戦闘開始
「ハァ、ハァッ」
出口へ向かって駆ける。浅野だ。
…ある程度走った所で、足を止める。
「ハァッ。…くそっ。逃げても逃げても追いかけてきやがる…。まるでこっちの動きが分かってるみたいだ…」
浅野が振り向くと、ほんの数十メートル先に先程の男が姿を現した。
「どうした…?鬼ごっこはもう終わりか?ハッハッ」
…覚悟、決めるしかねぇな…。
「へっ!しゃらくせぇ!」
素早く袖に手を入れる。
「喰らえっ!」
ヒュッ!
投げナイフだ。それは矢の様に一直線に男へ向かっていき―――
パシッッ。
顔面に達する直前に掴まれる。
カキンッ。男がナイフを投げ捨てた。
「ハッハハ。無駄だよ。そんなもの当たりはしない」
……浅野が肩を震わせる。
「……アッハハ、ハハハ」
掛けていた眼鏡を外す。
「あーあ。……上等ッッ!」
目付きが鋭くなる。と同時に床を蹴った!
パシンッッ!
不意を付いたハイキック。しかし掌に阻まれ届かない。
「無駄だ」
「…んなろうッ!」
更に拳を繰り出す!
左!右!蹴りッッ!
「無駄!無駄無駄無駄!」
「無駄だというのが…」
最後の一撃を払うと、男が拳を引き絞る。
「分からんのかあっ!!」
「ぐわぁぁッ!!」
男の拳が腹部にめり込み、浅野を吹き飛ばす。
「ぐ、うっ…」
浅野は体勢を立て直すと、周囲を見回す。
……何か、武器になる物は……。
あった。デッキブラシが。
浅野は飛び付くと、先端部分を蹴り落とす。
ブンッ!ヒュン!
…重さは十分。…やってやる…!
以前如月が行っていた、棒術を脳内にトレースする。
「行くぜぇぇ!」
突進しながらの突き。だが読まれている。男は身体を捻り躱す。
…反撃させるかっ!
休む間を与えず、突きを繰り出す!
ヒュンヒュンヒュンヒュンッッッ!!
……当たらない。見よう見まねと言えど、浅野の精度はかなり高かった。しかし当たらない。
「…フ」
刹那、男が唇を歪める。
パシッッ。
男は左手で棒を掴むと、それごと浅野を無理矢理引き寄せ―――
ドカッッ!
「グハッッ!」
遠心力を利用した蹴りを、背中に浴びせた。
ズダンッ!ゴロゴロ…。
あまりの勢いに、浅野の身体が転がる。
「う…ぅ…」
「どうした?もうお終いか?」
浅野が棒を杖にし、ヨロヨロと立ち上がる。
その様子を眺めてから、男が口を開く。
「……どうだ?俺達の仲間にならんか?先程のデータ処理能力、ナイフ、体術といいなかなかのものだ。殺すには惜しい」
浅野は男をまじまじと見た。
「ハッ」
浅野は親指を立てると、首を刈る仕草をした。男がニヤリと笑う。
「フッ…そうかそうか…そんなに死にたいのか」
初めて男が構えを取った。その時。
「待てっ」
鋭い声。二人が同時に振り向く。
…そこには、金髪にロングコートの男。
「布津さんっ!」
布津はゆっくりと浅野に歩み寄る。
「済まんな。待たせた」
言いながら目の前の男を見る。かつて自分が倒した男に酷似しているのを認識すると、眉を顰めた。
「布津さん…ヤツは強い…。二人掛かりでも勝てるかどうか」
呻くように浅野が言葉を発する。
「…やってみなければ分かるまい」
布津が刀の柄に手を掛ける。
「どうだ?作戦会議は終わったか?」
それまで黙って様子を見ていた男が口を開く。
「何を話していたか知らんが。かかってこい。二人まとめて相手にしてやるよ」
男は不敵な笑みを浮かべると、改めて構えを取った。
「フン…行くぞ」
布津が刀を抜き放つ。
「オラァアッ!!」
浅野が飛び掛かり、
「ハアッ!」
布津が男へと突撃していった。




