作戦名"籠"②
東京”市ヶ谷第一総軍総司令部”
「旭 佐五郎司令官。貴官は何故ロシアとの交渉をせずに戦闘に踏み切った?」
第一総軍総司令官”尾河 俊作”は咎める口調で問う。
「北海道という家の庭を侵略されたんだ。追い返すのが当然だろう。
アメリカの太平洋艦隊が東京の排他的経済水域(EEZ)に入っただけで撃沈しようとする貴方も
変わらないと思うが?」
2005年に起きた米艦隊飽和攻撃事件である。
この事件は、表向きでは軍縮を続けていた日本皇国の排他的経済水域に米第七艦隊が侵入。
それを過剰に反応した当時の太平洋方面主力艦隊の司令官
尾河俊作が、現場判断でミサイル飽和攻撃を行った事件である。
結果として、司令部から即時ミサイルの自壊を通達され
両艦隊共に損害は出なかったが、日米関係に亀裂が走った
事件である。
「昔の勢いはもうない。だがまあ貴官率いる北海道統合軍が負けるとは到底考えられないだろう。
だが、全世界を相手にするつもりか?味方になる国が現状何処にある?」
「情報が遅い。露助共は領土問題をかなり抱えている。
それに、政府の方針は”強いロシア”と来た。強いロシアに敗北は許されない。
それを踏み躙るのが我々の目的だ。
圧倒的な軍事力で捻じ伏せれば、追従する国も現れる。」
説得力が十分にある意見である。
尾河は一呼吸入れる。
「事実だとするならば、私としては支持したい考えだ。だが...」
「分かっている。国政から圧力がかかるのだろう?
侵略行為を国家が進行形で確認していない限り、戦時内閣は立ち上がらないし
戦時資金も下りない。
私は援軍を頼みに来たわけではない。報告をしに来ただけだ。」
「そうか...」
立ち上がり、部屋を出ようとする旭佐五郎を呼び止める。
「いざとなれば北方第2機動部隊を動かそう。」
「出番が無いようにしないとな。」
二人は笑い、旭は部屋を出た。
~択捉島ロシアレーダーサイト~
「今日も異状なし。」
定時に一回転するレーダーを眺め、首肯く見張り員。
日本が自ら攻撃を仕掛けてくることは無いとして
レーダーの使用を極力しないようにしていた。
しかし、それは勝手な現場判断である。
「奴等に島を取り返す度胸なんて無いさ。」
「プーチン大統領がこの国の長であるかぎり、
黄色い金持ち猿は攻撃してこないよ。」
戦後から約70年経っても奪還を行わない日本に
慢心するのは当然である。
しかし...
地面が小刻みに、震えるように揺れる。
燃える音、重低音が監視所に共鳴し、戦慄を覚える見張り員達。
急いで確認へ向かう。
「い、隕石か?それとも───」
状況確認をするため外に出た監視員の目には
まるで、世界の終わりのような光景が写った。
黒い煙が柱のように12本、消化できそうにない大火災。
島の放棄が脳裏に過る。
『レーダーに艦影...数、42隻!
空母と思われる艦影は二隻。至急、本国へ連絡を!』
「空母級が二隻!?
ここにはフリゲート艦しかいないぞ!」
「いや、救援要請に気づけば太平洋艦隊が来てくれる。
それまで、何としても死守する。」
再び揺れる地面。
監視所はこの時点ではまだ気付いていなかった。
この第2斉射で択捉島の居住区域が瓦礫の町と化したことに...




