブーストジャンプを使ったのだ。効果は足元を風で爆風を巻き起こし、ジャンプすること。まぁ、ロボットにあるブーストジャンプを使って見たかったのだ。
効果は抜群で10メートルはジャンプできたかな?うっひょおーと叫びながら近付いた。ジャンプは凄かった。でも問題は着地だった。衝撃を吸収するシステムは無いから、そのまま着地の衝撃を受けたのである。
やばいところだったよ。まさかの性能試験、落下ダメージで大破とかになるところだったよ。
そう考えて、敵を見る。既に四足を地面に踏ん張って戦闘態勢だ。唸っている。
「猫科って、可愛いよね。くぅ、大きくても可愛いよ。ナデナデしたい」
私はアイアンタイガーを見て、そう呟く。お腹を撫でさせてくれないかなぁ。
犬も猫も好きな私はモフりたかった。倒すの嫌だなぁと考えていたら、地面を蹴りアイアンタイガーが飛びかかってきた。
バッと近付いてくるのを、デックからのフィードバックで冷静に観察できる。私の人形魔術により作られた人形。その人形は搭乗者へとその力をフィードバックさせる。すなわち、高速で動く人形を作れば、高速で操作できる能力が見につくのだ。私の肉体が直接搭乗するわけではない。思考のみで戦うからこその可能な技である。
そういうわけで、私は人形を操作する時には超人になれるのだ。人形が強くなればなるほど強くなる。むぅ、私自身も強くなりたいね。まぁ、幼女だから未来はいっぱいある。それはあとで考えようっと。
アイアンタイガーは素早くデックに突撃してくる。まずはウッドヒーターシールドで防御っと。
アイアンタイガーの突撃をデックは素早く左手の盾を構えて防ぐ。ドシンとアイアンタイガーの突撃が盾に当たる。ズズズと受け止めた反動で後ろに下がるが、なんとかデックは持ちこたえた。
「反撃のウッドアックスだ〜」
私は動きの止まったアイアンタイガーへとウッドアックスを上から振り落とす。ブオンと音がしてアイアンタイガーの頭に命中する。アイアンタイガーは頭を傷つけられて、ギャウンと鳴いて慌てて後ろに下がった。
「ダメージはどれぐらいだろう? アリス」
頭を傷つけられてふらついているアイアンタイガー。だいぶダメージは入ったようだ。血を流して足元もおぼつかなくなっている。次でとどめかな?
「そうですね、先制攻撃が効いた模様です。メビウスが制定した数値から敵の戦闘能力を決定します」
アリスはそう言うと少しだけ沈黙して、再度口を開いた。
「アイアンタイガー、戦闘力を15に決めました。次の攻撃で倒せると思われます」
ウィンドウに映るアイアンタイガーに戦闘力15と表示された。これはデックを基本にして私が独断と適当さで決めた。デックはこんな感じだ。
デック1型
耐久力30
エネルギー180
防御力10
敏捷力10
ウッドアックス 攻撃力10
ウッドカイトシールド 防御力10
なにが10なのかというと、人間族の一般兵を1にして、新兵を10人倒せるという意味。実際に試合をして10人倒したし。
ベテラン兵は5、ギュンター爺さんが25、ウォーレスお爺様が100だ。これも一般兵をどれだけ倒せるかで決めました。
デックの戦闘力ないじゃん?とか言われそうだけど、戦闘力は敵が全ての能力をどこまで使えるのか?ということを表している。
すなわち戦闘力15なら、攻撃力とか防御力、敏捷力のどれかを15までだせるだろうということだ。抗議は受け付けません。適当なので。所詮生命体の力を数値化するには限界があるのだ。ならば適当で良いよね?
でも機動兵器を作るには数値を決めた方が作りやすかったのだ。イメージがしやすかったというのもある。
多分デックはアイアンタイガーの攻撃を2回受けたら壊れる。そしてデックの攻撃はアイアンタイガーには通じない。
私が乗ることで戦えるのだ。私は性能を3倍以上に上げれるので。
というわけで、サクっとふらついているアイアンタイガーへウッドアックスを再度振り下ろした。地面をドスドスと歩いて、接近してからの攻撃だ。ふらついているアイアンタイガーは回避することも無く頭をかち割られて死んだ。
「たいしたことはないですね。少し大きい猫を倒した感じがして、あんまり気持ち良いものではないですよ」
あっさりと戦闘が終了したので、しょんぼり幼女である。
「それに幼女に魔物とはいえ、動物を殺させますか? ネグレクトと呼ばれてもおかしくないですよ? 将来が不安になります」
「メビウスの精神は成熟していると思われます。この世界では必要なことでしょう」
アリスが酷い事を言う。私の前世は美少女で、若く儚くして死んだので精神は成熟していないよ?たぶん、きっと、メイビー。
でもアリスの言っていることもわかる。
「ウィンドウ越しに操作しているから、ゲーム感覚で倒せるから良いんだけど…………。小説とかでも葛藤する主人公がいるよね? 幼女な私もそうならないと良いんだけど……」
ぷるぷる震える幼女な私である。可愛らしく震えているように見えるだろうから、母様が慰めにきたら、おやつにパンケーキを希望しよう。そうしよう。幼女は大変な目にあったのです。
そんな幼女はおやつを希望する時点で、トラウマは生まれそうになかったが、本人は気づかなかった。なにしろ幼女なので。中身が図太い精神をしているからなんてことはないと、ネムは言い張るだろう。
倒したアイアンタイガーを持ち上げて帰ることにする。デック1型は丸太から作った大型機動兵器だ。火力やら耐久力を求めたら丸太になったのだ。素材無いし。大型化は仕方ないよね。どんな機動兵器も最初は大型化していく運命なのだ。ある程度の進歩があってから小型化を目指していく。
アイアンタイガーはその名の通り、毛皮が鉄と同じ硬さを持っている。その硬さで素早く猫科の速さで戦うのだから、普通の敵は倒せない。ベテラン兵でも人間族には勝てないだろう。弱すぎるな、人間族。
4メートルの虎の死体を担ぎながら、ズシンズシンと足跡をたてて森の中を移動する。移動しながら次の機動兵器を考える。これはあくまでも最初の機動兵器。遠距離武器もないのだ。新型が必要だ。
私は開発系戦略ゲームでは常に先進的にしていた。戦場の機体配置は最小にして、開発予算に常にマックスで投資していたのだ。その結果、常に新型で相手を圧倒して倒してきた。
私はこの系統のゲームが得意なのだ。どうやら開拓系も入っているゲームな様子。
この世界をゲームとみなして、生活していこうと考える。ゲーム脳な私にふさわしい。
ふふふ、いつか私の機体の力を、他の人族に見せてやる。連邦軍よ新型兵器の力を思い知るが良い。違った連邦軍は無いか。人族だ。
あ、ちなみに人族とは全ての人型に類いする知的生命体を示しています。人間族はその中でも人と獣の間程度の力しか無い、すなわち人間族という種族だと馬鹿にされているのだ。
ガションガションとデックを帰還させながら私はほくそ笑むのであった。
幼女のほくそ笑む姿は可愛らしくてグッド。早く鏡が欲しい。あとカメラ。先は長いなぁ。




