再び立つ者と、確執
コンコン。ガチャッ。
ノックをし、扉を開ける。その先には如月と梶浦の姿があった。
「お疲れ様です」
「よう」
「…あぁ」
短い挨拶を受け、浅野は早速切り出した。
「伝令、届いてましたよ」
浅野はポケットから封筒を取り出す。
「読んでくれ」
如月が気怠そうに言うと、浅野が封を切った。
「じゃあ読みますね。…『アキラ君の件は残念だった。今後また敵の攻撃が予想されるだろう。警戒は怠らぬ様に。尚、そちらに補充人員を寄越す。かつてそちらの支部にいた男だ。十分役に立ってくれる筈。彼と協力し、敵を撃退してくれ。以上』」
「待ちの戦法、か…」
梶浦がボソリと言う。
「…手緩い。こちらから撃って出るという事は考えんのか」
「物騒な事言うなよ。せめて補充人員が来てからだろ?」
「……フン」
如月はそのまま押し黙る。
「あーっと。じゃ、俺また見回り行ってきますね」
「おぅ。頼むぜ」
梶浦が右手を挙げて応えると、浅野は扉を開けて出ていった。
フオオォォン…
一台のバイクが、夜の闇を駆け抜けていく。
……まさかまた、あの地へ戻る事になろうとはな……。
布津はハイウェイを降りると、懐かしい道を辿り始めた。
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一夜明け、今や懐かしくも感じられる学園に到着。
駐輪場にバイクを停め、降り立つ。
…変わっていないな……。
物思いに耽った時だった。
「布津さん…ですね」
自分を呼ぶ声に振り返る。そこには一人の青年。浅野だった。
「初めまして。『CROW』西東京支部、浅野と言います。宜しくお願いします」
浅野がゆっくりと一礼をする。
「布津、純能介だ。宜しく頼む。……早速だが、案内して貰えるか?」
「はい。ではこちらへ」
先に歩き出した浅野の後に続き、布津も歩き出した。
数分後。学園内の施設前に二人の姿があった。
「ここです。では入りましょう」
「あぁ」
浅野がノックをし、扉を開ける。
「失礼します~。補充人員の方をお連れしました~」
浅野が通路を開け、布津を招き入れる。
そこには男女二人が立っていた。背の高い青年と、やや背の低い女性。
「初めまして。梶浦と言います」
言いながら梶浦が手を差し出す。
握手を交わした所で、突き刺さる様な視線を感じ、梶浦の後方に目をやる。
さっきの女性である。今や視線は殺気の様なモノも孕んでいた。
いつまでも喋ろうとしない如月を訝しみ、梶浦が口を開いた。
「えっと、こっちが…」
「言う必要は無い」
如月が梶浦を制止する。
「あ、如月さんで~す!」
不穏な空気を感じ取ったのか、浅野が無理矢理明るい声で言う。もり立てるかの様に手をひらひらさせている。
殺気の籠った視線が、今度は浅野に向けられる。
「浅野……後で締め上げてやる…」
「ご、ゴメンナサイ…」
浅野が後ずさるのを見て、如月は布津に視線を戻す。
「……良く覚えておけ。少しでも妙な動きをしたら」
如月が側にあった杖を掴み、布津に向ける。
「お前を、殺す」
梶浦と浅野が目を剥く。しかし布津は一人、涼しげな顔をしている。
「俺が、怖いか?」
布津はニヒルな笑みを浮かべるとそう言った。
「やはり今殺してやる!」
飛び掛かろうとする如月を梶浦と浅野が押さえる。
「「まぁまぁまぁ!」」
「…ハァ…どうしてこの人はこんななんだ…」
暴れる如月を宥めてから、浅野は一人ごちる。
そのやり取りを眺めてから、布津が背を向けた。
「あれ?何処か行くんですか?」
怪訝に思った浅野が声を掛ける。
「早速見回りにな。それに」
布津は如月を一瞥する。
「そのお嬢さんは、俺の事が嫌いらしいしな」
「チッ…」
その言葉に、如月が舌打ちをする。
それを知ってか知らずか、布津はその場を後にした。