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『TLS第三話』  作者: 黒田純能介
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緊急任務、そして


数日が過ぎた。布津が来てからというもの、情報は無く、また敵の襲撃も起きなかった。


「……」


如月は相変わらず大音量で音楽を聞いている。傍目からは呑気にも見えるが、如月の内心では気を紛らわす事が優先されていた。


ブチッ。


唐突に音楽を止める。


「梶浦」


「んん?」


読んでいた小説から目を放す。


「ちょっと付き合え」


言いつつ如月の手が杖に伸びる。梶浦は苦笑いをすると立ち上がった。



数分後。二人の姿が学園内の湖のほとりにあった。


ヒュゥゥ……。


だいぶ冷たくなった風が、二人の間を通り抜けた。


対峙する。如月の手には白木の杖。対する梶浦の手には黒いトンファーがあった。


今日は休日である。学生の数はまばらだ。仮に見咎められたとしても、彼等も学生である。稽古だと言って切り抜ければ問題無い。


「久々だな」


「……あぁ」


如月がゆっくりと棒術の構えを取る。


それに合わせ、梶浦も構えを取る。


「行くぞ…!」


如月が地を蹴る。


ブンッ!ヒュン!


振り下ろし、続いて二段突き。だが読まれていたのか、ギリギリの所で躱される。


梶浦の右手が動く。



―――来るッ!



咄嗟に身を伏せた如月の頭上を、黒い風が通り抜ける。


トンファーの一撃が回避され、梶浦の隙が大きくなる。如月は見逃さない。


狙いすました一撃。膝だッ!


鋭い突き。狙いはあたわず梶浦の膝に―――


消えた。いや違う!上だ!


大上段より降り注ぐ黒い一撃。だが黙って喰らう訳にはいかない!


如月は突きの勢いのまま、前転で回避する。目標を見失った一撃はそのまま地面を叩き割った。


「…流石だな。アレを躱すとは」


「どういたしまして」


梶浦はニッ、と笑う。


「……少し、本気を出すぞ」


如月の構えが変わる。―――正眼。


如月は再び地を蹴った。




--------------------------------------------------------------------------------




フゥ…。


紫煙が風に吹かれ、掻き消える。


布津の姿が、七号棟の屋上にあった。壁にもたれかかり、煙草を咥えている。



…あれから、一年は経ったのか…。



ふと、かつて自分がこの地にいた時の事を思い出す。


ズキリ。


同時に、呼応するかの如く頭痛が走る。



…もう奴は倒した…。だから黙ってくれ…。



それきり。痛みは消えた。もう一吸い。


フゥ…。


煙草の火を消す。


布津は携帯灰皿に吸い殻を放り込むと、階下に続く階段への扉を開けた。


太陽はまだ、高い位置にいる。




--------------------------------------------------------------------------------




「いやぁ~。めっきり寒くなりましたねぇ!」


再び施設内。立ち会いから戻った如月と、見回りを終えた浅野がいた。


浅野は二人きりの重苦しい空気に耐え切れず、明るい声で如月に声を掛けた。


「……そうだな」


それに対し、如月はぶっきらぼうに答える。



……イヤァァ!機嫌悪りぃ~!



浅野は内心ビクビクしつつも、話題がないか考えを巡らせていた。そんな時。


ガチャッ。


扉が開く。現れたのは梶浦だった。


「ただいま。戻ったぜ」


トイレに行っていたらしい。手にはハンカチと…封筒。


「伝令。届いてたぞ」


「あ。俺読みますよ!」


渡りに船、と言わんばかりに浅野が声を上げる。梶浦が手渡すと、封を切った。


「…えーと。なになに…」


『君達のいる学園の近くに、敵施設の拠点を発見した。どうやら研究所に相当するものであるらしい。至急調査に向かってくれ』


内容はこの文書と、地図が同封されていた。


「施設調査か…研究所ねぇ」


梶浦がぽつりと言う。


「…行くか」


如月が立ち上がると、浅野が不意に言った。


「あ。それだったら俺一人で十分ですよ。こっちの守りもありますし」


浅野がジャケットを引っ掴む。


「一人でか?無茶だ」


「これ位俺だって出来ますよ!」


ジャケットに袖を通す。


「しかし…」


言いかけた如月を梶浦が制する。


「まぁまぁ。任せてやれよ、如月。浅野だってチームの一人なんだしさ」


「……分かった。だが深追いはするな。良いな?」


如月は少し思案してから、そう言った。しかし浅野は驚愕の表情を浮かべ、


「…明日は隕石が降りますね」


ボソリと言った。


「浅野」


「は、はいッ」


「帰ってきたら血祭りだ…」


如月の目が真剣、と書いてマジ、と読めそうな程鋭かった。


「アハハ…行ってきます…」


乾いた笑いを残し、浅野は廊下へと消えた。




--------------------------------------------------------------------------------




浅野が出発してから数分後。


ガチャッ。


再び扉が開けられた。布津である。


「梶浦」


「布津さん。お疲れ様です」


「あぁ。…所で」


布津が持っていた封筒を渡す。


「扉の前に置いてあったが。伝令か?」


「あれ…?伝令ならさっき来てたんですが…」


がたっ。如月が不意に立ち上がる。


「見せろ」


布津の手から封筒をもぎ取り、封を切る。


「………これは…!」


「「?」」


如月の驚きに、二人は顔を見合わせる。


「どうした?何が書いてあるんだ?」


「奴等だ。挑戦状なんぞ送ってきた」


如月は杖を手にし立ち上がると、扉へ向かう。


「どけ」


まだその場にいた布津を押し退ける。


「おいっ!ちょっと待てよっ!」


梶浦の声は届かず、如月は扉の外へと消えていった。


「ああもう!…布津さんすみません」


「構わん。…浅野はどうした?」


「それが…伝令の内容を見て一人で行けるって言ったもので…」


梶浦が伝令を見せる。


「このタイミングでか…。罠の可能性もあるな…」


「え…本当ですか?」


布津はうなずく。


「こちらに情報をある程度流し、動いた所で戦力の分散を図る。常套手段だな」


「じゃあ二人共危ない…!」


「ああ…。梶浦。お前は如月を頼む。俺は浅野の方に行く」


「分かりました!」


梶浦が乱雑に置かれていたトンファーを拾い上げる。


「浅野を頼みます!では!」


爽やかな笑顔を残し、梶浦が飛び出していった。


「………」



出来過ぎているな…。死者が出なければ良いが…。



布津は刀とロングコートを素早く身に着けると、外へ続く扉を開けた。



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