エピソード46-5
・2022年7月3日付
行間調整版へ変更
午後4時にもなると、一部ARゲームでは夜間プレイに対応する為に準備を行うジャンルもある。しかし、アーケードリバースは特に夜間プレイでも準備を行う必要がなく、中断をはさむ事はない。
「我々としては、あまり24時間プレイと言うのは推奨したくないが――これもニーズ故か」
午後になっても混雑が緩和する事はない――と言うよりも、人気ジャンルの宿命と言うべきなのか。順番待ちのプレイヤーからは、このような意見も出ている。
「ARゲームだけが午後6時までで終了では、他のアーケードゲームにユーザーが流れると考えているのか?」
「そこまではないだろう。アトラクション施設でも深夜では稼働していないアトラクションだってあるはずだ」
「ARゲームの中には、深夜でこそ真価を発揮するようなジャンルもあるが――」
「騒音などの近所迷惑を配慮して、あそこまでの箱物施設にしているのかもしれない」
他のプレイヤーからは、このような意見も出ている。実際、夜間に遊園地が営業するのはレアケースに限定されていた。それさえも覆すようなARゲームのアンテナショップやARフィールドの運営スタイルは、一見するとブラック企業を思わせるのかもしれない。
しかし、実際はブラックと言えるような箇所は存在しなかった――と言うのが草加市の見解の様である。それさえも炎上のネタとして利用し、自分達のアイドルを売り込もうとした芸能事務所は――廃業に追い込まれると言う末路をたどった。
午後5時、一部の有名プレイヤーは既に帰路についているのだが――ここからが本番だと言うプレイヤーも存在する。デンドロビウム、ビスマルク、ヴィスマルク、アイオワは既にログアウトしていた。
「大方のチートキラーと呼ばれるプレイヤーは、チートプレイヤーが出にくい時間帯を避けるか」
あるプレイヤーの一人は、こうつぶやいた。時間帯が合わないので、ARゲームをプレイ出来るタイミングが、この時間帯だけ。この手のパターンはソーシャルゲームの時間帯限定イベント等ではよくある光景だ。
ARゲームは時間帯限定イベントと言う概念はないのだが、対人戦は時間帯が合わないと、こういう事もある。マッチングが非常に困難と言われるレアプレイヤーもいるのは、この為なのかもしれない。レアプレイヤーと言っても、彼の言うレアプレイヤーとはチートキラーと呼ばれる人間ではないのだが――。
『チートプレイヤーは、大抵が芸能事務所A及びJのファンに限定される話を聞く――』
あるプレイヤーの隣に現れたのは、何と鹿沼零だったのである。興味のある話を――と言う訳ではなく、単純に様子見としてアンテナショップに現れたらしい。
「芸能事務所か。そのような話を週刊誌が聞きつけたら、スキャンダルどころでは――」
彼の方も若干の興味を示したようだ。週刊誌が一連のスキャンダルをスクープ出来れば、芸能事務所は――。しかし、その話を聞いた鹿沼はため息をもらす。
『それは無駄と言う物だ。週刊誌は政治家や芸能人の不祥事に注目をしている。芸能事務所AとJの話題は避けるだろう』
「何故!? 芸能事務所のスキャンダルは――下手をすれば週刊誌の売り上げを上げるチャンスなのでは?」
『そちらの話題はもみ消される――あの2大芸能事務所には、一種のご都合主義が発動すると言う話だ』
「ご都合主義って、まるで芸能事務所AとJがコンテンツ流通における主人公みたいな――」
あるプレイヤーは週刊誌が芸能事務所AとJを取り上げない理由を聞き、驚きの声を上げる。それは周囲のギャラリーが数秒振り向く程の声だったのだが――彼も周囲の迷惑であると考え、軽くだが謝罪の姿勢を見せた。
『超有名アイドル商法を巡る炎上マーケティング――ガングートの事件は知っているだろう? そちらも、芸能事務所側の刺客が向けられたという話だ』
鹿沼は、どうやって情報を手に入れたのか不明な情報をこのプレイヤーに話す。下手に無関係な人間や第3勢力等に話せば、ネット炎上は決定的だろう。しかし、それでも鹿沼は情報を話続けていた。
『一連の我侭姫を巡る事件は――芸能事務所が、何かの宣伝で利用していた節がある。それを潰さなければ――アーケードリバースは炎上マーケティングに利用される』
あるプレイヤーには鹿沼の表情が見える事はない。彼がARメットを被っているのも理由の一つだが――。
「芸能事務所がやる事と言えば、CD等の売り上げを上げる為に――?」
あるプレイヤーは何かに気付いた。そして、おもむろにタブレット端末でCDのリリース日を調べ始める。
『そう言う事だ。一説では山口飛龍が演出として用意した物、あるアニメを再現しようと言う話もネット上にあるが――』
そして、鹿沼は席を外した。あるプレイヤーは、去り際の発言を聞いていたかどうかは分からない。最終的にあるプレイヤーは、芸能事務所Jの新人アイドルがニューシングルを出すという話に辿り着いた。
「そう言う事か――連中がアーケードリバースを炎上させようと言うのは、こういう事だったのか」
あるプレイヤーの正体、それはジークフリートだった。彼でも知らなかったような情報を鹿沼が掴んでいる事実は――ある意味でも衝撃的と言える。しかし、今回の情報が更なるネット炎上の引き金となるのではないか――と言う部分は、ジークフリートも分からなかった。




