エピソード47.5
・2022年7月3日付
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8月13日、様々な所で謎の動画を見る事になった。この動画は表向きとしてデンドロビウムのプレイ動画――になっている。しかし、その中身は別物となっていたのだ。一種のMAD動画が拡散したのは過去にも前例があるのだが――今回は違う。
【何だ、この動画は?】
【まとめサイトで取り上げている関係もあってか、既に100万再生を突破している】
【違法な種類の動画であれば、即削除されるのに――】
つぶやきサイトでも動画が削除されない事に違和感を持つ人間もいる。しかし、今回の動画はメッセージ性を持たせた動画である事は間違いないが、超有名アイドルの宣伝として作られていない為に削除されていない。つまり、ARゲーム運営としてはシロと判断した動画と言える。その一方で、まとめサイトで大量に引用された影響で100万再生を早いペースで突破した事には、問題視しているようだ。
「あのサイトを放置した理由、どういう事か聞かせてもらおう」
「まとめサイトは基本的に草加市では閲覧不能のはずだ。それが閲覧できるようになっている事も――」
「一部のまとめサイトや有名な匿名掲示板は閲覧不能処理が動いているようだが――」
「この状況、どう説明するつもりでしょうか?」
「ふるさと納税の方も、最近は一連の青騎士騒動があって別の返礼品を受け取る人が増えている。このままでは――」
ゲーム課で行われた緊急会議でも、一連の動画に関しての議題が上がった。一部のまとめサイトは草加市経由では閲覧不可になっているのだが、あるサイトだけは閲覧できる状態だったのである。閲覧可能になっている理由は、プロテクトを意図的に解除している事なのだが――それが出来る人間は特殊な権限を持っていないといけない。それに該当する人物は草加市市長でもなければ、埼玉県の議員でもない――ゲーム課の人間である。
『他の皆様が言いたい事はごもっとも――』
緊急会議でも特注のARメットを外す事はなく、ゲーム課にも素顔を見せない――会議室内でも異例の姿だったのは鹿沼零だ。彼には特殊な権限が与えられているのだが、その内容はゲーム課のメンバーですら知らない。ARメットの着用以外で具体的に分かるような権限が、彼らには思いつかないのだ。
『しかし、あのシステムは海外の有名クラッカーでも破れない程のセキュリティを持つ物。それをあっさりと破るとは――』
白々しいとは、この事を言うのだろうか? ゲーム課の人間も鹿沼を疑っているのは当然だろう。彼の行動は色々と謎な物も多く、その中でも情報流出や特定勢力を壊滅させようと起こした行動も――グレーゾーンな物ばかりだ。
「誰も貴方を疑っている訳ではない――鹿沼零。しかし、我々としてもARゲームを政治に利用すると言うのが禁止されているのは分かっている」
『それは、こちらも承知しています。権利の独占、軍事転用、それにARゲームが不利益となる状態を起こす事――』
「芸能事務所AとJがARゲームを利用し、自分達のアイドルを海外へ売り出し、無限の利益を得ようとしている一件は――知らない訳ではないでしょう?」
『その事件は過去の話でしょう? あるいはフィクションの話ですか?』
「鹿沼! どこまでシラを切るつもりだ?」
鹿沼の話し方に苛立ちを覚えたスタッフの一人は、遂に拳を作り――彼を殴ろうとしたのだが、直前で拳を止めた。スタッフに止められた訳ではない。力で訴えたとしても、それは本当の意味で――。
『こちらとて、計画その物を潰そうだなんて考えてはいません』
鹿沼は計画を台無しにするつもりはないと言うのだが、それを信用していいのか疑問もある。
その日の午後、アルストロメリアはARゲームのインナースーツを着たまま、竹ノ塚駅近くまで姿を見せていた。竹ノ塚でもARゲームは展開されており、インナースーツのまま歩きまわっても捕まる事はないだろう。天気の方は若干曇り気味かもしれないが――徐々に晴れるという予報なので、ARゲーム的にも問題はない。
アマゾネスを思わせるようなマッチョな体系は、竹ノ塚内では目立つ存在かもしれないが――他にも様々なコスプレイヤーもいるので、そこも問題はないのだろう。ARメットは既に着用しており、後は別のゲームをプレイする為の待機と言った感じである。
アーケードリバースは草加市内限定の為、竹ノ塚では稼働していない。その理由は明らかになっていないのだが、おそらくはシステム上の欠陥ではなく――草加市限定稼働にしている理由があるのだろう。それがふるさと納税と言うのはネット上でも有名だが、仮にそうでないとしたら? この秘密を理解しているのは、あの計画書を細かく確認した上でふるさと納税の返礼品としてアーケードリバースを選んだ彼女だけだ。
「竹ノ塚でも、ARゲームで聖地巡礼を計画していた事があった。それも、既に過去の話か――」
アルストロメリアが駅の周囲を見回すと、そこにはジャック・ザ・リッパーの姿を発見出来た。何故、彼女が竹ノ塚にいるのか? 単純にメインフィールドが草加市以外であれば、竹ノ塚にいてもおかしな話ではない。
『アルストロメリア――これだけは言っておこう』
唐突に何かを断言された。ジャックはARメットをしている為に素顔は見えない。それでも、アルストロメリアは冗談をジャックが言うはずがない――と察していた。
『アーケードリバースを操る黒幕がいる。芸能事務所ではない何かが――』
それだけを言い残し、ジャックは別のARゲームのセンターモニターへと向かう。どうやら、ジャックの順番が来たらしい。
「芸能事務所以外――と言っても、芸能事務所には関心がないけど」
アルストロメリアは芸能事務所がネット上で言われている、あの2社なのは何となく察していた。しかし、そこはどうでもいい。超有名アイドル商法が悪の手先的なポジションになる事件は、テンプレ化している為――使い古されていると考えていたからである。




