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節分祭

 とある商店街。

 毎年節分の季節になると『節分祭』と言う催し物が開催される。

 そして、今年もまたその時期がやってきて、それぞれの店の店主が打ち合わせを行うため集会場に集まっていた。


「和菓子屋。今年の豆はどうだ?」

「特に今年のピーナッツは最高の出来だ。さすが豆屋という名前だけあるな」

「うちの豆腐も最高の出来だ。豆腐の『と』の字もわからなかった一般人が、食べた後感動して悪かった足が治ったそうだ」

「そうかい、それぞれ幸先が良いようだな。あとは、この『節分祭』だな」

「ああ、今年は……負けねえ!」


 そして、豆屋、和菓子屋、豆腐屋を中心に、他の店主も首を縦に振る。全員が黒板に書かれた文字を見て、声をそろえて目標を口に出した。


「『打倒! 百戦錬磨の輝夜姫』!」


 ☆


 節分祭で行われる催し物は全て豆に関する屋台を出すというものだった。

 たとえば和菓子屋は射的。専用のおもちゃにピーナッツを入れて、放った先の景品を倒すことができればゲット。

 倒せなくても、放ったピーナッツはその場で食べる事ができる。

 ほかにも豆に関するクイズや、豆のつかみ取りなどが行われる。そして特に盛り上がるのは『豆合戦』だ。


「今年の『豆合戦』に使う大豆は、大きさ、硬さ、全てを吟味した。俺たちに負ける要素は無い!」


 そう言って豆腐屋店主は和菓子屋店主へ話した。


「去年は惨敗だったからな。今年こそは勝ちたいな」

「『勝ちたい』じゃ無い。『勝つ』んだよ」


 豆腐屋の熱い意思に和菓子屋が圧倒されたが、やり取りの最中近くで小さなお客様が百円を渡してきた。


「いらっしゃい。はい、ピーナッツ三つだ」

「あんがとー! いくぞー!」


 和菓子屋の出し物は豆鉄砲の射的。景品はおもちゃから和菓子まで色々並んでいる。


「えい!」

「ざんねーん。惜しいね」

「ううー、つぎだー!」


 ピーナッツの形状はそれぞれ異なり、放った豆がまっすぐ飛ぶ可能性は低い。

 故になかなか難しい。


「やった! たおれたー!」

「おめでとう。はい、マメレンジャーの人形だ」

「わーい!」


 ご当地キャラの節分戦隊マメレンジャー『ズンダグリーン』の人形を少年に渡して見送る。


「へへ、やっぱり子供は無邪気で、それで笑顔が一番だ」


 その笑顔を見るために和菓子屋店主は今日も和菓子を作り続ける。和菓子を食べることで笑顔を一つ作れる。十個作れば笑顔を十個作れる。そんな単純な考えだがそれで笑顔が増えるなら本望だ。


「二百円。六発で良いかしら?」

「あいよ。いらっしゃあああああああああ!」


 不意打ちだった。


 目の前には黒い悪魔、もしくは冷酷の女戦士と一時は呼ばれていた少女が立っていた。そう、『百戦錬磨の輝夜姫』だ。


「冷酷の女戦士とはこれまた懐かしい呼び名ね」

「あ、いや、その」


 和菓子屋は心で叫んでいたと思っていたが、口に出ていたのだろうか。そんな事を考え、口を手で塞いだ。


「まあいいわ。それで、ピーナッツ六個で良いかしら?」

「あ、ああ。二百円頂きました」

「ありがと」


 そして専用のおもちゃの銃にピーナッツを入れて、輝夜は構えた。構えた先は。


「ま、まさか……」


「へえ、今年のおはぎは大きいわね」


 和菓子屋特性『特大おはぎ』に輝夜は銃を向けていた。


 普段は一週間に一個作れるか否かの代物で、半年は予約でいっぱいだった。ただし、この祭だけは特別枠で、この日のために予約ひとつを空けている。

 そしてこの『特大おはぎ』は大きすぎる故に木箱に入っている。

 しかしこれはあくまで店の看板のような役割であり、確かに倒せば景品として渡すが、倒せるはずが無い。射的の大きな将棋の駒と同じような物だ。


 そう思っていた。


『パシュ!』


 放ったピーナッツは『特大おはぎ』の木箱の端に命中した。まるでピーナッツの形からおもちゃの銃の特徴を全て把握しているかのように、今までの客が放った弾道とは思えないほど勢いよく飛び、しっかりと命中した。


「ふむ、やっぱり六発で正解ね」


 まさか、一発目は試し打ちだったのか!

 そう和菓子屋店主は思った。

 隣で豆腐屋が見守る中、和菓子屋店主は腕を組んで結果を待つしかなかった。


『パパン!』


 和菓子屋店主は耳を疑った。普通はおもちゃの銃からは銃声が一回だけ。なのに今二回聞こえたように思えた。

 しかし、それは幻聴ではなかった。


 屋台を見るとピーナッツは二つ宙に浮いていた。そして命中した場所は。


「特注おはぎの……箱の両隅だと!」


 まるでマシンガン。一発一発を入れる必要があるおもちゃの銃に対し、輝夜は高速でピーナッツを入れたのだ。


『パパン!』


 そしてもう一度、二回目の二発の銃声が聞こえた。

 再度同じ場所に命中し、『特大おはぎ』の箱はぐらついた。


「だ、大丈夫だ和菓子屋! やつはあと一発しかない!」


 そうだ。全六発中、一発は最初に終えている。もう二発撃つことはできない!


「甘いわね。まるで餡子(あんこ)よ」


 そして輝夜がピーナッツに少し力を入れた。そう、ピーナッツは二つに割れるのである。


「これで、終わりよ!」


『パパン!』


 放たれたピーナッツは、再度『特大おはぎ』の箱の隅に命中し、ゆっくりと箱は倒れていく。

 その間、和菓子屋店主の脳裏に過去の思い出が蘇った。



『おばあちゃん、おはぎにおこめはいらない!』

『おやおや、どうしてだい?』

『だって、あんこはあまいけど、おこめはあまくないもん!』

『ふふ、そうだね。でもね? こうやってお米さんを餡子で包むことで、お米さんは甘くなるんだ。一緒に食べてごらん?』

『ちいさいおはぎだ! むぐ……おいしい!』

『そうだろう?』

『どうして? どうしておこめがあまくなったの?』

『それは教えられないよ。でもヒントをやろう』

『ひんと?』


『きっと、食べきれないほど大きなおはぎを作れば、答えは見えるかもしれないねえ』



「ばあちゃんとの思い出を、倒さないでくれえええ!」


 ばたあああん!


 そんな音が屋台から鳴り響いた。


「あ、ああ」


 そして、無残にも今年こそ仏壇にお供えするはずのおはぎは、倒れていた。


「ばあ……ちゃん!」


 特大おはぎを飾る理由はもちろんあった。こうすることで、ばあちゃんも一緒に祭を見てくれていると思ったから。ばあちゃんも一緒に祭りを楽しんでくれると思ったからだ。

 おばあちゃん子だった和菓子店主も内心思っていた。こんな巨大な景品にピーナッツなんかで倒れないと。


「いただくわよ。巨大なおはぎ」

「あ、ああ、あああああ!」


 泣き叫ぶ和菓子屋店主に、豆腐屋店主は見守るしかなかった。

 そして、輝夜はそんな泣き叫ぶ和菓子屋を見て無残に思ったのか、『特大おはぎ』を持って和菓子屋店主に言った。


「私は中の米もおいしくいただくわ」

「う、あ」


 言葉が出なかった。

 まるで、和菓子屋店主の過去を知っているかのような口調で話し、そしてその場を去って行った。


「かぐや……ひめ……」


 和菓子屋店主は、しばらくその場で動くことができず、奥さんが屋台の店番を行う事になった。


 ☆


 午後。

 節分祭も盛り上がる中、店の店主たちの戦意は失いかけていた。


「おい、豆屋! 元気がねえぞ!」

「はは、ははは」


 豆屋の目は、まるで絶望をかみしめた後の目をしていた。


「一体何があった!」


 豆腐屋が問いかけると、辛い答えが返ってきた。


「俺が悪いんだ。上限を設定していれば、あんなことにはああああ!」


 豆屋の出し物は、豆当てクイズだった。

 何種類もある豆から、正解を選ぶという難易度が超高い出し物だが、景品も豪華だった。

 正解に応じて、大きい豆腐ハンバーグが提供される仕組みで、精肉店と合同で行っていた。

 そして悲劇は始まった。


『静岡産、宮城産、山形産、もう県名だけ言うわね。北海道、山口、栃木、宮崎……』


 何週、何十週と正解し、ついには豆が無くなってしまった。

 そして豆屋の敗北は精肉店の敗北にもなる。


『特製ソースの材料……買ってくる』


 そう言って、精肉店店主は旅立ってしまった。


「あきらめるな野郎ども!」

「「「!」」」


 豆腐屋の声に、店主全員が耳を傾けた。


「次は『豆合戦』だろ? 最高の豆を準備したんだ!」

「確かに、あれなら……」

「ああ、豆が飛び散るあれなら!」


 そう、豆合戦はある意味で平等であり、ある意味で不平等な催し物。全員が敵であり、全員が味方でもある豆合戦は、一つの希望を持っていた。


 ☆


「えー、それでは節分祭一番盛り上がるイベントの、『豆合戦』を行います」


 豆合戦


 それは、頭に乗せた紙風船に豆を当てて割り、最後に生き残った戦士が優勝となる。

 そして安全の都合上、顔には鬼のかわいいやつを付けて参加するとてもハートフルなイベントである。


「和菓子屋、豆屋。安心しろ。今回の豆の固さや大きさは最高だ。これで負けるわけがねえ!」

「だな! 豆腐屋がそういうんだ。なんだか勝てる気がしてきたぞ!」


 そして意気込んでいたチーム町内会(仮名)は次の瞬間、絶望に落とすアナウンスが流れた。


「なお、食品に対する諸々の事情を考え、投げる豆は袋に入れさせてもらいました」


「「「なにー!」」」


 予定していなかった。まさか、硬さ、大きさ全てを吟味した豆たちが、まとめて袋に包まれて、まるでお手玉のような物へと変わり果てていた。


「ば、馬鹿な! これじゃあ、うまく投げれねえ!」

「まるで運動会の球投げだ!」

「誰がこんな残酷な判断を!」


 そんな不満が漏れながらも、全員が開場となる公園に集まった。白いラインで囲われた場所が今回の試合会場。これの外は場外となり敗北となる。


「だが、輝夜姫も同じルールだ。何も焦る必要はねえ!」

「だな、豆腐屋の言う通りだ!」

「気張って行こうぜ!」


 そして開始の合図『シュッ』が鳴り響いた『パアン』。


「和菓子屋! お前は右方向を頼む! 豆屋は左を……豆屋?」

「豆腐屋……すまねえ……」

「豆屋……お前えええ!」


 豆屋の頭の紙風船は、すでに割られていた。開始と同時に、誰かに割られてしまっていた。


「くそ! 誰が……あ、あいつ!」


 次々と鳴り響く紙風船の音。そして舞い散る紙ふぶき。それはまるで一足先の春を感じさせる桜吹雪のようだった。


「豆腐屋あああ!」


 ドンッと豆腐屋は背中を押された。次の瞬間。


『ぱあん』


 豆腐屋は自分の頭の紙風船を確かめた。丸くて柔らかい紙風船の感触がそこにあった。


「にげ……ろ、豆腐……や」

「わがしやあああああ!」


 何が起こったかわからなかった。

 各地で悲鳴が聞こえてくる。


 次々と紙風船が割られていくのもわかる。


 そして、ようやく豆腐屋は『敵』を見つけて、こうつぶやいた。


「あれは『鬼』だ。何が安全のための面だ。何がハートフルなイベントだ! あれは鬼の(つら)を隠すための、ただの仮面じゃねえか……よおお!」


 パアン


 最後の一つが鳴り響き、終了の合図も鳴り響いた。

 今年の豆合戦の優勝者は、来年まで公園に名前が飾られる。


『輝夜姫』と。


「いや、私の名前に姫はつかないのだけれど」 

 節分の季節。鬼は外、福は内という言葉もありますが、地域によっては鬼も内(家)という場所もあるのですよね。

 今回もノリだけで書いています。もう色々とごめんなさい!あとずんだ大好きです!

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