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凱旋の五重奏 ~最強と呼ばれた少年少女達~  作者: 渚石
第一章  ~伝説の魔剣~
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第8話 響き始める四重奏

二人はプリキュア!

「「すいませんでしたーーっっっ!!!」」

 虫や動物たちの五月蠅い鳴き声も鳴り止んできた、月の支配する空間。草木は淡い光で照らされ、辺り一帯の生き物を寝かしつけているような、そんな幻想的な闇夜が訪れている。

 安堵、安らぎ、癒やし。一般的な闇とは全く異質の闇がそこにはあった。


 あった。今は亡きあの空間がそこにはあったのだ。


「うん、謝罪の言葉は聞き届けたよ。それで?僕の部屋の前で何をしていたの?」


 般若や鬼神や悪魔。人間にとって恐ろしいものはたくさんあるだろう。

 しかし、ガレスとガレットは現在を以て断定できる。一番怖いもの。それは―


 ―怒り狂ったレイヴンであると。


「謝ってほしい訳じゃないんだ。僕は理由が聞きたい。さっきから言ってるよね?耳はついてるでしょ?脳みそで理解してるでしょ?」


 鬼の形相でガレスとガレットを睨むレイヴンの背後には、気のせいだろうかオーラでかたどられた魔神が見えている……。今にも拳の鉄槌を叩きつけてきそうな鋭い目で人を殺しかねない視線で貫かれている二人は、なんとかして神の怒りを静めようと言い訳を開始した。もちろん、正座で。


「ち、違うんだレイヴン!落ち着いてくれ!こいつが!こいつが最初に言い出したんだ!」


 まさかの裏切り。『お前が息子で良かったと心底思うよ』という数十秒前の発言は一体なんだったのだろうか……。


「あ!?きたねーぞ親父!!そもそも「おい、レイヴン何かあったのか?元気がないぞ。」ってさも自分の奥さんが浮気してたらどうしようみてーな深刻な表情で話しかけてきたのは親父の方じゃねーか!!」


 ガレットも負けじと反撃を開始。醜い争いが今幕を開けた……!!


「おまっ、母ちゃんは浮気したことなんてないですぅ!!俺の最愛の奥さんなんですぅ!」

「うるっせ俺は覚えてっからな!俺が10歳の頃今さっきみたいな表情で「俺……母ちゃんに嫌われたかも……」とか言いながら相談してきたこと!」

「ぴょっ!?それは男同士の約束だっただろ!?言わねえってあの新月に誓ったじゃねーか!!」

「新月って月見えてねーじゃねえか誓った記憶すら無いわ!!」

「それでも地球は回ってんだよ!」


 わーぎゃーと喚き立てる二人に更なる試練が舞い降りる。いつの間にか愛剣である「紅双子(ツウィンズエリュトロン)」を取り出していたレイヴンが二人の喉元にギラギラと光るそれを突きつけたのだ。次関係ないことを喋れば殺す、と。醜い争い、閉幕。

 このとき、二人は初めて無機物と会話できた気がした。ガレットとガレス曰く「あのときレイヴンの光り輝く紅双子は確かに語っていたんだ。「僕もあんまり人を斬りたくないから大人しくしてね~」と言っていた。」とのこと。


「「申し訳ございません。貴方様の様子を見ようと聞き耳立てていました。」」


 冷や汗というより、ひどい雨漏りのように顔から水を垂らしまくる二人は、ようやく正直に訳を話し始めた。


 学校から帰ってきたレイヴンの様子がおかしいと気づいた珍しく休日中のガレスが、ガレットに「レイヴン、何かあったのか?」と尋ねたところ、ガレットは「親父もそう思ったか。実は俺もそう思ったんだよ。」と答えたのだという。

 あれこれ考えるうちにひどく心配になった二人は夜中にレイヴンの部屋の前で探りを入れようと計画を立て決行、そして無惨にも失敗し今に至る、ということだそうだ。


 ちなみに、心配だという割にレイヴンの様子がおかしい原因として考えられたものが全然深刻でないことは言うまでも無いだろう。『友達に「UFOは、あります!!」と言われ反論できなかったことに落ち込んでいる』だとか『ちんこの皮がこの歳になっても剥けないから落ち込んでいる』だとか。確かに後者は男にとって死活問題であるのかもしれないが……。


「そう……だったんだ。」


 過程や行動がどうあれそれが自分のことを思ってのことだったので、すっかり怒る気力を抜かれてしまったレイヴン。きっとまたよからぬことを企んでいる思っていたのだろう。


 しかし、どう答えたものか。心配してくれるのは有り難いし勿論自分の抱えてる悩みも相談したい。

 だが、これは自分たちだけで解決するべきものなのではないか。ましてこれがクレア先生の言ったとおり―シルバを強くするためのものならば。


 そうレイヴンが考えていたその時だった。


「なぁレイヴン。」


 先程とは声音も響きも全く違う、威厳を持つ落ち着いた声でレイヴンを呼びかけたのはガレスである。ふざけた雰囲気から一転し、頼りになる大人へと変身していた。姿勢もいつの間にかあぐらに組み替えている。


「お前一人で悩む分には俺らは何も言わん。そりゃ相談したくないことだってあるだろうし、一人で乗り越えるべき悩み……まあ言ってしまえば人生の壁みたいなものは存在する。それにぶち当たってるのならそれはそれで頑張る頃合いということだ。俺らは応援することしか出来ん。」


 ガレスは続ける。だがな―と。


「だがな……俺らはお前の力になりたい。そりゃお前が来てまだ半年も経ってないから俺らに遠慮する気持ちがあるのかもしれないが……それでも俺らはお前の家族だ。甘えたいときは甘えても良いし、わがままも言ってくれて構わない。俺の子供なんだからな。


 ―いや、むしろ甘えてくれ。」


 そう言って、思い切り微笑んだのだった。

 隣ではガレットも胸を張り、いつでも頼ってくれ、とガレスの言葉を復唱するようにそう投げかけた。



「ガレスさん……ガレット……」


 レイヴンの胸中に溢れてこみ上げてくるもの。最愛の母と離され、知らない土地を一人さまよい、死にかけたあげく知らない人に保護され……そこで過ごす日々に慣れたと思えばこんな事態に巻き込まれ。

 こんな短期間で体験するには濃すぎる事柄はきっと、レイヴン自身も知らないうちにレイヴンの神経を摩耗させていただろう。

 その中でレイヴンが持った感情など、二人は想像しか出来ない。いや、想像したとしてもそれは事実には遠く及ばない。百聞は一見にしかずなのだ。


 その蓋すらされていた感情がガレットの言葉によって一気に紐解かれた。自然と溢れ出る涙はそれらが具現化したものだろうか。

 自分の意思に反して漏れ出す嗚咽を抑えようと手で口を覆うレイヴンの中では、今までの幸せな思い出と悲惨な思い出がぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

 父上と母上と一緒にでかけた、生まれて初めてで最後のピクニック。妹リリが生まれたあの瞬間。自分専門の教師から色々な事を教わったあの日々。母上との何気ない会話。そして、裏切られたあの日からの日々。泥水をすすり、惨めさという惨めさを噛みしめ、死の淵まで体験した。そんなものが涙となって一気にこみあげる。


「僕はっ……僕はっ…………」


「もう、楽になっても良いんだぞ。」


「う……あ……っっ……」




 それから約一時間後。

 レイヴンが泣き止んだ頃にはレイヴン本人が寝静まっていた。

 泣き疲れたのか、安堵から来るものなのかそれはわからない。けれど、ガレスとガレットはこれだけはわかった。


 今まで心を開いていなかったなんてことは無いと思うが、これまで以上にレイヴンが心を開いてくれると。


 明日の朝になったら、きっと聞かせてくれるだろう。そう、信じて二人も床についたのだった。




「というわけなの。」


 翌朝、レイヴンは二人の期待通り「話があるから」と朝っぱらから食卓への集合を促した。そこで相談された内容はフェリスの異常なまでの成長、シルバの精神、そしてクレアの言葉についてだった。要は、昨日起こった全てのことである。


「……そう、か。」


 そう重々しく呟いたのは、昨日まで生やしていた無精髭を綺麗に剃り、寝癖もきちんと整えられたガレスだ。両肘を台の上につき、そこから伸びる両手は頭を抱えている。せっかくの整えられた風貌が台無しだ。


 一方ガレットはと言うとまるで自分のことのように真剣に悩んでいた。あごに手を当て、目を閉じている。ここに来て初めて頼られ張り切っているように見えなくもないが、その姿から本当にレイヴンを想っているのだということは容易く読み取れる。


 時々小鳥の鳴き声がする以外、この三人の会話を邪魔する音は何もない。ゆっくりとした、透明ではない真っ白に染められた時間が過ぎていく。


 と、その時だった。


 トントン


「朝早くにすいません。」


 ドアをノックする音と共に玄関の方からレイヴンにとっては馴染みのある鈴の音のような可憐な声が聞こえてきた。その瞬間、ガレスは「え?何ごと?」と玄関の方に目を向けた。ガレットは「おおおおおおんんなのこええええぇぇ!?」と小声で叫んでいる。心の声なのだろうが、しっかり声帯から発声しているところから見るに、さっきまでの考え事は吹き飛んで動揺に頭を埋め尽くされているのだろう。


 レイヴンが席を立ち玄関の方へ向かうと、そこにはドアから控えめに顔を覗かせたシルバ・オキュラスの姿があった。流石に驚きを隠せないレイヴンに、「ごめんなさい」と苦笑を向けている。シルバにしては珍しい表情だ。


「あ、おはようレイヴン。」

「あ、ああ、おはよう。こんな朝早くからどうしたの?」


 いつもなら時間ギリギリにここに来るのに―

 そういいかけたレイヴンを遮ってシルバが頭を下げた。あのプライドの高いシルバが、何の抵抗もなく。そして、その次に可憐な声で紡ぎ出された言葉はレイヴンも、ガレスもガレットすらも想像だにしない言葉だった。


「私に……私に稽古を付けて下さい!!お願いします!!」


 一瞬の静寂が一家に流れ込む。

 それは、ただただ「なんもいえねぇ……」と驚嘆を示しているだけなのだろう。ただし脳天気約二名ですらあまりの驚嘆に固まってしまうほどであるが。


「ダメ……ですか?」


「「ダメなはずなんてない!!!勿論オッケーだす!!」」


 上目遣いを駆使したシルバに、妙に気持ち悪い語尾で一瞬にして了承の意を示したのは奴ら―そう、言わずと知れた脳天気親子二名だ。頬は真っ赤に染まり、目はハートマーク。よく見れば耳まで真っ赤に染まっている。

 シルバの流れるような銀髪に惹かれるような深緑の瞳を見ればそうなること必至であるがしかし、冬場のイカのように釣れたものである。

 自分でやっておきながらそんな親子二名に若干引い……戸惑いを示すシルバだったがすぐに「あ、ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。そう口にしたシルバの頬がヒクヒクと引きつっていたことに誰もツッコんではならない。ツッコめば二名が天界へ召されてしまうから。


「まってよ二人とも!ほんとに?そんなすぐ決断しちゃって良いの!?」


 そこへ待ったをかけたのは他でもないレイヴンである。シルバの唐突の申し出にも驚いたものだが、この二人の何も考えていないような了承にもひどく驚いているようである。

 そこへガレスが近寄ってきた。先程と同じハートの目のままで。

 少しどころかだいぶ気味が悪いので後ずさるレイヴンだったが、ガレスはそんなレイヴンの肩に手を回し、シルバの視界に入らないよう壁の裏へ回り込み、レイヴンの耳に口を近づけてこう囁いた。


「(まて、あの子がシルバなんだろ?ならこの際俺らも関与できるようになっていた方が問題の解決も楽だ。“稽古を付けて下さい“ってことは本人にも強くなる意志があるって事だろう?ならちょうど良いじゃないか。)」


 未だに目を♡マークにして呆けているガレットとは違い、ガレスにはしっかりとした理由があったようだ。流石頼れる男は違う。ガレスの好感度は昨日今日で爆上がりだ。反比例してガレットの好感度はだだ下がりであるが。


 そういうことなら、とレイヴンも頷いてシルバの頼み事を快諾することにした。

 シルバの元へ戻った二人が三人とも稽古の件については了承したと伝えると、シルバは普段の無表情からは考えられないような笑みを以て三人にこう告げたのだった。


 ―よろしくお願いします!


 レイヴンとルージュ親子二名による稽古が始まった瞬間であった。レイヴンとシルバは微笑み合い、ガレスは温かい目で二人を見守るようにその光景を見つめる。あと一名は……もういいだろう。


 こうして、物語はようやく動き出す。まるで、まるで、序章を迎えた事への喜びを遠方まで響かせる綺麗な響く四重奏(カルテット)のように。


最後まで読んで頂きありがとうございます!作者の渚石(ナギサイサゴ)です。

後書きに入る前に皆さんに一つだけお詫びしなければならないことがあります!!この度、作者が題名を間違えていることに気づかず、数日を過ごしてしまったこと。深く深くお詫び申し上げます・・・。正しくは凱旋の五重奏(クインテット)です!ごめんなさい!!


ということで後書きです。

今回の話でようやくですね。ようやく物語が進み出しますね。剣魔舞闘とか魔道士とか今回新たに追加された稽古とか爆発させる要素はたくさんあるので順次爆発させて書いて読んで面白い作品を創っていこうと思います!!

あとあれですね。期末が着実に近づいてて焦ってます。期末前は流石にお休みしますので投稿がなくなったら「あ、あいつ今期末で死んでるんやな。留年率50%の学科なんて大変やな」と哀れみの念を送って下さい。多分死んでます。

感想・評価・レビューが来ると泣いて散って喜びます。一昨日ブクマが来たときは東シナ海に埋まりました(大嘘)


ではでは、次回投稿はきっと明日だと思うのでそこまでしばし!!

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