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いち

 真っ暗。


 ーーーーーーーーーto be countinued


 文字が見える。to be countinued?……たしか続くという意味だったはずだ。でもぼくは死んだんじゃないのか?なぜこんな文字が見えるのだろうか?


 周りを見渡す。真っ暗で何も見えない。そんな中にこの文字だけが見える。見返しても同じ文字だった。……いや変化した。


 ーーーーーーーーーmission :今日一日を生き抜け


(これはいったいどういう事だ?……いま死のうとしたのに…そんなぼくに生き抜けって……?)


 また文字が変化した。


 ーーーーーーーーーmission start








 ◇ ◇ ◇ ◇


 はっとして目が覚めた。朝のようだ。まだ少し薄暗く5時ごろだろうか。小鳥が陽気な声でチュンチュンと(さえず)っていた。


 昨日ぼくは確かにビルの上から落ちたはずだった。


 だけどどこも痛くない。足を怪我してても、頭を怪我しててもおかしくない。と言うより生きているなら病院にいるはずなのに、()()()()()()にいた。


 夢だったのか、それにしてはやけにリアルな感覚を覚えている。死ぬ瞬間のあの青空。頭に感じたあの衝撃。薄れゆく意識の情景(じょうけい)。そのすべてが夢だったのか?胸がバクバクと脈打(みゃくう)っている。つい先ほどまで死ぬ瞬間だったあの高揚感が残っている。


 ぼくはベットを降りて、リビングに向かった。まだ誰も起きていないようで電気もついていない。


 テレビに電源を入れるとニュースが流れ始める。


「6月9日の天気予報をお伝えします……」


(おかしい。確かに昨日が6月9日だったはずなのに。正夢を見ていたのか…?)


 ぼくは気味が悪くなって、自室に戻った。

 部屋に入ると立ち鏡がある。なぜか気になって覗く(のぞく)と普段通りのぼくの顔だ。その時ーーーーピコンッ!という音が聞こえて鏡に映るぼくに


 ーーーステータスを表示しますか?ーーー


 と映っていた。正直意味がわからなかったが、「はい」を選ぶ事で何か分かるかもしれないという淡い期待が浮かんだ。だからぼくは「はい」を選んだ。

 選ぶのは案外簡単だった。思うだけでカーソルのキー選択のように「はい」を選んでくれたからだ。


 ーーーステータスを表示しますーーー

 名前:河原 辰馬かわはら とうま

 種族:ヒューマン

 職業:学生

 年齢:16歳

 状態:通常

 レベル:1

 HP :15/15

 MP :20/20

 攻撃力:5

 防御力:8

 魔力 :10

 回避 :35


 スキル

 《運命の奔流(ほんりゅう)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


(なんだこれ?数値化されてる…?スキルってなに…?それに運命の奔流って一体…?)


 理解不能の状況に置かれている僕は、ご飯を告げる声が聞こえるまで、しばらく呆然としていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 気づけば、いつもの通学路を歩いていた。

 天気が良く、青空が広がって太陽がサンサンと降り注いでいる。歩くには暑いくらいでじっとりとした汗をかき始めていた。


 ぼくは東雲(しののめ)学園に通う高校1年生の生徒だ。

 学園は各学年に300名ほどで、1学年9クラスある学校だ。生徒の自主性を尊重するというモットーで、何かあってもわりと放置される事が多い学園でもある。


 そんな学園に向かう途中に周りを見渡せばぼくと同じ東雲学園の制服を着た人達が歩いている。


  もしかしたら周りの人のステータスも見えるのかな?


 そう思い、目線の先にいる女学生をじっと見つめた。しかし、その女の人にステータスの表示はされなかった。


  (自分のステータスしか見えないのかな?)


 そんな視線を感じたのか、その女学生が振り返り、目が合ってしまった。ぼくはなんとなく後ろめたさもあり、咄嗟(とっさ)に目をそらした。


 目をそらしたあと、彼女は首を傾げながらも前に振り返り再び歩き始めていた。


 なんだ。他の人のステータスは見えないのか。そう思いながら僕は東雲学園に向かって歩き続けた。



 学校に着き、下駄箱から教室に向かって歩いているときにやはり()()()を感じた。いや、違和感と言うよりもデジャヴだ。夢で見た時と同じところに同じ人達がたむろって話をしている。


 話している内容も今日の授業の事や、次の休みに遊びに行こうと誘う内容で、昨日聞こえた通り話だ。


 ぼくの胸がドキドキと鼓動をうっているのがわかる。これは、恐れなのか、期待なのか、それともそのどちらもかーーー。



 教室に着いた時も同じだ。夢で見たのと同じ場所に同じ人がいる。ぼくは自分の席に座った。周りから聞こえてくる内容もやっぱり記憶している通りだった。


 この時になってぼくは確信した。夢で見た事は……昨日の出来事は……いや()()()()()()は夢じゃない。


 この後起こるであろう事もきっとその通りになる。

 例えば、教室の教壇で遊んでいる男子達のひとりがこけて、女生徒が座っている机にぶつかったところに先生が入ってくる事とか。

 あっ、ちょうど今の時間だ。


 ほかの男子と(たわむ)れていたひとりの男子学生が押された拍子に体勢を崩し近くの机、そう女生徒がいる机にぶつかって、机と女生徒が倒れた。

 周りからうわっ!とかキャーと言う悲鳴があがったその時、ガラガラーっと言うドアを開ける音とともに先生が入ってきた。


「こらー!なにやっとるんだ、ここは遊び場じゃないんだぞ!!」


 と言う、混沌とした朝のホームルームから学校が始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 そんな事がありつつも授業はいつも通りに始まった。

 とは言っても、ぼくにとっては2回目の授業である。


 昨日の通りであれば、特に内容を確認する必要のない授業だ。普段から友達のいない僕は授業はきちんと受けており、重要なことはしっかりと覚えているつもりだ。


 そんなこんなで、とりあえず現在までの僕に起きている事について考えないといけない。どうして僕がタイムリープをしているのか。


  やはりこの事が1番わからない。あの時僕はたしかに飛び降りたはずだ。痛みもあったし、まるで現実のような感触(かんしょく)がいまでも手に残っている。


 もしかすると全てが夢であって、それが正夢になっているかとも思うけれど、それにしてはリアル過ぎる。


 正夢であれば予知夢のように当たっているし、何もかもがその通り過ぎて、予知夢というより未来を辿っているという方がしっくりくる。


 それに加えて、ビルから落ちた後に出てきた文字も不可思議だ。「今日一日を生き延びろ」というmissionは何なんのか。もちろん意味は分かるが、恣意的(しいてき)な内容だ。


 そんな事を考えていると、


「かわはらー、そんな百面相(ひゃくめんそう)してどうした?わからない所でもあったのか?」


 と先生から、心配するような調子で声をかけられた。


「いえ、特になんでもありません」

「ん?そうか、特にないようなら授業を続けるぞ」


 そう言って、また黒板に文字を書き始めた。


 きっとこの後書く内容も、この後起きる事も僕の記憶通りなんだろうなと思った。


 そしてやっぱりその通りだった。


 次の授業間の休憩では、1人の女生徒の机に集まって昨日のテレビの話をしていたり、日直の女の子が黒板の字を消したりしている。


 他にも次の授業の宿題を書き写している男子。ケータイを取り出して何か記事を確認している人もいた。



 授業は世界史。いまはギリシャの歴史について話している。先生が面白そうにギリシャの話をしている。古代ギリシャでは自らを『ヘレネス』と自称し、それ以外の異民族を『バルバロイ』と呼称したという話。ホメーロスによる二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』がギリシャの文化の起点になっている話。


 そうした話を1度目の僕は面白く感じ、真剣に聞いていた。いまはそれをなぞるだけ。1度目ほど面白くは感じない。


 だから朝から感じている事は間違いない。


 これらは正夢ではなく、ましてや予知夢でもない。そのままの軌跡(きせき)をなぞっているだけだ。未来という軌跡をーーー。



 だからこそ現状を考えれば考えるほど分からない。なぜこんな状況になっているかが。



 そもそも、ぼくが未来を見えたところで、未来を辿(たど)ったところで誰が得をするのか、それにmissonの内容だ。ぼくを生かそうとする意味が分からない。



 そして自分のステータスが見える意味。自分自身のステータスは見えるが他の人のステータスは見えない。比較して見ることができないから、僕自身のステータスがどうであるのか判断がつかない。


 わかるのは見えるという事だけ。


 それが普通と比較して凄いのか凄くないのかすらもわからない。


 とりあえずなぜこんな状況になってしまったのか、正直よく分からないし、とりあえず情報の確認をしてみることから始めよう。


 あの日ーーー。


 1.ぼくは屋上から飛び降りて自殺した。


 2.暗闇の中、to be countinued...の文字とともにmissionがスタートした。


 3.起きると自殺した朝になっていた。


 4.何故かしらステータスと言うものが見えるようになっていた。



 ……こうしてみると、なんか信じられない事ばかりだな。


  ゲームが始まったようにmissionがスタートしたし、ステータスは見えるし、世界が繰り返している。まるでホントに突然ゲームの中に入り込んでしまったかのようだ。


 とはいえ、いくら考えても情報が少なすぎる。

 何故戻ったのか、何故ステータスなんてものが見えるようになったのか?そんな疑問はいくらでも浮かぶ。ただ、答えにはたどり着けない。



 こんな事を考えているぼくに気づいて、ふっ、と自嘲(じちょう)気味に笑った。


 ぼくは、この状況を楽しいと感じている。死ぬほどまでに絶望して、(さげす)んだこの世界の事をもっと知りたいと考えてしまっている。


 どうせ一度は無くなったはずのものだから、もっと楽しんでみたい。


 ぼくは何もない日々から抜け出して、きっとこんな非日常を待ち望んでいた。

 誰も彼もがモノクロの、何もないあんな世界から、胸がドキドキなり、心躍るようなこんな世界をーーー。

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