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ゴミ拾い大会

 某空港。

 ターミナル出口には多くのメディアがある人物達を待ち構えていた。


『出てきました! ホットドックブラザーズのお二人です!』


 一人の女性アナウンサーがそう言うと、周囲の人が一斉にターミナル出口を見る。


「ウェルカムジャパン。アイハブクエスチョン」

「ああ、日本語で大丈夫デス」


 二人のうち一人の男性が帽子を取った。そこから金色の髪がさらりと出てくる。


「ようこそ。日本へ来た感想はいかがですか?」

「HAHAHA、日本人も面白いジョークを言う。まだ僕は日本に足をつけたばかりサ」

「あ、いや、その」


 マイクを持つアナウンサーが対応に少し困る。


「よせ『ブレッド』。あまり女性を困らせてはいけまセン」


 金髪の青年とは代わって、とても大きな黒髪の黒人男性が金髪の青年の肩を掴んだ。


「HAHAHA、ソーリー。でも『ミート』も手が震えている。まるで生まれたてのヤギのようダ」

「当然サ。俺たちがどうして来たか。お嬢さんは知っていますよネ?」

「は、はい。第三十二回町内川開き……ですよね?」

「そう。その『カワビラキ』のためにスケジュールとコンディションを整えて来た」


 ですが……と言って女性はマイクを向ける。


「あの川開きは本来町内のイベントで貴方たちのような世界的有名人が来るとは思えませんし、そもそも川開きまでまだ一か月先ですよ?」


 女性アナウンサーの言う通り、彼らが向かう場所の『川開き』は町内で年に一度行われるイベントで主な内容は花火大会や近所の小学校の発表会。

 しかし一か月前からスタンバイするほど二人のスケジュールに余裕は無い。


「俺たち『ホットドックブラザーズ』が日本のサムライガールを倒しに来た。それに『カワビラキ』では無く、その前に行われるイベントに用があるのサ」

「イエス。エスエヌエスでも時々話題に上がるあの日本人の実力を俺たちがリサーチするのデス」

「その日本人とは?」


「「『百戦錬磨のカグヤ姫』サ!」」


 ☆


 青い空。白い雲。さわやかな風が流れる川の横で、町内の方々が集まっていた。

「ちゅーこって、こいづをくばっから、あづまっだらおらほにもってけさい(という事で、これを配りますから、集めたら私に持ってきてください)」

「ういー」

「へいー」


 メガホンを持って周囲に連絡をする町内会の会長。その言葉に返事をする町内会の方々。一人一人にゴミを拾うためのトングとごみ袋が配布されていた。


「お、『輝夜姫』だべ? 今年もあんがとーなー」

「お前さんがいるどー、川もきれーになっちゃー」

「おまけにオラの目の保養に……イテ! ばーさん、叩かないでくれ」

「何が目の保養だ。ほら、トング持っで」

「ひい、うちの『輝夜姫』さんはおっかねえなあ」


 そう言って老夫婦はトングとごみ袋を受け取り、再度列に戻る。


「いつ見ても仲良しね」


 つぶやきつつも微笑む黒髪の少女。彼女こそ各地の祭りで恐れられているとされている『百戦錬磨の輝夜姫』だが、今日は麦わら帽子に軍手を装備。今までの冷血なイメージから一変して普通の少女にしか見えない。



「で、なんでワタクシまで巻き込まれているのかしら?」



 輝夜姫の隣に並ぶのは同じく麦わら帽子をかぶっている紫髪の少女。その紫髪は一目見たら忘れることができないインパクトがある。


「たまには良いじゃない。殺伐とした光景から一変してこういうほのぼのした日常も良いモノよ? 紫髪のマリーさん」


 かつて二人は祭りのイベントで優勝を競った仲で、今では時々連絡を取り合っている。昨日の敵は今日の友とはこの事だろう。

 珍しく輝夜からイベントのお誘いが来たのではるばるフランスから日本へ飛んで来たのだが、まさか川の近くのゴミ拾い活動のお手伝いに付き合わされるとは思っていなかったとずっと嘆いている。


「というかマリー、貴女友達いないの? 一応言うけど、ここ日本よ?」

「貴女に言われたくないわね! 敵しか作らない『輝夜姫』さん!」


 そんなやり取りもありつつ、町内会長が再度メガホンを持った。


「んだらば、今日はすぺしゃるげすとが来てくれだ。こっちへどうぞ」


 その内容に輝夜は違和感を感じた。


「ゲスト? 貴女(かぐや)のことかしら?」

「いえ、今日の私は『本当にオフ』なの」

「ちょっと待ちなさい。『本当にオフ』で川のごみ拾いに参加するの!? そしてわざわざフランス在住のワタクシを誘う!?」

「しっ」


 輝夜は町内会長の隣に立つ二人の男性を見た。


「グッドモーニング。僕はアメリカから来た『ホットドックブラザーズ』の『ブレッド』だ」

「同じく『ミート』デス」


 明らかに場違いな二人が登場し、町内会の方々は驚いていた。


「はえー。あだまきんきらしてっからにー(はー、頭金色だねー)」

「テレビさみだごどあるっけーねー(テレビで見たことあるような)」

「何の催し物だべなー」


 ざわつく中、町内会長が話を続けた。


「お二人はアメリカで有名な人だちでー、今日はみんなさうんめーほっどどっぐをつぐってくれっとさー(お二人はアメリカで有名な方々で、今日は皆さんに美味しいホットドックを作ってくれるそうです)」

「ほおー。ほっとどっぐって肉屋がたまに作るあのハイカラなやつけ?」

「本場のホットドックは興味あるぜい」


 盛り上がる会場。しかし輝夜の表情は変わらず冷たかった。


「んで、なんと今日は競争もしようってなったんだー」

「競争?」


 ブレッドは町内会会長からメガホンを渡されルール説明を始めた。


「ルールは簡単ネ。時間内にゴミを沢山持ってくるノ。沢山持ってきた人には景品を用意したヨ」


 そしてミートが一枚のパネルを皆に見せた。そこに書かれてある内容に町内会の皆さんは驚いた。


「はえ! 一位にはアメリカ一週間の旅!?」

「入賞は肉が一ヶ月毎日郵送! 豪華だっぺなー」

「ん、入賞ってどごまでが入賞じゃか?」


 その言葉にブレッドが答えた。


「このフェスティバルは皆さんと協力して川を綺麗にすること。僕達ももちろん全力で参加します。入賞のボーダーは……僕達二人が集めたゴミの量以上!」


「おお! 燃えできたっちゃ!」

「がんばっぺねー!」

「あべーな!」


 盛り上がる会場。

 しかしやはり輝夜だけは表情を変えなかった。


「ふふ、楽しそうなイベントになったじゃない。折角フランスから来たのだからこれくらいの楽しみは無いとね」

「ふう、今回ばかりは運が良かったわ。マリー、悪いけど私と組んでくれない?」

「ええ、当然よ」


 そして町内会会長の合図と共に、全員が動き出した。


 ☆


「ミート! 空き缶投げるヨ!」

「イエス。それと右にも鉄がある」

「オッケー」


 ブレッドは泥だらけになりながら川の近くに入り込み、誰も手が出せないであろうゴミをドンドン見つけていた。

 すかさずそれをミートに投げ、それをゴミ袋へ入れる。既にゴミ袋は三つ満杯である。


「はえー、有名人なのにずいぶん大胆だっぺなー」

「てっきり裏にスタッフがいるんだど思ったー」

「HAHAHA、僕はそんなズルはしないヨ。それよりも僕が勝っちゃうヨ?」

「はえー、んだらばオラも気合いいれっちゃーねー」


 ホットドックブラザーズは、アメリカでもかなり人気。その秘訣が『とても親しみ安い』という部分である。

 ホットドックを作らせたら世界一。そして作ったホットドックは老若男女や富豪貧困関係なく食べて貰えるように日々工夫をしていた。

 普通なら泥まみれになったり、ボランティア活動を進んで行うスターは少ない。本人が望んでも事務所が許さない事が多いだろう。

 しかし二人はそれでもなお押し切って泥を浴びる。

 そしてその姿を見た観客は大きな口を開けて笑う。

 口を大きく開けなければホットドックは食べれない。ホットドックを食べさせるにはまず口を開けさせる。それが二人の信念である。

 ホットドックを作るコメディアンという異色の分野に爆発的な人気をもたらした。


「マリー、足下!」

「はーいって、ネズミじゃない!」


 輝夜とマリーペアはいつもの気迫が感じられなかった。

 少し不思議に思ったミートは輝夜達に話しかけた。


「ハロー、カグヤ姫。そしてそっちはマリーだネ?」

「あら、ワタクシをご存じ?」

「ヨーロッパのマリー。まさかジャパンの田舎のボランティアで会うとは思わなかったネ」

「ワタクシもよ。ホットドックブラザーズさん」


「……マリー、すっごく気迫を出しているつもりでしょうけど、麦わら帽子でズボンもまくってる状態では全然怖くないわ」


「そもそも怖い雰囲気を出そうだなんて思っていないわよ!」


 完全に期待外れ。

 ホットドックブラザーズの入手した情報では、百戦錬磨の輝夜姫はどんな勝負も手加減せずに挑み、周囲を絶望の渦へと突き落とす。

 しかし今日の輝夜はどうだろうか。

 麦わら帽子にトングと軍手とゴミ袋。完全に別人である。


「ハア。ガッカリだネ」

「……何がかしら?」

「『百戦錬磨の輝夜姫』はとってもストロング。でもそれはフェイクでした。貴女は偽物ですか?」

「そもそも輝夜姫ってあだ名が不本意よ。それに今日はオフで勝負をする気なんてなかったのよ」

「わかったヨ。ミート、路線変更だね」


 そう言ってブレッドは川とは逆方向の、何も無い所へ歩き始めた。


「『百戦錬磨のカグヤ姫』は、勝てる勝負しかしない。そうアメリカには広めておくヨ。ゴミ袋三つ分あれば僕達の優勝でショ」

「ふうん、勝手にすれば? でも、優勝を決めるにはまだ早いんじゃ無いの?」

「ワッツ?」


 振り向きブレッドは輝夜を見た。

 右手には中がぎっしりと入っているゴミ袋が一つ。

 左手には半分ほどゴミが入っている袋が一つ。


「僕達の半分。全然問題ない……ネ?」


 ブレッドは自分の発言にハッと思った。


『僕達』


 急いで後ろで文句を言いながらもゴミを拾っている紫髪のマリーを見た。正確にはマリーが両手に持っている二つの中がぎっしりつまったゴミ袋を見た。


「……ミート、やっぱり変更なし……いや、本気を出すヨ」

「……イエス」


 ★


 子は親を選べない。

 生まれた時、そこが裕福な家庭であれば、生まれた時は裕福である。

 逆に貧乏であれば、生まれた時から苦労が続く毎日が待っている。


 ブレッドはアメリカの名も無い集落で生まれた。

 そこは川が流れており、周りは山に囲まれている。


 しかし、その川には沢山のゴミで埋め尽くされており、山には沢山の電化製品の不法投棄があった。


 ブレッドが八歳を迎えた頃、母親が病で倒れた。

 その病気を治すためには多額の治療費が必要となり、なんとかしてお金を集めようと知恵を振り絞った。


『川……魚……ゴミ……』


 川に流れるモノを眺めていると、キラリと輝くモノがあった。


『鉄……』


 ブレッドは考えた。

 もし目の前に流れてくるモノ全てがゴミでは無く宝だったら。

 それを使ってお金を作り、母親の治療費を稼ぐことが出来たら。



 そして、いつかこの土地を出て、家族全員で笑って生活できたら。



 ブレッドは川に飛び込んだ。

 ゴミは鋭利なモノもあり、体は傷だらけになった。しかしブレッドはとにかくゴミを集めた。

 とにかく銀色のモノ。そして堅いモノ。持てるだけ持ってそれを一カ所に集めた。

 翌日、ブレッドが持っている一番綺麗な服を着て街へ出た。大きな布の包みを持って、ジャンク機器の販売店へ向かった。


『これをお金にしてください』


 店員は驚いた。

 明らかにスラム街から出てきた少年。そして急にゴミをレジの机で広げ、お金にしろと言われたのだ。


 店員は叱ろうとも思ったが冷静に考えた。

 目の前にはまだ幼い子供。体中のアザを見れば必死で何かを言いたいという想いくらいは察することができる。


『悪いが、これ全てでこれしか渡せない』


 店員は自信の財布から五ドルを取り出した。

 その時の店員の表情は、可愛そうな子供を見る顔そのものだった。


『ありがとう!』


 しかしブレッドは満面の笑顔で店員にお礼を言った。

 そしてお金を受け取ったブレッドはすぐに店を出た。



 病院に到着し、ブレッドは絶望を味わった。



 薬代が高すぎた。

 ブレッドは物価の価値を知らなかった。

 あれだけ沢山の鉄を集めたのに、薬すら買えない。そんな世の中に恨みすら感じた。


 目の前が真っ暗になりながら病院を出ると、目の前には大きなトラックが留まっていた。

 そのトラックは荷台部分がカウンターになっており食べ物を販売できるフードトラックと言われるものだった。

 カウンターから店員がブレッドに話しかけた。 


『少年、どうした。元気が無いのか?』

『薬が買えなかった』


 それだけ言ってブレッドは家とも言えない場所へ帰ろうとしていた。


『待て、少年』

『?』

『病は気からと言うもんさ。ホットドックでも食べて元気を出せ。ほれ』


 そう言って店員は一本のホットドックを出した。


『いらな……』


 いらない。そう言おうとした瞬間お腹が鳴った。


『体は正直なものさ。つまり、これを食べれば元気が出る。俺の言葉を信じて食べてみろ』

『……』


 そう言ってブレッドは一本のホットドックを受け取った。

 

『……!』

『あ、待て少年! ……はあ、あげたつもりだったんだがな』


 ブレッドは五ドルを置いて走り出した。



 家に到着したブレッドは母親の寝室に到着した。


『ブレッド、どこ行ってたの?』

『マム、薬だ』

『薬……え、ホットドック?』


 パン生地に一本のウィンナーが挟まれた簡素なホットドック。


『ブレッド! 盗んで来たの!?』

『盗んでない。僕が稼いで僕が買った』

『か……った?』


 その言葉に母親は衝撃を受けた。

 まだ八歳の子供。お金の使い方も教えていない子供が自分で稼いで、そして最初に買ってきてくれた物が『薬』と言ったことに。


『マム。これを食べて元気を出して』

『……ふふ』

『マム!? 何で泣いてるの! 病気!?』

『違うわ……ホットドックが大きくて……ふふ、口が開けられないわ』


 ブレッドは考えた。

 口が開かない。



 なら、こじ開ければ良い。



『マム、僕は……』



 ★


 ブレッドは血眼になってゴミを探した。

 皆にとってはゴミ。しかし彼にとっては宝の山である。

 空き缶のプルタブ、缶コーヒーの空き缶、酒の空き缶、機会の部品、全てをゴミ袋に入れていた。


「ミート! 袋追加! ハリアップ!」

「イエス」

「マリー、左足」

「今度はムカデ!? ちょっとここどうなっているのよ!」


 草をかき分けてゴミを取る三人。

 ブレッドが大きなゴミを発見し、それを掴んだ。


 同時にそのゴミは輝夜も掴んでいた。


「ワオ、本気にならないと言いつつも、僕が本気を出したらやるんだネ」

「そういう訳じゃ無いわよ。ただ、この大きさのゴミは見過ごせないわね」

「ゴミ……ふふ、サムライガール。いや、ニッポン人はこの大きな鉄の塊もゴミにしか見えないよネ」

「……? そうよ。それ以外何に見えるのかしら?」


 大きな鉄の塊。おそらく車の部品のどこかだろうか。

 誰も回収出来ないまま月日が経ったのか、所々穴が空いていた。


「僕の家は貧乏だった。だからこの鉄の塊ですらお金になる宝なんだよネ」


 ブレッドはグッと力を入れて引っ張る。しかしピクリとも動かなかった。


「勘違いしているのかしら?」

「ワッツ?」


 驚きと同時にブレッドは引っ張られた。


「日本ではこの鉄の塊を『資源ゴミ』と言うのよ。つまり再利用して新しいモノに作り替えるの。宝……とまでは行かないけど、いずれお金になるわー……よ!」

「ワオ!」


 凄まじい力で引っ張られブレッドはついに手を離してしまった。


「それに、もう一つ貴方はミスを犯したわ」

「ミス?」


 そう言って輝夜は両手に持つゴミ袋を見せた。


 ゴミ袋の中には汚れた古着やプラスチック、たばこの吸い殻などがどっさりと入っていた。



「ゴミは鉄だけじゃ無いわよ」



「オーマイゴッド!」



 ☆


「えー、それではー、結果にうづっからー、ここで並んでなー」


 夕日がうっすらと見える川の横で、結果発表が始まった。

 参加者全員が泥だらけで、いつにも無く盛り上がったゴミ拾いとなった。


「ワタクシ、この為だけにフランスから来たの? 改めて思ったけどアホじゃないかしら?」

「そうよ」


 マリーは輝夜にチョップを繰り出すも華麗に回避する。


「んだらばざっくりと紹介すっぺー。まずゴミ袋八個分でー、『ほっとどっくぶらざーず』の二人だー」

「頑張ったなー」

「すげーべ。八個だー」


 拍手が鳴り響く。


「サンキュー。でも皆さんと一緒に楽しく参加できて取っても楽しかったヨー」

「またジャパンに来マス。あちらの広場にてフードトラックを準備したので、帰る際には寄ってください。世界一のホットドックを提供しマス」


 再度拍手が鳴り響く。


「んだらば、次に多かったのは『輝夜姫とマリーちゃんペア』だ。袋十個だ」

「すげーな。二人で十個かえ!」

「さすが輝夜姫だー。あど、初めての女の子も凄かったなー」

「マリーちゃんも外人さんだべ? まだ来てけろな」

「待って、ワタクシいつの間に『マリーちゃん』なんて呼ばれ方してるのかしら!?」


 ステージ上に並ぶ輝夜とマリー。

 その二人を見てブレッドは微笑み、そして輝夜に握手を求めた。


「負けた理由は二つ。一つは君の『本気では無いアピール』に乗せられて油断した。もう一つはゴミを餞別してしまったネ」

「いや、普通にゴミ拾いをしただけよ」

「待ちなさい、普通のゴミ拾いでタイヤとか拾わないわよ!」


 マリーのツッコミにブレッドは思わず笑ってしまった。


「ようやく心から笑ったわね」

「へ?」


 握っていた手を離して、輝夜は淡々と話し始めた。


「どうせ私に勝ってさらに有名になろうとか思っていたのでしょう? 世界一美味しいホットドックを作る『コメディアン』が目的を見失っているんじゃ無いかしら?」

「……オウ、さすがは『百戦錬磨のカグヤ姫』ダネ」

「表面上笑顔でも私やマリーの様な人にはバレるわよ」


 ブレッドはいつの間にか目的を見失っていた。

 最初は母親の薬を買うために川に潜っていた。

 次に母親に元気になってもらう為にホットドックを買った。

 次に母親の口を大きく開かせる方法を考えた。

 次に母親を笑わす為にコメディアンになった。

 そんな業界に染まっていく中でいつの間にかハードルが高くなっていた。


 そしてたどり着いた場所が『最強と言われる人物に勝つ』という目標に変わっていた。


「私は目的があって勝負をしているの。貴方の場合はその目的がブレブレよ。せめて一つに固めてから挑んできなさい」

「クール。じゃあ次はコメディで『正々堂々』と挑むヨ」

「ふふ、日本語が上手ね。まあ、気長に待ってあげるわ」


 そして、輝夜とマリーは『入賞の肉一ヶ月分と書かれたパネル』が渡された。



「ジャストモーメント! え、『カグヤ姫とマリーちゃんペア』が入賞!?」

「せめてアメリカ人にはワタクシのことをマリーと呼んで欲しいわね!」



 そして輝夜がニコッと微笑みながら話した。


「私の目的は『沢山の食べ物』であって、それ以外興味無いわ。それと、ホットドックブラザーズには『ジャパニーズジョーク』の洗礼を受けてもらうわよ?」


 ブルッとブレッドとミートは震えた。そして町内会会長はメガホンを持って大声で優勝者を言った。



「優勝は『町内会三十名チーム』でゴミ袋三十個だ。一週間アメリカだべ!」

「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」



「「NOOOOOOO!!!!」」

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