ドワーフ王の依頼
12.ドワーフ王の依頼
案内所の受付ドワーフはゆっくりと語り始めた。
「まず、ドワーフの話の前にアースガルドについて話しておこう」
メアリ「アースガルド?」
「うむ。アースガルドとはこの世界。天界、地上界、地獄界の総称のことだ。数万年ほど前のことだが、アースガルドには多くの人間と知性ある種族、そして神々が存在しておった。それぞれは時に争い、時には協力しながらな。
だが、数万年前にその均衡が崩れ始めたのだ。人間の発明が神々を上回り、ほとんどの神は信仰を失って駆逐されてしまったらしいのだ。いわゆる古代文明というものだな。全盛期には人間は機械の力で無限に近いエネルギーを自在に操ることができたという。だがその代償によって人間たちは住む場所を追われ、心の拠り所も失ってしまったのだ。そしてアースガルドの空気の汚染に歯止めがかからなくなった頃、人間たちは機械を封印する決断をした。そして封印された場所が今の地獄界という訳だ」
受付ドワーフは少し間を置いて再び説明を続けた。
「そして人間たちは知性ある種族の中でも技術と情に信頼があったドワーフに地獄界の管理を任せることにしたのだ。それがドワーフ王国のルーツだな。
そして現在に至る訳だが実際のところ、今のアースガルドは4層構造になっておるのだ。ここドワーフ王国がある地下界は第二層と呼ばれておる。ここにはドワーフ以外にも人間や妖精が住んでおり、火山のマグマを利用した地熱発電によって支えられているのだ。地面と天井は岩石で覆われているが土の精霊に電気を通す仕掛けが施されていて発光するため、快適な冒険が楽しめるようになっているのだ。
そして第一層の地獄界についてだが、ここには堕天した天使や悪魔、機械に憑りつかれた元人間、ロボットなどが存在しておる。地上界の魔王によって魔物化している奴らも多いが、話が通じる奴らも居るから安心してくれ。
それから地獄界にはベルゼブブという主が居るのだが、最近そいつの事でドワーフ王が悩んでおられるようなのだ。余裕があれば頼みを聞いてやってくれ」
受付ドワーフは話が終わると、穏やかな表情でメアリに言った。
「話が長くなりましたが聞いて下さり、ありがとうございます。メアリさんの冒険のご無事をお祈りします」
「こちらこそ、貴重な情報ありがとうございます!」
メアリ達は興味深い話が聞けたと満足そうに案内所を後にした。
メアリ「それじゃ、とりあえずドワーフ王の所に行ってみよっか」
スピカ「いや、その前に宿屋でしょ!どう考えても。火山地下での戦闘でわたしは疲れてるのよ。HP・MP回復しなきゃ」
レグルス「そだね。メアリは相変わらず空気を読むの苦手だね笑」
メアリ「うっ……ごめん」
翌日、宿屋で疲れを癒したメアリ達はドワーフ王との謁見場所へ参上した。ドワーフ王はかなり威厳がある風格であったが、その瞳の奥には厚い情を伺うことができた。
「おお~、そなたがメアリであるか。噂は聞いておるよ」
「お初にお目にかかります。何か悩み事があると聞いて来たのですが、私たちに出来る事であれば手伝います」
「うむ。そう来ると思ってちゃんと依頼を考えておいたんじゃ。成果を挙げてここへ戻ってきた暁には当然報酬も出すぞ。土のクリスタルもな」
「分かりました。その依頼内容というのは?」
「うむ。メアリ殿も話は聞いておるだろうが、ここ最近地獄界のベルゼブブが暴れ出してのう……というのも地上の魔王の力が強まったことに便乗してベルゼブブが魔王の信用を取り付けたいようなんじゃ。恐らく魔王の座を狙っているのだろう」
ドワーフ王はため息をつくと続けて言った。
「悩みというのは、ベルゼブブが強い魔物を集めすぎて、アースガルドの魔物バランスがおかしくなっていることなのだ。つまり、地獄界と魔王城の周辺だけ異常に強い魔物が配置され、その他の地域は弱い魔物ばかりになって冒険者たちのモチベーションを下げているのだ」
「なるほど。それは厄介な悩みですね。それで私たちは具体的には何を手伝えばいいんですか?」
「うむ。地獄界の魔物や強めの魔物を討伐して、後で渡す“ソウルアブソーバー”で魔物の魂を保存して欲しいのだ。そして保存した魂を天界、地上界、地下界のそれぞれ主要なダンジョンの管理人に渡して欲しいのだ。届ける先は天界の光の神殿、オパール町北の峠、王都、王都東の洞窟の先のトパーズ町、地下界の雷の迷宮、この五か所だ」
「だいぶガチなクエストですねー…。大変そうだ」
「特に時間制限は設けないのでマイペースに冒険しながらで構わない。まずは地獄界の入り口に行ってみるといいだろう。入り口周辺の魔物なら何とか倒せるだろうからな。
次にここから一番近い雷の迷宮に行ってみるといい。雷の迷宮は地下界のメインダンジョンになっておる。迷宮の最深部でイエローオーブを入手できるはずだ。
それとこれを持っていくとよい」
メアリはドワーフ王から酸素タンクとソウルアブソーバーを受け取った。
「これがあれば水の神殿に入ることができよう。時間制限はあるがな。それと言い忘れていたがソウルアブソーバーはどんな魔物からでも魂を吸収できるが、吸収する量は魔物の強さに依存するから注意してくれ」
「ありがとうございます♪」
「うむ。それではメアリ殿の冒険の幸運を祈っておる」
ドワーフ王の依頼を受けたメアリたちは謁見場を出てドワーフ王国の喫茶店に入った。
メアリ「ふぅ~…本格的に面白くなってきたわね」
レグルス「そうね~…。ってスピカ、どうかしたの?
「んっとね、武闘家の成長が遅くなってきたから、そろそろパラディンにしようかな~とか思ってたのよ」
メアリ「そっかーいいと思うよ」
スピカは念じると普通にパラディンに転職できたようだ。
スピカ「おお~、転職できたわ。パラディン17Lvみたいね。これでまた成長に期待ができそうね。しかもHPがやばいことになってるわ♪」
メアリ「それは良かった♪これなら地獄界でもある程度いけそうね」
スピカ「フラグ立てるの止めなさいってば~……。わたしHP半分以下になったら逃げるわよ?」
レグルス「こうなるとHPよりも回復が追いつくか心配になるね。私もポーション技術上げていかなきゃなぁ~」
そんな会話をしながら三人は休憩が終わると地下界のフィールド探索に出たのであった。