逃亡、そして
「ハァ、ハァ…」
如月は息を切らせながら鳴神を睨み付ける。対する鳴神は余裕の表情だ。
空気が張り詰める。
ダンッ!
二人が同時に床を蹴った!
ガギィィン…!……カランカラン……。
一本の苦無が音を立てて転がる。
鳴神は弾かれた方の手を不思議そうに見やった。
振り向く如月。もう息の乱れは無かった。
「…フフッ。アナタ本当に良いわぁ。…でも、もう時間切れ」
くるりと踵を返す。
「…また会いましょう。それまで、死なないでね。じゃっ!」
「待てっ!」
扉から外に飛び出していく鳴神を追う。しかし、そこに立ち塞がる人物。
「おっと!ここは通さねぇぜ!」
「梶浦ッ!」
如月が裏切り者の名を叫ぶ。
「まさか鳴神さん相手に生き延びるなんてな。流石だぜ」
ブンブンッ、と梶浦は手にしたトンファーを振り回す。
「っつー訳で」
「俺がお前を殺してやるぜ!」
ブンッ!ドカッッ!!
飛び込み振り下ろされたトンファーが床を叩き割る。
「くっ…」
からくも躱すと、杖を構える。
「梶浦…。最早容赦はしない」
「ハッ。構わねえぜ?まぁお前の手は知り尽くしてるがなっ!」
如月の脳裏に梶浦との稽古が蘇る。確かに。本気で掛かっていた。
「来い…!貴様に負けるつもりは毛頭ないッ!」
「よく言う!脳味噌ブチまけてやるぜ!」
直後突進!黒い砲弾が襲い来るッ!
ガギギッッ!!
受け止めた杖が折れそうな程しなる!
……何というパワーだ…っ。今まで手加減していたな……。
如月はその一撃をいなし、梶浦の間合いから遠ざかる。
「逃げてばかりじゃジリ貧だぜ?如月よぉ」
……だがスピードはそこまで早くない!
タンッ!如月が床を蹴る!壁を使い、三角飛びの要領で高い位置から鋭い一撃を降らせる!
ガッッッ。
「オラァアッ!」
受けられた杖と共に、如月の身体が押し戻され宙を舞う。
スタッ。無様に転がる事なく降り立つ。
……ダメか……。パワーの差が有り過ぎる…。なれば…。
「戦闘中に考え事か?余裕だなっ!」
再び梶浦が迫る。一瞬如月の反応が遅れた。
「くうっ!」
紙一重で躱す。だが一度で終わらない!
ブンッ!ブウンッ!
大振りながらも致命的な一撃を躱し続けるのには限界があった。
「……ッ!」
バランスを崩し膝を付く。
「死ねぇぇ!」
絶望的な一撃が降り注ぐ。咄嗟に杖を掲げた。
ガンッッ!!
ミシミシと杖が悲鳴を上げる。
「く……ッ」
トンファーに更なる力が込められていく。
「へっ…そんな棒きれ、へし折ってやるぜっ!」
その時。力に押されつつも、如月が睨み返した。
薄く嗤う。その顔はさながら、魔人の様であった。
「……これが、只の棒きれだと思っているのか?」
「何…?」
一瞬の躊躇。如月はそれを見逃さなかった。
グンッ。トンファーの軌道を反らす。
…ピシッ。
白木の杖に切れ込みが入る。
スゥッ…!
中から現れたのは、冷たく輝く刀身。
身体のバネ全てを使い、鞘からそれを走らせる!
バシュッ!!
磨かれた技は、トンファーごと相手の身体を斬り裂いた。
梶浦は驚愕の表情で凍り付く。
「ば…かな…仕込み杖……」
ヒュンッ。
背を向けた如月が刀身を払う。それには血の一滴も付いていなかったが。
「切り札とは、最後まで取っておくものだ…」
スーっと、刀身を納めていく。
「さよなら」
パチンっ。その音が合図であったかの様に、梶浦の身体が崩れ落ちた。
カツ、カツ、カツ…。
後を振り返る事も無く、如月はその場を後にした。




