初めての負け戦闘はコミカルで
8.初めての負け戦闘はコミカルで
「あっ…」
そこに出現した魔物を見て、思わずメアリの口から出たセリフである。
…そう、この魔物はどう見てもあの“アルラウネ”である。
相手が不敵な笑いを見せた瞬間、すぐに白い粉がメアリ達に襲い掛かってきた。メアリは三人のステータスを表示してみた。
三人とも睡眠状態である。
「知ってた……ガクッ」
スピカ「眠くて動けないよぉ」
一応この世界では状態異常にかかっていても意思の疎通はできるようだ。敵の意思もこちらに流れ込む事があるみたいだ。さすがのRPGである。
アルラウネ「と、いうわけで私も喋らさせて貰うわね」
メアリ「これは不覚だわぁ~!」
「あらあら!ざまあないわね!」
「そんなぁ~。油断した油断した油断した」
アルラウネは茨の鞭で攻撃してくる。三人のHPがゴリゴリ減っていく。
「キャハハハ!ここまで見事に油断されたのは久しぶりね~」
そしてメアリ達は茨で縛られた上に消化液を食らってしまった。
「それも知ってたもん!(泣)」
「キャハハハ!能力低下の異常もあるから、次回はその辺をちゃ~んと対策してから来る事ね」
メアリは睡眠状態のまま自分達のHPが減っていくのを見るしか無かった。
『うぅ…折角、せっかく転生したのに……レグルスとスピカちゃんとの思い出をこれから作って行って楽しくこの世界でロールプレイしようと思ってたのに……』
そしてとうとう自分のHPが0になったようだ。世界が暗くなってゆく。しかしメアリは同時にある疑問が思い浮かぶ。なぜあんなに余裕があったのかと。ここで死んだらこの世界から追放されるのであれば、もっと慎重になっていたのではと。
その答えは以前レグルスの言っていた、信じる力で全能が働くというあれである。もちろんRPGは負けることもシステムの一部である。そのことはメアリもよく知っていた。同じ「負け戦闘」であってもその形態は様々である。死んだら最初からのものや、そもそも負けイベントであるものもある。プレイヤー側からすれば戦略的敗北もあり得る。
神に祈る。これが最善手である。メアリは目をあけることにした。
「ここは……?」
周りは真っ白な光に包まれており、雲の上にいるような世界が広がっていた。
「ここは天界よ」
と横からレグルスが話かけてきた。
「うお、レグルスぅ!私もうこの世界から追放されたかと思ったよ~」
メアリはレグルスに抱きついた。
「あら~。でも本音はやっぱりこの世界に残りたかったのね」
もちろんスピカも近くに居た。スピカは起き上がって言った。
「そろそろ天使長様がおいでになるよ~」
するとどこからともなく羽を広げた中性な顔立ちの在り勝ちな天使が現れた。目を閉じたまま徐々に見えてくる光景は荘厳な雰囲気であったが……
「おお~メアリよ、死んでしまうとは情けない」
「やっぱおま、そのセリフかい!」
「ふふふ……私は天使長ミカエル。メアリ殿は初めてのようだね」
「ミカエルさんは神様なのですか?」
「いえ、それは間違いですよ。神とはあなた方の中にある信じる力のことですから。私はその神に頼まれて、ここでロールプレイをしているだけの事です」
「なるほど納得しました」
ミカエルは微笑みを浮かべると、ゆっくり息を吸いながら機械的な表情に戻り、説明を始めた。
「さて本題ですが、ここではデスペナルティを決めて頂きます。特にご希望が無ければ、各経験値と所持金から5%引いて一番近くの町に転送します。もちろんデスペナなしでも構いませんよ」
当然メアリにとってはデスペナ無しなどは考えられない。緊張感が無い冒険はモチベーションに致命的な影響が出るからである。
「やっぱり気が合いますね。それでお願いします」
「承知しました」
信じる力でミカエルを召喚したのであれば気が合うのは当然である。そしてミカエルはもう一つ伝えたい事があるようだ。
「ところでスピカよ、地上界では楽しくやっていけそうか?」
「はい!なんとかなってますよ。でもメアリ達と会ってからもっとパーティで活躍できるようになりたいと思うようになりました」
「それは良かった。昔のお前は魔物から逃げてばっかりだったからのう」
「むぅ、でも今回は油断して死んでしまっただけなのにデスペナ5%って辛いです」
「じゃが今のお前なら大丈夫じゃろう。ところでメアリ殿、実は天界にも冒険できる場所があるんじゃが、そこに寄ってから地上界に帰ってみてはどうかな?」
「そうなんですか。行ってみます」
「うむ。ではまた会おう。さらばじゃ」
とミカエルは天界の町にメアリ達を転送した。そこは雲の上に魔法で作られたと思われる住宅がいくつも立ち並ぶ美しい風景であった。ここにも冒険者ギルドがあるらしい。まずはそこに向かうことにした。
メアリ「レグルスはこの天界の町には来たことあるの?」
「うん。以前死んだ時にねー。でもその時はあまり特別な情報は無かったからすぐ地上に戻ったのよ」
「ふーん。スピカはここに1000年以上も居たんだよね?ここ以外に天界には町とかはあるの?」
「んっとね~。町はここしかないんだけど雲の道と呼ばれてるフィールドがあって、その先に光の神殿というダンジョンがあるのよ」
「へ~。そこには何があるの?」
「そこはパーティ毎のインスタントダンジョンになっていて初回突破限定の報酬がホワイトオーブだと聞いたことがあるわ」
「ふむふむ。それは興味あるね。冒険者ギルドで聞いてみよう」
天界の町の冒険者ギルドはオパール町にあったものと同じような外観の建物だった。例によってメアリは受付嬢に話かけた。種族は天空人と表示されている。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「光の神殿の報酬のホワイトオーブってどのような使い道があるんですか?」
「それはですね、地上界にディアナの神殿というのがあるんですが、そこに捧げるものの一つになってますね。なんでも6種のオーブと4種のクリスタルを全て捧げるとすごいことが起こるとか」
「なるほど。ちなみに光の神殿って難易度はどの程度か分かりますか?」
「えっとですね。他のダンジョンに比べると優しい方みたいですが、平均レベル40くらいの4人パーティが推奨されていますね」
「なるほど。さすがに今じゃ厳しいですね。情報ありがとうございます」
「はい。またお越し下さいませ」
三人は冒険者ギルドから出るとレグルスが言った。
「メアリって意外と情報を聞き出すのがうまいよね。ピンポイントというか」
「ふふ…これが本来の私なんだよ。プレイヤー魂ってやつ。でもアルラウネの時は油断しちゃったから、ここいらで本格的にレベル上げを計画しましょ」
二人「意義なし」