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勇者召喚の帝国と人形遣いの皇女様  作者: バッド
2章 けんこくきのはじまり〜
11/21

11話 人形皇女の初戦闘

 ハニービーは凶悪な魔物だ。肉食ではないが、敵に対しては容赦なく強力な顎で噛みちぎろうとして、備えつけている針で刺してくる。体長は大きくて50〜60センチぐらい。草食性で通常のミツバチと同じく、いやそれ以上に花から蜜を集めるのが得意だ。何しろミツバチとは比較にもならない大きさだ。集める蜜の量も半端ない。


 そしてこの世界にはミツバチはいない。いるのはハニービーとかキラービーとかである。過酷だ。


 そんなハニービーは農家の嫌われものである。草食性で柔らかい草が好きなので、芽が出てきた麦やら野菜を片端から食べてしまうのだ。害虫扱いだが500から1000を超える数がいるので、農家の人には倒すのは難しいのだ。


 ここに来る前に、そう教えられた私は強く頷く。肉食ではなく、蜜を大量に集める。なるほどボーナスモンスターですな。


 既に蜜がもらえることしか頭にないネムである。それだけ甘味がこの世界は貴重だ。幼女は甘い蜜が大好きなのだから仕方ない。自己弁護終了。


 そう考えながら、ガションガションと移動する。いや、実際にはガションと音はしていないが雰囲気作りのためにコックピットにはそういう音が流れるようにした。

 

 実に無駄な機能をつける私だが、機動兵器のロボットには必要でしょ?いつか簡単な自己判断できる機動兵器も作ろうっと。


 それには強力な魔法力が備わった素材が必要だ。枯れ木では無理。


 私の魔力に耐えられなくて砕けるのがオチだ。あと、燃料も3時間持てばいいほうだろう。燃料はもちろん私の魔力。魔力というか魔術力なんだけど………。うん、他の人と同じく魔法力で良いでしょう。魔術を発動させる力だけど概念は変わらないし。


 適当な私はそう考えて歩みを進める。ちなみに燃料補給はできるけど、その際には新しい人形を作るのと同じぐらい力を消費する。それならば補給はせずに新しい人形を作ったほうが全然良い。あと、アリスはサポート用なので別枠で私の魔法力を常に補給しているので、私の魔法力が無くならない限り消えないし、消えた場合も、あとから復元できる。低コストなので魔法力をそんなに消費することもない、よくできたAIである。


「メビウス。敵感知内に入ったと思われます。注意して下さい」


 アリスが真面目な表情で告げてくれる。なんだかこういうやり取りは楽しい。リアルなパイロットになった気分だ。現実なんだけどね。


「ふふふ、もはや戦闘機など時代遅れになったことを教えてあげます!」


 私は武器を選択する。このデックの能力は単純だ。即ち植物魔術による感知。あとは木の斧を生み出すだけだ。バーニアも銃も無い。まぁ、魔術だから銃はいらないと思うけどどうしよう?今度考えようっと。


 デックが手に木の斧を生み出すのを確認する。


「よし! 戦闘を開始します! 初戦闘です。モニタリングよろしくお願いしますね」


 試作型なのだ。旧デックと未来では呼ばれることになるだろう。そしてこのタイプは私しか作れない。連邦軍の卑怯な爺さんはいないのだ。


 デックを前進させてハニービーの前に行くと、既に警戒から顎をカチカチと動かしていた。そしてこちらの周りをぶんぶん飛び交っている。


「ちょっと気持ち悪いですね。でも蜜を集めてくれるし、我慢して倒すべし」


 目の前に来たハニービーへと私は木の斧をを振り下ろした。ブオンと音がして、躱す暇もなく粉々になるハニービー。でかい図体なので、ミツバチとかよりも速度が全然遅いみたいだ。火力を上げてしまった結果の大型化なのだろう。


 仲間がやられたことに気づいたハニービーが群がってくる。顎で噛みちぎろうと、針を刺して麻痺させようとしてくる。


 回避することも可能だが、私は敢えてその攻撃を全て受け止めた。


 ガチガチと顎をデックに押し付けて噛み切ろうとするが、このデックの装甲は魔術で強化してある。鉄の塊のようなものだ。ハニービーの顎は鉄を噛みちぎれるほど強くはなく、ただ噛んでいるだけであった。もちろん針も通らない。キンキンと木なのに鉄みたいな金属音をたてて跳ね返すのみである。


「木なのにキンキン………。ププ」


 ちょっとツボに入って笑ってしまう。


「メビウス、敵の攻撃によるダメージはありません。問題なしですね」


 アリスが冷静に伝えてくるので、少し恥ずかしくなり返事を返す。


「そうだね、どうやら敵の攻撃では我がデックの装甲を破ることはできないみたいですね」


 そうして操縦桿を握りしめて敵をロックする。


「では旧時代の戦闘機には退場してもらいましょう」


 ノリノリで言葉を発して、私はハニービーへ木の斧を振り下ろすのだった。


 空中を移動するハニービーは地上の敵より倒しにくい。立体的に動くからだ。しかしデックには関係ない。動く速度を上回る攻撃をすればいいのだから。


 しつこく絡んでくるハニービーへと素早く私は木の斧を振り下ろす。粉々になるハニービーを尻目に次のハニービーへと攻撃を仕掛ける。回避しようとしているが、火力を上げて速度を捨てた敵など相手ではない。


 凄い速さで木の斧を振り回し、回避する敵へとその攻撃は追いつく。あっという間に敵を次々と粉砕していく。デックの方が圧倒的にスピードが速いのだ。


「フハハ、遅いっ、遅すぎるぞっ」


 ジャンジャン倒していく。雑草を刈るようにサクサクと。ポテポテと地面へと落ちていくハニービーの残骸。


 数十分後には全ての敵を倒した私だった。


「戦闘試験終了。敵の機影確認できません。全滅させました。お見事です、メビウス」


 アリスが微笑んで褒めてくれる。


 私は鼻高々で胸を張り答えた。


「これにて試作型の試験を終了します。蜂蜜は後方待機の兵士たちに回収させましょう」


 そういって操縦をやめて本体へと意識を戻すのだった。なんというかゲームに集中しすぎた幼女ってだけなんだけど一応意識を戻したってことにしておく。


 意識を戻して気づいた。なんか周りが静かである。なんだろうと不思議に思いながら可愛らしく首を傾げる。なにか問題あったかな?





 カサマー王国の王。ウォーレスこと余は呆然として木偶人形の戦いを見ていた。ギュンターと一緒に木偶人形がやられたあとにハニービーを倒すつもりだったからだ。あの木偶人形なら半分ぐらいはハニービーを削れるのではと期待していたからだ。


 だが、良い方にその期待は外れた。声を震わせて隣に立っていたギュンターが聞いてくる。


「陛下……。あれはなんですか? 単なるゴーレムではないのですか?」


 ギュンターはあれを単なるゴーレム作成魔法でできたゴーレムだと思っていたようだ。まぁ、単なる小枝から生まれたゴーレムだ。一見すると脆弱でハニービーを数匹倒せば良い方だろうと考えていたことは明らかだ。


 だが、余は剣を交えたから知っている。あれはそこそこ強い。熟練兵よりも強く、ギュンターよりも弱いだろう。即ちかなり使えるだろう使い捨ての人形だ。便利極まりない。素材もそこらへんの小枝だ。


 しかし違った。その性能は圧倒的であった。ハニービーの攻撃は木でできているのに、全く歯が立たず、木偶人形の熟練兵レベルでは視認も難しい速さの攻撃はあっさりとハニービーを粉々にしていった。


 なによりあれは攻撃の全てが全力であったのだろう。死を恐れないからこその踏み込んだ攻撃があの速度を生み出しているのだ。剣技魔法は使えないだろうから、余が負けることはないだろうが苦戦するだろうし手傷を負うかもしれん。


 久しぶりに胸が高鳴る。火縄銃を初めて見たときのような高鳴りだ。皆には秘密にしている余の秘密。言わずとも良い秘密だ。記憶も曖昧なので、歴史書からの知識かもしれぬし。違ったら恥ずかしい………。一般的な現代日本人の知識もあるしな……。もしも違ったら大笑いされることは確実だ。やはり秘密にしておこう。うん。


 だが、この武器が強力なのはわかった。これがあれば余の国は独立国として周りからは蔑まれることはなくなるかも知れぬ。


 余はギュンターへと強い視線を向けて囁くように告げる。


「これこそ余の国の切り札となるかも知れぬ。これは最重要機密とする。連れてきた兵士たちにも絶対にこの戦いの内容を漏らさないように言え。怪しいやつは」


 嘆息してきつい声音で命令する。


「斬れ。家族もろとも一族もろとも怪しい奴らは全て斬れ」


 その言葉を聞いて、ギュンターは瞠目した。珍しく跪いて頭を下げて答える。


「ハハッ! ご下命了承いたしました! このギュンター、一命に変えましても!」


 それはこの緩い国にとって珍しい光景であった。人間族を大事にする王家にとってあり得ない命令であった。


 その本気度が伝わったギュンターは跪き命令を受けた。それだけ重要だと感じたからだ。





 ハニービーが全て倒されて、ちょっとした家かと思うぐらいの大きさの巣を兵士たちが解体していく。おぉ、凄いよ、いっつふぁんたじぃという感じ。


 でも巣から取り出す蜂の子はいらないから。日本の珍食?珍食は私は遠慮しますので。いや本当にいらないからね?ご飯に混ぜたりしたらギャン泣き決定だから。栄養がある?わかりました、他の食べ物で補完します。絶対に入れないでね。幼女との約束だよ?


 だが、蜂の子を取り出したあとの巣は凄かった。滝のように蜂蜜が流れるように出てきたのだ。さすがスケールが違う。ほへ〜と口を開けて感嘆して眺める。何人分あるのだろう?私の取り分はいくらかしらん。少なかったら、またハニービー狩りに行くことは決定だ。絶対に譲らない。絶対にだ。


 私は強く決意する。甘味は幼女に必要です。たしか栄養も抜群なんだよね?ますます幼女専用だね。自動ハニービー収穫人形でも作ろうかしらん。検討の余地はあるね。


 むふふと口元をニヤつかせて考える。なにが良いかな?野菜や果物が不味くても小麦は普通だろう。それならばパンケーキ一択かな?


 そんな楽しみなことを考えているとお爺様が近寄ってきた。なんだろうと思って視線を向けるとおもむろにこう言った。


「ネムよ。そなたに人形制作魔法の研究を命じる。とりあえずはこの蜂蜜を売った代金で研究費用を賄うことにする」


 とりあえず私はデックでお爺様の頭を殴っておいた。

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