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 こんな不思議な事態になっていることに僕は期待した。

 もしかしたら何かが始まるのではないか。きっと僕を変えてくれるようなそんな物語が。


 そんな事を考えていると、つまらない授業が終わりお昼休みになった。お腹もほどほどに減り、ぼくは学食に向かうために廊下に出た。


 昼休憩に入ったからか、廊下には多くの人があふれていた。この学園には学食があり、かなりリーズナブルで美味しいと評判のため、学生に人気があった。


 何食か限定という銘を打った定食があるからか、走って向かっている男子生徒や友達と笑いながら歩いている女子など多くの人が歩いていた。



 そんな中、ぼくも周りと同じように学食に向かっていた。

 ただ他の人たちと違うのは、他の人たちの動きを気にしていたことだ。


(やっぱり特におかしな人はいないなぁ)


 もしかしたら、僕と同じようにタイムリープしている人がいるかもしれない。前と動きが違う人がいればその人なら何か分かるのではないか?


 そう考えながら周りを見渡しながら歩いていると、廊下の角を曲がったところでドンッと誰かにぶつかった。


「いたっ!」

「きゃ!」


 ぶつかった拍子にバランスを崩してぼくは倒れてしまった。いたたっ、と思いつつ見上げるとぶつかった相手は女の子だった。


「うわっ!ご、ごめんなさい!」

「えっ?いえ、こちらこそすみません。……大丈夫ですか?」


 そう言いながら彼女は僕に手を伸ばして来た。

 黒髪のロング。切れ目に、なんでも見通すかのような黒い瞳。鼻筋は高く、肌は陶器のように白い。容姿端麗という言葉が似合い、現代の大和撫子と呼んでも差し支えない容貌だ。


「あー、はい。大丈夫です」


 そう言いながら僕は彼女の手を取った。彼女の白い手はとても冷たくてまるで背筋が凍るような錯覚を覚えた。ぼくはそんな事をおくびにも出さず、続けて僕はこう言った。


「考えごとをしてたので、前がおぼつかなかったみたいです」


 そんな僕をみて、彼女は不思議そうな顔をして僕の顔を覗き込んでいた。


「あなた……いえ。ふふふ、珍しい事もあるものだわ」

「珍しい事?」

「ええ、とても珍しいわ。まるでわたし自身を見ているかのようだわ」

「それはどういう……?」


 そういったときの彼女の表情はまるですずらんの花のように笑っていて、それはとても綺麗だった。そして彼女は、はっとした顔をして言った。


「いえ、何でもないわ」


 そういうと、彼女はぼくの横をさっと通り過ぎて行く。ぼくは振り返りながらいった。


「えっ?ちょっとまっ……」


「いずれまた会いましょう」


 彼女は振り返ることなく、呟くように言いながら廊下の角を曲がり行ってしまった。


「行っちゃった……」


 それにしてもいったい彼女の言っていた事は何だろう?とは思ったものの昼休憩はそんなに長くない事に思い至り、食堂に向かった。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 そのあとは特に何事もなく普段と変わらない授業がおわり、放課後になった。


(……よし、おわった。なるべく前回と同じ動きをしよう)


 そうする事でタイムスリップした原因がわかるかもしれない。ぼくは帰る準備を早速始めた。その時、クラスメイトの1人が声をかけてきた。


「あっ、河原くん。いまから帰り?……ちょっと話があるんだけどいい?」


 と声をかけてきた。


 その人は「八雲 直道(やくも なおみち)」という男子で、身長が高く、人柄もよくてクラスの中心人物的な立ち位置にいて、好青年といった風貌の人物だ。


「えっ?う、うん。いいけど?」


 前回と同じであれば彼がぼくに声をかけてくることは無かった筈である。そのため、咄嗟にぼくはYESと答えてしまった。それを聞いた彼はにこやかに言った。


「そう?それは良かった。……あー、でもここじゃなんだし、ちょっと着いてきてもらえるかな?」


 そう言うと彼はぼくの返事を聞かずに、教室の外に歩いていった。


「えっ?えっ、ちょっと……まって!」


 彼があまりにもあっさり行ってしまったので、ぼくは少し呆けた。そしてはっと気づき慌てて荷物をまとめ、彼のあとを走って追いかけた。



 教室から出ると、ちょうどほかのクラスもホームルームが終わったのか鞄を持って、帰ろうとしている人や、これから部活に励むのだろう人があるいていた。そして、いくつかの部活は既に始まっているのか野球部や陸上部の活気のあふれる声が聞こえていた。



 周りを見渡すと、少し離れたところにいる彼はぼくがいることを確認しながらあるいているように見えた。


 (どういう用事なのかな?)


 と思いながらもぼくは彼の後ろから離れないように着いて行った。


 しばらくすると階段が見えてきた。カツカツという小気味の良い音を鳴らしながら、彼がその階段を登っていく。


 ドアに差し掛かる。僕の気づかぬ間に、手に持っていた鍵を用いてガチャリという音とともにそのドアの開閉は自由なものとなった。


 そして、ギギィーという音とともにドアは開いた。



「ここならだれも来そうにないね」


 そう言いながら彼が入っていった場所は屋上だ。そんな彼の後に続いてぼくもドアをくぐった。


 屋上に出ると太陽はサンサンと照らしていているが、風が吹いていて涼しい。ここから見える校庭の周りにある木々は緑の葉っぱを広げ、太陽のサンサンとした光を浴びてのびのびとしている。そんなところにーーーーーー。



「よく入れたね」



 そう。普段は鍵がかかっているのだ。昨今、問題になっている自殺を容易に校内で行わせないためであったり、単純にふざけて落ちる事がない配慮であろう。


 そのため屋上は教員側が文化祭や体育祭など特定の行事で使う時以外には鍵をかけている。ぼく自身も気になって授業の間に開かないか確認したくちだ。


「うん?……あぁ、ちょっと特殊な事情があってね」


 そう言いながら彼は顔をしかめた。


(なにか変なこと言ったかな?)


 そう思ったとき、彼は少し申し訳なさそうな顔で言った。


「それにしてもごめんね?いきなり呼び出して」

「いや、別にいいけど一体何で僕のことを呼んだのかな?」


 ぼくには何故彼に呼び出されたのか分からなかった。


 もしかしたらこれが生意気だったり意気がってる生徒を体育館裏に呼び出すような事なのかな?


 そう思ったけれど、彼の態度からはそう言ったものは見えない。むしろーーー。


「すこし聞きたいことがあってね」


「……えっと、聞きたいこと?」


 彼の態度が気になって反応がすこし遅れた。僕が理解した内容を聞き返すと彼はさっきまでより、ずっと真剣な表情で僕にこう聞いてきた。


「最近、何か変わったことはなかったかな?」


 その言葉に僕は息を呑んだ。


 たしかに僕には思い当たる節がある。ただそれは僕が知っているだけで、彼が知っている事象ではない。


 それとも、もしかしたら彼も僕と同じように時間を繰り返しているのか?


 ……いやそれか、ただ最近の学校生活でのことを言ってるのかもしれない。


「……河原くん?」


「えっ?……いや、大丈夫。うん。特に変わったことはなかったよ」


 そう答えるのがベストだと思った。


 今、僕の周りに起きている事を話したとして、彼が一般人で僕の話を信じなければ僕はただの中二病とされるだろうし、仮に彼が一般人でなかったとして、話したところで僕にとって良い方に向かうかは判断出来ない。


 最悪のケースを考えると、モルモットや実験体となる可能性だってある。


「そうか……」


 その一言から沈黙が続いて、気まずい雰囲気になっていた。彼は何か考え込んでいる様子であったし、僕から話しかけるような雰囲気でもない。


 どうしたものかと思っていたところ、彼の考えごとが終わったようで僕に話しかけてきた。


「河原くんに聞ーーー。」


 そう彼が話しかけたとき、ギギィーという音とともに女子生徒が屋上に入ってきた。見るとそこには、先ほどぶつかってしまったあの女の子がいた。

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