"二番手"少女の小さな願い 5話
「先輩!!! 凄いですね!!!」
「美咲、おめでとう。やっと実を結んだね。」
会場がぼやける。きらきらとした光に照らされたステージが端から輪郭をぼやかしていく。
「やった……やっと上り詰めれた……!!!」
私は席を立ち、ゆっくりとステージへ歩みを進めていった。
個人成績を1つのダンススクール生が上位独占をするのは、異例な事であると、後で知った。
そして、スクールで私達3人はまた拍手に包まれた。
「これでようやく、"永遠の二番手"からさようならですね!!! 先輩!!!」
「……そうだね、陽。……悔しくないの?」
「悔しくなんかないですよ。むしろ嬉しいです! あ、そうだ先輩。外で真崎先輩が小浦先輩を探してました。行ってみたらどうですか?」
「え、修哉が? わかった、ちょっと行ってみる。」
練習着のまま、階段を滑り落ちるように降りる。
言っていた通り、修哉はビル前の通りでスマホを弄っていた。そして、こちらに気づくと
「おう、美咲。個人成績1位おめでと。」
そう言ってふにゃっと笑った。
「ありがとう修哉。」
「二番手バイバイだな。」
「そうだね。」
やがてしばらく人々の歩く音だけがうるさく響く。
「今度の休みの日にさ。」
小さく口を開いたのは、修哉だった。
「……カラオケにでも行かね?」
「……いいよ。行こっか。」
ふふふっと笑えばじゃあと手をあげて人ごみの中へと消えていった。
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ビルの屋上には3人の笑い声が響き渡る。
「よーし先輩、今日も頑張りましょう!」
「まあほどほどに、かなぁ。」
「ちょっと先輩、やる気出して下さい!」
そんな会話に耳を傾けながら、屋上の柵へ体重を預ける。あの日と同じように、風が吹いている。
だけど、あの時とは違う。私はもう"永遠の二番手"なんかじゃない。
「あ、時間だ。」
小さなバッグに荷物を詰め込んで、肩に掛けると
「おや、修哉君のとこに行くの?」
「お、先輩デートですか? いいですね~」
なんて2人に口々に言うのでうるさいな、と苦笑いしながら答えて、階段を駆け降りた。
「修哉!」
「お、美咲。流石きっちりしてるな、時間ぴったり。」
「さっき思い出したからそうでもなかったけどね」
そうかと笑うと、手を差し出して行こうかとまた笑った。
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昔の願いは、ただひたすらに、あの子に勝ちたいだけだった。でも今は違う。
今は、自分のような思いを持っている後輩達の手本になりたい。
「自分に自信を持つ。自信が持てなくなったら、ライバルを作って積極的に勝負をしていけ」
それが私が教えてもらったことだから。
そんな願いを胸に秘めて、今日も私は、日を浴びた明るいステージで目を細めながら手を伸ばした。
END