奪取
キョロキョロ。
照明のほとんど無い、薄暗い廊下を浅野は進んでいた。
…変だな。人一人見当たらない…。
そのまま進んで行くと、一枚の扉。そっと手を掛ける。
ガチャ。キィィー…。
慎重に開け、中を確認する。……やはり誰も居ない。
素早く内部に忍び込み、後ろ手で扉を閉める。
…どうやら研究室の様であった。数台のパソコンが並び、その他にビーカーやフラスコといった器具も置かれている。
…そうだ。何か重要なデータがあるかも…。
一台のパソコンに近寄ると、スイッチを入れ起動させる。
「……色々データがあるな…」
浅野は呟くと、懐からフラッシュメモリを取り出した。本体に挿入する。
「どうせだから全部持っていくか…」
素早くキーボードに指を走らせる。
カタカタカタ。カタ。
『Now downlording』
幾つかのパスワード要求をされるが、浅野にはお手の物だった。次々とデータが取得されていく。
ピコン。
電子音と共に作業が完了する。ボタンを押し、メモリを取り出す。
「よし!これを持って帰れば…!」
その時だった。
「それを渡す訳にはいかんなぁ」
突如上がった声に、思わず身構える。
「誰だっ」
カツ、カツ、カツ…。
物陰から姿を現したのは、サングラスを掛けた大男。不意に浅野の脳裏に、かつて見た事のある資料が浮かぶ。
……一条……?よく似ているが違う。分かる事は敵であるという事……!
「さあ、それを寄越せ」
男がにじり寄る。浅野は状況の不利を悟った。
「ちいっ!」
一直線に扉へと駆ける!
バァンッ!
扉を跳ね開け、廊下に躍り出ると一目散に駆ける。
研究室には、未だサングラスの男が佇んでいる。
ふと、モニターを覗きこむ。
「ほう…。このプロテクトを破るとは。やるではないか…。フッフッフ」
不敵な笑みを残し、サングラスの男は浅野の後を追っていった。