エピソード49-4
・2022年7月3日付
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8月19日、芸能事務所の不祥事が次々と週刊誌等が報道し、ネットは炎の海に包まれている。しかし、ARゲームに関しては芸能事務所とは無関係と言う事もあり――炎上なんてものともしない。過去には超有名アイドル商法やコンテンツ流通で第炎上していたのだろうが、青騎士騒動等もあってか様々な部分が強化されたように思える。
「そう上手い具合に問屋は降ろすかな?」
あるまとめサイトの記事を見て思うデンドロビウムの姿が、そこにはあった。超有名アイドル商法で炎上と言うのは日常茶飯事であり、それこそ芸能事務所AとJが主導的に行っている感じさえする。その上に、一連のイベントでも出来レースやマッチポンプという言葉がネット上に広まるほどには――この芸能事務所2社が行っている事の重さは――。
「遂に、こちらが真の意味でオペレーションを発動するべき時が――」
デンドロビウムと同じまとめサイトを見ていたのは、山口飛龍である。ARメットはしているものの、ボイスチェンジャーの類は使っていない為に男性と言うのが分かるのだが――。
「各部署に通達! 何としても、芸能事務所AとJの暴挙とも言える行動を阻止し、コンテンツ流通に本当の意味でのしのぎ合いを復活させるのだ!」
まるで戦艦の艦長であるかのような口調で運営本部にいるスタッフや部署のメンバーに指示、その手早さは過去の事件における反省点を生かすような気配さえ感じられた。何故、山口は芸能事務所AとJの暴挙を突きとめられたのだろうか? 彼の情報源はまとめサイトだったのか?
「本当の意味でコンテンツ流通が正常化すると言うのは、こう言ったファン同士の炎上や一部企業や広告会社によるマッチポンプではない――」
もしも、この場に橿原隼鷹がいたとしたら――この行動を取るかもしれない。コンテンツ業界を思うのであれば、一つのコンテンツに執着する事とは違う選択肢を取るべきだ、と。
「一つのコンテンツが爆発的に売れれば、そこに依存するのは当然だが――そればかりでは面白くないだろう」
山口は周囲に指示を出しつつも、タブレット端末で何かの状況をチェックしていた。それは、いわゆる一つの実況と言う物で――ネット上が炎の海に包まれた、今回の事を実況していると思われる。
「正解は一つではない! 超有名アイドルAとJが日本で売れているアイドルだからと言って、海外で同じ手法が通じるとは到底思えない!」
山口は叫ぶ。タブレット端末を持つ手も震えているのだが、それを落とそうと言う気配はない。落とせばタブレット端末が壊れるのは当然だが――その音でスタッフを動揺させても危険だと判断したのだろう。
「変わるべきなのだ――復讐とか無限の利益とか、唯一神とかご都合主義とか――そう言った物はコンテンツ流通に求める感情じゃない!」
何としても止めなくてはいけない――そう山口は思った。だからこそ、彼はスタッフに全力で指示を行い、今回の騒動に関する情報収集を急がせる。真犯人を見つける為にも――コンテンツ流通に悪例を生み出し、それが戦争の引き金となる事を避ける為にも。
橿原の方も一連の事件に関して、秋葉原からだが見守っていた。今回の騒動は草加市だけの問題ではない――聖地巡礼やコンテンツ流通と言う意味でも、避けては通れない道なのだろう。
「ファンマナーの問題は今までも何度か言及されているが――」
繰り返される悲劇の連鎖――アイドルの解散や引退などを引き金にして、ネットが炎の海に包まれるのは、事例が数えられないほどある。それはネットがない時代でも同じであり、結局はネットを舞台にしても同じ事が繰り返されていた。止めようとすれば止められる。しかし、ファンの暴走は――未だに止まっていない。
「ネット炎上禁止法案を出せば、ネット炎上を止められるのか――それが違うのは、あのアニメでも言っていたはずだろう」
彼は今すぐにでも草加市へと向かい、一連の事件を止められれば止めたい所ではある。しかし、彼にもやらなければならない事――ARゲームの未来を変える為にも、立てておく必要のあるフラグがあった。
その一方で、同じように芸能事務所AとJの暴挙を止めようとする別の勢力がいた。その正体とは――ネット上でも驚きの声が出るほどの存在だったのである。
『そう言う事か――芸能事務所AとJを、あの作品で悪の勢力として書かれていた、あの勢力に仕立てるつもりか』
ジャック・ザ・リッパーは、何とも迂闊な事を――と考えていた。ネットの情報を鵜呑みにして――まとめサイトが神であるという認識をすれば、このような事は容易に想像出来るだろう。少し考えれば何とか理解できるような事を、ジャックは見落とししていたのである。
その見落としをしていたのはジャックに限った事ではないのだが――約1名を除いて。
「暴挙と言えるのは、芸能事務所AとJだけじゃない――様々な要因が、コンテンツ流通を妨害している」
まとめサイト等をタブレット端末で閲覧していたのは、アルストロメリアだった。彼女は、自分が投資を続けてきたとも言えるアーケードリバースがどのような未来をたどるのか見届けたいと思っている。だからこそ、今のタイミングで第炎上をするという事は避けないといけない。
「いっそのこと、あの芸能事務所が手を出せないようなシステムにするべきだったのか――ARゲーム全体を」
しかし、そんな事をすればARゲームは足立区や秋葉原を含めた一部地域だけの物となり、全国区になるには厳しくなる。だからこそ、ある程度の意見は妥協する事で他のスタッフからも信頼を得て――アーケードリバースを広める事が必要だった。
「しかし、ARゲーム全体を活性化する事を理由にしたとしても――」
その一方で、彼女は懸念を抱いていた。アニメ『ネオパルクール・ダイヴ』をなぞるような状況、展開、それに――。この計画を動かしたのは自分ではないが、一応の反対意見は出している。ARゲームの秩序を守る為に、他のコンテンツを利用する事が正しいのかどうか。ソシャゲにおける他作品コラボ等は事例がない訳ではないのだが、今回の例は該当しないだろう。
まるで、超有名アイドルが音楽番組でかませ犬を用意して宣伝をするのと同じ手段――そうなる事をアルストロメリアは懸念し、今回の計画には反対した。しかし、スケジュールの関係で焦った一部勢力が仕掛けてしまった今回の計画を、止める手段を彼女は持ち合わせていない。その上に、過去に例の事件を引き起こしたガングートの出現は――。




