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町内運動会

挿絵(By みてみん)

 とある小さな小屋に、複数の男女が集まっていた。

「魚屋、今年は大丈夫だろうな」

「肉屋、俺を侮るなよ?」

「ふん、いつもそう言って、結局は全部持っていかれてるんじゃあなあ」

「うるさい。惣菜屋!」


 近日行われる『町内運動会』にて、毎年様々な異名を持つ少女が現れる。

 例として黒髪の悪魔や冷酷の少女など。

 しかし近年統一された異名で、この町内会の人々は対策を練っていた。


「今年こそ、『百戦錬磨の輝夜姫』に何も持っていかせるなよ!」

「「「おう!」」」


 そして会議は終わり、翌日近所の公園で行われる『町内運動会』が開催される。


 ☆


「えー、本日はお日柄もよくー」

 町内会会長が足腰を震わせながら開会のあいさつを行う中、町内運動会参加者の列の中に一人だけ、異常なオーラを出している少女の姿があった。

「今年もやってきたか。『百戦錬磨の輝夜姫』」

「ああ、今年こそは……」

「俺、あいつに買ったら美咲ちゃんとデートするんだ」

 肉屋・魚屋・惣菜屋の店主が見つめる先には、黒髪を腰まで伸ばし、目つきは鋭く、肌は白い。まさに童話の輝夜姫が現実に現れたかと思うほど可憐な少女の姿があった。


 初めて見た人たちは、誰もが目を奪われたが、数分もすればその印象は変わる。


「それでは、最初の競技はー、公園内一周の徒競走です。最速タイムを出した選手は阿部精肉店からの提供で、高級肉が贈呈されます」


「おおおおおお!」

 会場は盛り上がり、その肉を手に入れるために足に覚えのある人達は屈伸や足踏みを始める。

「へっ。輝夜姫は棒立ちか。余裕だな」

「今年こそは!」

 選手全員が準備運動等をする中、一人だけは真剣な表情で少女を見つめていた。それは魚屋の店長である。

 魚屋の店長はその昔、全国大会に出場したことがある。今回の試合では負けられない理由が一つあった。

「魚屋。お前だけが頼りだ!」

「まかせろ肉屋。お前の肉は俺が守る!」


 五人で一グループの徒競走が順次行われる。順番は最初に子供たち。次々と年齢があがるが、最後だけは町内会で決められた選手だけで行われる。

 そして、今年の最後だけは、二人だけ。


 魚屋と、『百戦錬磨の輝夜姫』だった。


「よお、輝夜姫。去年は敗北をありがとう」

「姫はつけないでもらえる? 本名が輝夜だからそう呼んでいるのでしょうけど」

「へっ。今年は敗北をお返ししてやる!」

「返せるならね」


 そして、戦いが、今始まった。


「よーい……どん!」


 一瞬だった。

 距離が短いという問題もあったが、それ以上に誰もが予想を超えた徒競走を見せられた。



「予想より楽しめたわ。あ、お肉はいただくわよ」



「くそおおおおおおおおお!」


「魚屋あああああ! お前は良くやった! 相手が、相手がああ!」

 魚屋と肉屋ががしっと抱き合い、慰める。

「あまり男同士の抱擁は見たく無いわね」

「だまれえええ! くそお、くそおおおお!」


 そして、残酷にも高級な肉は輝夜に贈呈された。



「えー、次は、借り物競争です。最速タイムには豪華景品として佐々木惣菜店より、豪華な缶詰の詰め合わせです」

 アナウンスが鳴り響き、次の競技に移る。

「体力で負けるのであれば、知恵で勝てば良いんだよ」

「惣菜屋……何を!」

「見ればわかるさ」


 不気味な笑みを浮かべる惣菜屋に、全員が唾を飲んだ。

「次の選手―」

 再度五人一組で行われる競技だが、今回は特に特別枠は無い。途中で輝夜が登場した。

「苦しむが良い! 『百戦錬磨の輝夜姫』よおお!」

 借り物競争では、箱の中から紙を取りだし、その内容の物を持っていくというものだった。

 惣菜屋は箱に何かを細工したのか、輝夜の箱には一枚の紙しかなかった。

 輝夜が取った紙には……。


『高級品』


「はっはっは! この田舎で『高級品』とやらをみんなに見せてみるが良い!」


 たったったったっ。


「ブランド品はおろか、この町には大きなスーパーが無いんだ!」


 たったったったっ。


「だからこそ……おい、なんで輝夜姫は走って……」


「はい、先ほどの『高級肉』よ」


「なあああにいいいいいい!(ばたり)」

「惣菜屋あああああああ!」


 盲点というべきだろう。もしくは、惣菜屋が輝夜をどのように負かせるかを周知していれば、負ける事は無かっただろう。

 悔し涙を流しながら、惣菜屋は豪華な缶詰を贈呈した。



「次は最後の競技となりますー。最後は、町一番の腕自慢を決める、腕相撲ですー」

「おおおおおお」


「景品は、遠藤魚店から、高級なタコです」


「おおおおおおおおおお!}

 大きく色鮮やかなタコが、今でも生きたままクーラーボックスに入っていた。

「魚屋。お前の熱い抱擁は受け取った。腕なら俺に任せろ!」

 肉屋の店長が袖をまくり、腕の筋肉を表に出した。

「毎日数キロの肉を持って鍛えた腕は、今日この日の為にある。そして「私は不参加で」とうとうこの競技で『百戦錬磨の輝夜姫』をたおおええええ?」

 唐突の輝夜の不参加に、会場にどよめきが走った。

 アナウンスをしていた人が輝夜に近づき、理由を聞き、そこには衝撃の一言が。


「……タコはちょっと……いいかなって」


「全国のタコ扱ってる店にあやまれええええ!}

「落ち着け! 魚屋! そもそも、何故マグロとか鮭とかじゃないんだ!」

「あのタコはなあ、国産の中でも一番高級な、日本一のマグロに匹敵するタコだったんだああ!」

 魚屋が泣き叫ぶ。

「魚屋。良い考えがある」

「惣菜屋?」


「……全商品を景品にすれば、参加するんじゃないか?」

「なん……だと!」


 その惣菜屋の言葉に、会場の参加者がざわめき、次第に魚屋コールが始まる。


「ふふ、いいわ。他の魚が貰えるなら、参加するわよ」

「……良いだろう」


 魚屋店長が目を光らせ、肉屋店長の肩に手を当てた。


「肉屋、貴様に全てを託す!」

「ばか、まさか!」


「優勝者は、今店に並んでいる商品全部だあああ!」


「おおおおおおお」


 会場には地響きが生まれ、そして輝夜はにやりと笑みを浮かべる。

 町内で一番盛り上がる腕相撲が、今始まった。



 そして、約一時間後、試合は決勝戦へと向かった。

「赤コーナーは、肉屋店長!」

「おおおおお!」

「青コーナーは、輝夜さん!」

「わああああ!」

 両者とも中央の腕を置く台に腕を置き、構える。


「それでは、レディー……ゴー!」


「うおおおおおりゃああああああ!」


 肉屋店長が大声を上げ、腕に力を入れる。あまりの威圧に、周囲は驚く。


 が。


 腕はピクリとも動かなかった。


「ば、ばかなあああ!」

「ふふ、良い力ね。でも、腕相撲は力だけでは無いの。力を込める場所。そしてバランス。全てをバランス良く調整すれば、ほんの小さな力でも大きくなるのよ」


 ゆっくりと腕は、倒れていく。それも肉屋店長の手の甲が台に着く方へ。


「本気を出せば、すぐに倒すことは可能よ。でも、それだと貴方の腕に傷が残ってしまうわ。だからゆっくり確実に倒していくの」


 台すれすれの場所でピタリと止まる。


「ふふ、楽しかったわ。また来年。ここで会いましょう」


 バン!


 最後は少し強めに腕を下ろして、肉屋の店長は敗北する。そして、肉屋・魚屋・惣菜屋の店長は、今年もまた敗北を噛みしめるのだった。

 今までとはすべて変えて、ギャグ路線を一つ書いてみました。こちらは不定期更新となります。楽しんでいただけたら(本当に)幸いです!

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