”ひりゅう”
「海上、自衛隊?どんな組織だ。」
森本司令官が驚いたように米沢艦長に聞くも、首を横に振る。
「国政自衛隊なら知っていましたが、海上なんて聞いたことがありません。
大日本国近海を防衛、監視しているのは海域保安庁と皇国海軍しか存在しませんが...」
「国政自衛隊なんぞ、海上には縁遠い存在なのだがな。」
「ですが、あまり内閣に従わない軍部に打ち込んだ楔、という事も考えられます。」
「護衛艦隊群程度でわが艦隊に楯突くなど無意味なのだがな。」
森本司令官の自信であるが、東西ソビエトを挟んだ第三次世界大戦を生き抜いた
この艦隊には絶大な信頼を寄せていた。
規模としては全23ある艦隊の中間ぐらいの規模ではあるが実戦経験は
皇国第一機動部隊に劣らない。
「隠岐の島にこの機に乗じてテロリストが乗り込んできた可能性もあります。」
「つい先日に我が国はISISに宣戦布告したばかりだったからな。
その線も確かにある。SOS信号も妨害された可能性もある。」
腕を組み、艦隊進路を思考する。
しかし、状況の変化はこれだけに収まらない。
『大韓民国海軍と称するからの電文です。』
【”我が領海から直ちに退去せよ”】
翻訳された文を読むと同時に疑問符が頭上に浮かぶ。
ここは日本の領海、言っていることが理解できない。
「それは、悪戯なのか?」
「悪戯とは?」
「その電文の事だ!!」
怒号に縮む無線部長。
「まあまあ、放置しても大丈夫でしょう。」
無線部長を庇うように米沢艦長がなだめる。
「うむ。だが、大朝鮮民国という国は知っていたが大韓民国とはいったい...」
悩みの種、不明な事が一つ一つ増えていく。
一体、何がどんなことが起きたのか。それが脳裏に突っかかったままだ。
~飛行甲板~
ヒ、と書かれた甲板上では、日ごろから行われている肉体訓練が行われていた。
「甲板10周!!」の掛け声とともにキツい訓練が始まる。
一周450mのトラックを10周。
整理された戦闘機を目印に隙間を縫う形で周回する。
整備員からは「がんばれよ」「さぼってんじゃねえぞ」などといった声が浴びせられる。
「あいつ等、覚えておけよ。」
第三次世界大戦時、173機を撃墜した撃墜王三銃士の一人である”坂槙 宗一郎”。
「それまで覚えてられるかな。」
”岡井 三郎”が野次る。
「ちげえねぇなぁ。この訓練考えた奴は空に上がったら叩き落してやる。」
笑いつつ、撃墜王が話す。
「うへっ、怖いなぁ。俺らは多分守る側ですよ。」
岡井は参ったような顔をする。
それもそのはず、それを考えたのは第二総軍司令官”坂本 龍雅”である。
「怖かったらパラシュートを入念に手入れするこったな。」
「安心してください。食らいついて見せますよ。」
二人は走りながら笑いあった。
空母は鏡の上を滑るように、隠岐の島に向かっていた。