エピソード50-4
・2022年7月4日付
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本来はタイミング的に正体を見せる時期ではなかった。しかし、彼は――鹿沼零はスケジュールを早める事にしたのである。その結果として、ジャック・ザ・リッパーは今まで見せていなかった素顔を見せる事になった。
彼女の素顔が絶世の美女だったとしても、ARゲームでは全く関係のない事であり――。
「鹿沼、お前が以前のロケテストで行おうとしていた実験――忘れたとは言わせないぞ」
彼女のいう実験に関しても周囲のギャラリーにはピンとこない。それに、ロケテストを利用して様々なテストを行っているのは日常茶飯事であり――申請が通れば問題はないはず。
『こちらとしても、以前に武者道がやろうとしていた事は――都合が悪いのですよ』
「プレイヤーの意見を無視し、自分達の都合のよいビジネススタイルを確保するつもりだったのだろうが!」
鹿沼のいう武者道とは、山口飛龍の会社だ。そして、ジャックの言及するビジネススタイルとは――?
『ビジネス? クラウドファンディングであれば、そう受け取られても問題はないだろう』
「ネット炎上を回避する手段として、ふるさと納税を隠れ蓑にしたというのならば――」
『確かに、不特定多数からの支援金よりも、税金の方が色々と好都合な部分もあるだろうが――』
「税金でこういう事をするから――芸能事務所側が、ゴリ押し手段を加速させるのだろう!」
『その芸能事務所こそ、諸悪の根源とは思わないのか? ライバルコンテンツを政治家やまとめサイトの力を利用して炎上させ――存在自体を消滅させる』
話は完全に平行線であり、それこそ炎上サイトのネタに利用されかねないし――週刊誌の記者がいたら、それこそ大スキャンダルになるだろうか。それ程の事を鹿沼は言っているのだが――それを正確に理解できる人間がいるとは思っていない。それを踏まえての発言の可能性が高いだろうか? 彼の狙いは本当に何なのか?
「鹿沼、お前は確か――超有名アイドルが自分達の人気を不動のものにする為に、他のライバルをゴリ押しでネット炎上させ、衰退させる――それを越権行為と言ったな?」
『その通りです。ARゲームは正しいプレイスタイルで広める必要性がありますが、悪質なマナー違反をしているプレイヤーは取り締まるべきです』
「今までチートプレイヤーを全て駆逐すれば、ARゲームは正常化すると思っていた。しかし、現実はどうだ?」
『チートプレイヤーが1割減った事で、風評被害は減りましたね』
鹿沼の方は未だに冷静であり、ポーカーフェイスを崩さない。ARバイザーで素顔は見る事が出来ないので、そう言う表情をしているという予想でしかないが。
「しかし、ソレとは別にチートプレイヤー狩りと称して――チートアプリ等を使っていない強豪プレイヤーをリアルチートとして通報する人間が出てきた」
『それは芸能事務所に雇われた炎上勢力が拡散している、虚構ニュースでしょう。運営側も、そこまで――』
「北条高雄の様な人間が出てきても、同じような事が言えるのか!?」
鹿沼の否定に対し、ジャックは北条高雄の名前を出して反撃を行う。しかし、それでも動揺をしているような素振りは見せない。あくまでも――ここは自分の意見を押し通す気だ。まるで、芸能事務所側とやっている事が――。
ジャックの素顔に関してはネット上でアップされていない。その理由として、彼女のいるARゲームフィールドは強力なジャミングが展開されているためだ。そのジャミングも鹿沼の仕掛けたものかもしれないが、真相は本人も言及していない為に――。
『何故に、あなたがARゲームの情報を集めていたのか――それは疑問に思いますが』
「自分のプレイするゲームの歴史を調べるのに、理由がいるのか?」
『エアプレイによる二次創作が問題視されるようなご時世なので、情報を収集する事に違法性はありません――それにも限度はありますが』
「公式サイト以上の情報が裏サイトならば手に入る――それを本気で思っているのか?」
ジャックはARゲームの情報を仕入れつつ、実際のゲームをプレイしていた。エアプレイと呼ばれるような勢力と見られないように、彼女なりに考えた末の結論である。
『確かに。ARゲームの機密情報となると、それこそ命を狙われるでしょうね。国家レベルで――』
「一体、どういう事だ? まさか、アカシックレコードの――」
ジャックがあるキーワードに言及しようとした時、途中から放置されていたガングートがオオカミの様な目つきでジャックをにらみつける。
「アカシックレコード、その言葉は一般人が言及していい物ではない!」
ガングートが別のハンドガンをジャックに向けて構えるのだが、それを見た鹿沼も何かを焦ったかのように指をパチンと鳴らしてジャミングを切った。
『鹿沼! 私は、お前の事を許す訳にはいかない! それこそ――』
ジャックのボイスチェンジャーも正常に戻り、改めてARバイザーを展開して素顔を隠した。ガングートはジャックの素顔を見たとしても無反応だったので、顔は関係ないと考えているのだろうか?
「この世界――ARゲームがフィクションの世界と証明できる技術、それを記したアカシックレコードは――政治家や利益を求めようと言う勢力に渡す訳にはいかないのだ」
ガングートは本気でジャックをにらみ続けている。ジャックとしてはガングートと戦う気は全くない。しかし、それでも――彼女がジャックの警戒を解除するような様子もなかった。
『教えてもらおうか? アカシックレコードに何が記されているのか? 政治家等に渡したくない理由を』
「それを教えれば、また戦争が起きる。ARゲームがリアルウォーになるレベルで」
『過去に言及され続けていた【虚構が現実化する】と言う事案か。アニメやゲームのキャラが具現化するような――』
「アカシックレコードの記述がFX投資をするような連中に渡せば、それこそリアルウォーが起きる――」
ガングートの言うリアルウォーに関しては、色々とオブラートに包んでいるようだが――間違いなくアレだろう。アカシックレコードの技術に、それだけの物が存在するのか――コンテンツ流通がリアルウォーの引き金になるのか?
ジャックには理解の限界を超えているのかもしれない。それ程に、ガングートの発言はネジが飛んでいるとしか思えない物だった。




