動き出す歯車
都内、某学園。
その一角の施設内に、一人の女性の姿があった。
「………」
耳にはイヤホン。音漏れが激しい事から、大音量で音楽を聞いているのだろう。
その為、誰かが入ってきたのもすぐには気付かなかった。
「おいっ」
コツン。
脳天に拳。顔を上げる。すぐ側に男の顔があった。
「まぁた大音量で聞いてたのかよ。鼓膜イカれるぜ?如月」
如月と呼ばれた女がイヤホンを取る。
「自由な時間位好きにさせてくれ」
如月は目の前の男を睨む。男は苦笑いし、
「タハハ…そんな睨むなよ。恐いぞ~」
「性分だ。それより梶浦」
「ん?」
男、梶浦は眉を上げる。
「見回りはもう終わったのか?」
「ああ。アキラと一緒だったからな。俺は一号棟側、アイツには九号棟側に行ってもらってる」
「そうか…。少し時間が掛かっているようだな」
そう、如月が呟いた時だった。
バァンッ!
勢い良く扉が開く。入ってきたのは一人の青年。
「たっ、大変です!」
その様子を見て、何か起きた事を悟る。
「どうしたんだよ?浅野」
浅野と呼ばれた青年は息を切らしながら続ける。
「ハァ…ハァ…じ、実は」
浅野は一呼吸置く。
「……アキラが、殺されました…」
二人が目を見開く。
「何だって…?」
「アキラ程の使い手が?本当か?」
「間違いありません。あれは確かにアキラでした…」
如月は立ち上がると浅野に詰め寄る。
「何処だ」
「……八号棟、最上階です。でももう遺体は搬送済みです…」
浅野の胸倉を掴んでいた手が緩む。
「………」
如月は手を放すと、壁に立て掛けてあった白木の杖を掴む。
「如月?何処に行くんだよ?」
それまで一部始終を見ていた梶浦が問うた。
「見回りに出る」
短く告げると、如月は部屋を出ていった。
後に残された二人は、如月を見送るしか無かった。