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勇者召喚の帝国と人形遣いの皇女様  作者: バッド
2章 けんこくきのはじまり〜
12/21

12話 人形皇女は魔術の検証をする

 フカフカのパンケーキがお皿にドデンと置かれている、上にはバターと蜂蜜がたっぷりとかけてあり美味しそうだ。幼女的に満点ですねと満足する。


 そのようになる予定であったのだ。でも、実際のパンケーキは違った。ペタリと平べったくべったりとしていそうで、ナンみたいである。バターものっていない。蜂蜜はたっぷりのっているけど………。


 ちょっとがっかりの私。不満がないのかとテーブルについている家族を見る。家族はホクホク顔でパンケーキを食べて………いや、これはパンケーキではない、ナンだ!これはナンだ~!おっさんギャグではない。ナンであるのだ。


 幼女用のぼろい椅子から、うんしょと立ちあがり、大声を上げる。皆に聞こえるように。


「これは、ぱんけーきではないでちゅ! ナンでちゅ!」


 その言葉を聞いた母様がこちらへと口いっぱいにナンを詰め込んで答えてくれる。


「もがもがもがっ?」


 物を食べながら答えないでください………。母様………。


 本当にこの人次期王様の王妃なの?本当は違うんじゃない?そこらへんのおばさんだよね。私を騙しているんじゃない?と疑惑が生まれるが


 ごくりと口のナンを飲み込んで、母様はようやく口を開いた。


「ナンよ。ネムの言うとおりね。これはナンです」


 そして、再びナンを食べ始める。え?終わり?もっと他にないの?


 だが、がつがつと一心不乱に食べている母様にはこれ以上期待はできなさそうだ。本当に甘味が貴重みたいですね………。


 私が困った表情をしたのがわかったのだろう。父様が返事をしてくれた。


「あ~、なんだ。なんだって、ギャグじゃないぞ? この食べ物って普通に名称を言うだけでもギャグかよとか、ツッコミくるよな………」


 少し自分の発言を聞いて肩を落としながら、話を続けてくる。


「この世界はな………。弱者に過酷すぎる世界だ………。これはパンなんだよ。バターは高価、卵はない。もちろん酵母もない。だから一般的なパンとなるとこれなんだ」


 えぇぇぇぇぇと、私は驚愕した。まじですか。異世界転生最高とか主人公言っているじゃん!あれは嘘だったのか!


「卵がない理由は簡単だ。鶏がこの世界はいない。似ている生き物はいるんだが………」


「そのにていりゅのにしましょー」


 口足らずでも一生懸命に話す美幼女。可愛いね。もう凄い可愛いよね。あ、私だった。てか、似ているなら、それでいいじゃん。


「あぁ、そいつも毎日無精卵を生むし、味も鶏の卵と同じだ。だがなぁ」


 言い淀む父様。なんだよ、なにか問題があるんですか?いや………ここは人間族にとって過酷すぎる世界とかいう話だから、良い話じゃないのか………。


 そこでお爺様が口を挟んできた。もう皿が空なので、食べ終わったらしい。私のパンケーキもどきはあげませんよ?


「ライオンバード。そう呼ばれておる。もう名前だけで想像がつくだろ?」


 おぉぅ………。剣と魔法の世界でライオンバードですか………。嫌な予感しかしないね。


「あいつらは獅子のたてがみをしている雄と何もない普通のメス。あとは毛皮が茶色ぐらいで、他は鶏と変わらん。だがな、卵を取ろうとすると牙魔法を使うんだ。どういう魔法かというと、発動すると皮ぐらいなら簡単に魔法の牙で食い破られる。鉄の鎧も薄い装甲だと貫くのだ」


 お爺様が予想通りの言葉を告げてくる。過酷なる世界を体現していそうな鳥だ。


 おぉ~、いっつふぁんたじぃと私は口を開けて呆れた。なんじゃその凶悪な鶏もどきは。


「なので卵を取るときは命がけとなる。無精卵だからとってもいいと思うんだがなぁ、やつらにとっては違うらしい」


 肩を落としてがっかりしている声音で、父様がお爺様の話を引き取った。


 ほぇ~と感心する。んじゃ、この貧相な料理がもっと悪くなるのかと絶望感に包まれる。今までも、たまに肉がでてくる程度。王都は海に面していてちっこい港があるから、そこから魚を取ってきて食べたりしている。というか、魚を取りに素潜りに行く王様ってどういうこと?


 そこに卵は必要だと思う。絶対に必要だ。幼女の栄養的に。


 他の家族を見ると、苦笑いをしている。なるほど転生の記憶はあるから、みんなが通ってきた道なのね。諦めるという道ですね。


 だが、私には万能なる魔術がある。検証がてら、使ってみましょう。


 まずは食卓を豊かにしましょうか。私の魔術で。そう思いナンを口にするのであった。


 あ、甘いしけっこう美味しい。




 パンケーキもどきを食べ終わった私は訓練場に来ていた。もちろん一人では来れないので、母様に抱っこされている。お爺様と父様は仕事があるらしい。貧乏だからこそ忙しいんだってさ………。


 本当は治癒魔法の使い手である母様も忙しいのだが、私の魔法を確認するには必要という事で急患がでない限りは私についていてくれるそうだ。


 ふふふ、母様のおてては暖かくて好きです。ぎゅっと繋がれている手をぶんぶんと振って嬉しく思いながら訓練場に置いてある木偶人形へと視線を移す。


 私の魔術は万能だ。でも、魔法に比べると欠点がある。いや、長所でもあるんだけど。


 それは何かというと、魔法は『力ある言葉』が必要であり、8割はその言葉の内容どおりに魔法が発動する。イメージは2割というところだ。即ち、10メートルの炎を呼び出すときに、変化できるのは8メートル~12メートルの大きさの炎に変える事ぐらい。それぐらいしょぼい。


 対して、魔術はどうかというと………。


 私は木偶人形へと人形作成魔術を使う。設定はこうだ。ライオンバードの卵を取ってきなさい。10キロ先に巣があるそうだから、そこに行ってくるのです。作戦はガンガン行こうぜ。


 そう考えながら発動すると、木偶人形は見慣れたぐにょぐにょとゴムみたいに変化して人型になった。そうして、いきなり走り出して、どっかに行った。


「あら、命令は何にしたの? なにもしないのに行っちゃったわよ?」


 その木偶人形の姿を見た母様が尋ねてくる。


「あい! たまごをとってくるよーにめいじまちた!」


「へぇ~、自動で? 上手くいけば良いわね」


 わくわく顔になる母様。卵が自動で採ってこれれば食卓は豊かになる。まぁ、多少だけど、卵料理って多いのだ。パンももう少しまともになる。


 木偶人形と私は魔術ラインでつながっている。これは絶対に切れることは無いので、私の目の前にウィンドウに映る景色を確認する。このウィンドウも私にしか確認できない。


 結構な速さで移動している木偶人形こと、デック卵回収タイプ。ちょっと名前可哀そうかな?


 スタスタと勢いよく走り、10キロ走ったところで立ち止まった。キョロキョロと周りを確認しているが、ライオンバードの巣は見えない。たぶん探知魔法を使わないと駄目だ。


 私はデックへ戻ってくるように指示を出す。再び指示を受けたデックは走り出し、こちらへと戻ってくるようだった。


 はぁ~と溜息をつく私。失敗だ。


 その溜息に気づいた母様が苦笑しながら聞いてくる。


「ダメだったみたいね? 残念」

 

 はぁ~と母様も溜息をつく。二人で肩を落としてがっかりしていると、デックの姿が見えた。もう戻ってきたらしい。疲れを知らない、さすがわたしの機動兵器デックだ。


「あら、戻ってきたわ。おしまいかしら?」


 デックの姿をみて、これで実験は終わりかと聞いてくる母様。まぁ、終わりに見えるよね。


 でも、違うのだ。私はデックを元の木偶人形へと戻す。木偶人形へと戻れと念じるとただの木偶人形へと戻る。これは後で改良しないと駄目だね。戻れと思うだけで戻られたら事故りそうだ。なんかパスワードとかを決めとこうっと。


 そして、もう一度人形作成魔術を発動させる。今度はこうだ。10キロ先付近にあるライオンバードの巣を探索して、卵を回収せよ。10キロ地点に到着したら、以降は植物魔術による探知を命ずる。10メートルごとに移動しながら探知魔術を使う事。なお、植物魔術による感知魔法は100メートル範囲のものとする。敵に出会った場合、木剣作成魔術にて木剣を作成。敵を撃破せよ。


 そう長々と考えてからの発動を行った。先程の巻き戻しのようにデックへと変化する木偶人形。


 デックになったら、またもや同じように走り出して、目標地点まで移動を始めた。


 それを眺める私。今度はうまくいくかな?


 ドキドキとしながら、ウィンドウを見つめる。私が何かを行っていると気づき黙って見ている母様。


 転生者の集まりはこういうところが良いね。説明の必要があんまりない。


 デックをウィンドウ越しに見ていると、10キロ地点に到着後、感知魔術を使いながら移動を開始した。ウィンドウにはデックの残り魔法力こと燃料がゲージとなって出ている。そこらへんは何も考えずに発動したので、多分無意識に考えている………。ゲーム的なウィンドウを無意識に作り出す私………。ゲーム脳な美少女だったのだ。前世は。


 燃料ゲージがぎゅんぎゅん減っていく。感知魔術も連続で使うと消費が激しい。持つかな?と不安に思っていたら、ライオンバードの巣を見つけた。そして卵を取りに巣に踏み込む。


 ガオーとライオンらしい声を上げて、攻撃してくるライオンバード。でも、ぎりぎりデックの装甲は牙魔法の攻撃を防いでいる。てか、魔物は叫び声で魔法が発動するって、力ある言葉って適当すぎない?


 木剣で攻撃を繰り出すと、攻撃が効かないとわかったライオンバードは周りで吠えるのみになり、デックはひょいひょいと卵を回収して帰還を開始した。


 おぉ、なんとか持ったよ。良かったと私は嬉しくなる。


「あら、なんだかご機嫌ね? もしかして………」


 期待感を込める母様の声に私は元気よく答える。


「あいっ! たまごをかいしゅーちまちた!」


 ぴょんこと小さくジャンプして喜ぶ。これで今日は卵料理だ。


 見ると、デックが卵を抱えて戻ってきていた。目の前に来た停止したので、確認を母様がする。


「本当だわ、ライオンバードの卵を取ってこれたのね。これは凄いわよ、ネム!」


 喜色満面になる母様。実験は成功だ。これで卵をいつもとれるようになるかも。


 そう、魔術はイメージが大切なのだ。いや、イメージじゃないな。設定が必要だ。マクロを作るようなのものだ。マニュアルなら、自分で動かすので簡単だ。単に植物魔術感知系100メートル有効範囲搭載。木剣生成魔術使用可と作ってしまえば、後は自分で自由に操作できる。私の魔法力も充填されながらなので、出力はオーダー機と劣化量産機といった格差が発生する。


 でもオートだと難しい。アリスは私の記憶領域を利用しているので、正名にAIという名前にふさわしい万能なサポートキャラとなっているが、実際に人形を動かすにはマクロ的な設定が必要なのだ。


 母様が卵をもって喜んでいる姿を見ながら、今回はうまくいったけど、これはオートで動く人形を作るのは大変だと私は嘆息した。


 あ、今日の卵料理はプレーンオムレツでお願いしますね。

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