作戦名”籠” ③
小刻みな振動、突発音、共鳴する炸裂音が聞こえなくなる。
レーダーサイトもまた、被害を受けていた。
「レーダーが使えなくなった...」
絶望と恐怖が過る。
助けに来るであろう友軍太平洋艦隊は未知の艦隊を手探りで探さなければならない。
しかし、立ち止まるわけには行かなかった。
「ここにいて、命拾いしました。
もし、一歩でも間違えていたら───」
蘇る。眩い閃光と共に消えていった仲間たちを。
平常を保とうとしていたのだろう。しかし、遂に膝から崩れ落ちて滂沱した。
「待て。もしかしたら鉄筋コンクリートの防空壕に仲間がいるかもしれない!
厚さは1000mmもある。絶対無事だ!」
自分に、仲間に言い聞かせるように言い放った。
それに同意したのか、仲間もまた泣くのをやめ、立ち上がり歩き始めた。
そして、仲間を連れて3分程歩いた。
道中にあったはずの木々は爆風で一定方向に倒れていて、威力を存分に見せられた。
その木々の倒れた方向の反対に防空壕がある。
「まさか...」と思いつつも、既に足は震えていた。
そして──────
「もうだめだ...終わりだ...いっそ俺を殺してくれぇ!」
「や、やめろ!早まるな!」
自らの首にナイフを当てようとする仲間を取り押さえ、説得する。
「いいか、ここで死んで隊長が浮かばれるとでも思っているのか!
死ぬんじゃない、本国に少しでも情報を送り、敵を討つ!死ぬのはそのあとで良いだろう!」
眼前には、コンクリートの残骸と四散した鉄筋。
赤く、こびり付いた煉瓦のような塗料は、血。
一瞬であっただろうか、跡形すら残ってはいない。
地上1、地下2階建ての防空壕があった場所には、大きなクレーターが残され、
残っていた部分は地下2階の部分である。
「ここにいても無駄だ。海岸沿いから敵艦隊を探そう。」
仲間を連れ、二人しかいないかもしれない択捉島の焼け焦げた大地を。
海岸へ向かって歩いて行った。
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「どうですかね。”くしろ”の主砲の威力は。」
幸正が自分の玩具を自慢するように語る。
「弾倉式、オートローダーですか。島が1分程で禿げ上がりましたね。」
関口は少しやり過ぎではないか、と脳の片隅で考える。
「当然です。悪には鉄槌を、ですよ。
武士道精神どうたらこうたらカッコいいことを口にする輩もいますが、部下に死なれては
本末転倒ですよ。」
「そう...ですな。しかしこれは一方的な蹂躙作業じゃないですかね。」
「いずれにしても、敵になる相手です。
”攻められてから”では遅いんですよ。国民を守ってなんぼの軍隊ですからね。
守れなければ、それは軍隊ではありません。
自国民の犠牲と他国民の犠牲。天秤にかけたら自国民に傾くのは当然でしょう?」
不敵な笑みを浮かべる。
「この籠作戦。本当はこれが目的で?」
「こんなもの、前菜にすぎませんよ。
私の目的は”艦隊決戦”であって、専守防衛ではありません。
大義名分を得た私のこの行動に、何の非正当性があると思われますかね?」
「いえ...ありませんが。
しかし、皇海大(大日本皇国海軍大学校)では”敵に敬意を払う”という事を習ったはずでは。」
「彼らは敵ではありません。泥棒です。
自宅の生活空間にゴキブリが出たら殺すでしょう?同じですよ。
さて、択捉島は陥落間近。各諸島を包囲していきましょう。」
幸正の意見と考え方に疑問を持ちつつも、無理やり自分を納得させ
船を進めた。