エピソード46-3
・2022年7月3日付
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突如として姿を見せたデンドロビウム。その出現には驚きの声もある一方で、驚きすらしなかった人物もいた。
「やはりと思って場所を移動してみたら、ビンゴだったとは――」
デンドロビウムの表情は――善人と呼べるのかどうか不明の笑みを浮かべる。これに関しては周囲がドン引きする気配はなく、動画を投稿しようとした人物に同情する方が多いかもしれない。
「馬鹿な――お前は、別のアンテナショップにいる筈では?」
彼の言う事も一理ある。実際、センターモニターのプレイ動画にはデンドロビウムも映し出されている。どうやら、このプレイ動画が録画とは気づかず、別のフィールドにいると勘違いしたのかもしれない。デンドロビウムは、動画を録画していた人物に対し――特に制裁を加えるような事はなかった。その一方で、彼女はガーディアンに通報して該当の人物は逮捕される事になる。
デンドロビウムの出現に驚きもしなかった人物、それは遠方で様子を見ていたヴィスマルクだった。有名プレイヤーが唐突に集まりだした事がSNSで話題となって拡散されたのが、駆けつけた理由なのだが――。
「チートを単純に排除して、それが正常なゲーム運営につながるのか――」
ヴィスマルクはデンドロビウムと何回か遭遇した事があり、そこでチートを排除する理由を聞いた。しかし、それでも彼女がチートプレイがテロ事件等と直結するような事になるのか――と疑問に思う事はある。デンドロビウムがチートプレイをゲーム環境荒らしと同一視する事自体、間違っているのではないか、とも考えていた。
カードゲームでは明らかにゲームバランス無視なカードやバランスブレイカーのコンボが生まれる事もある。ゲームバランスに関してはメーカー側の見落としもあり、プレイヤーだけが悪い訳ではないのだが。しかし、ARゲームにおけるチートプレイは運営側が想定していないプレイ方法であり、ある意味でも営業妨害と判断されるような物だ。
『ゲームバランス無視なプレイスタイルやアイテムが存在しても、それを使うかどうかはプレイヤーにゆだねられる。ただし、チートは例外だ』
デンドロビウムは、いつかの時にこう答えていた。彼女がチートを嫌う理由がゲーム運営の妨害なのは、何となく分かるのだが――。
『チートは、簡単に表現すればスポーツ競技におけるドーピングと同じ――。一度使えば、それで人生が終了しかねない危険なものと言える』
彼女にもチートを使った事があるのか――それに答える事はないだろう。そして、彼女がチートを嫌う理由は何となくだが分かる気配がする。確かに――不正な新記録ばかりが目立ち、その記録を破ろうとドーピングが横行するのは――本末転倒だ。
デンドロビウムは、フィールドの方を見つめる。そこには、ジークフリートを撃破したガングートの姿があった。厳密には、ジークフリートのチームがガングートのチームに敗北したのだが。その後に起きた出来事に関しては、デンドロビウム自身が見ていない事もあり――そこを問いただす事はしないだろう。しかし、チートプレイヤーを倒した事に関しては――出番を取られたと思っているようだ。
「これをご都合主義などと批判するようであれば、それこそ芸能事務所AとJに踊らされている――と言うべきか」
倒れているチートプレイヤーは、良く見るとアイドル投資家やアイドルファン、コンテンツ炎上勢の様な人間ではない。おそらくは、バイト感覚で何かの実験に付き合わされたような類の可能性――そちらをデンドロビウムは懸念していた。あるいは今回のバトルに関しては、何者かの作った筋書きだったという路線さえある。
「これだけは言っておく。芸能事務所AとJ、それと組んでいる政治家や広告会社――そうした勢力の密かに出すようなバイトには、手を出さない方がいい」
チートプレイヤーが倒された事は、彼女にとっても出番が宇和場割れたと言っても等しい。そんな感情を彼女は抱いている――のかもしれないだろう。そして、周囲のプレイヤーに芸能事務所AとJに関係すると思われる企業等には関わるな――そう警告した。
デンドロビウムは、結局ゲームをプレイする事無く姿を消した事になる。その後、他の有名プレイヤーも姿を消した――訳ではなく、しばらくはガングートのプレイを観戦したと言う。
「海外ゲーマーと言う事だが、アメリカ等でARゲームが稼働している話は聞かない」
「VRゲームじゃないのか? その技術をARゲームで応用しているとか」
「それでは、あのプレイスタイルに理由を付けられない。確かにFPS辺りの技術を使っているのは間違いないが」
「サバゲの経験者じゃないのか? FPSの場合は、そちらの技術が役立つ可能性があるだろう」
「それで、本当に問題ないのか?」
周囲のギャラリーもガングートのプレイスタイルには――色々と疑問を持つ部分も多い。海外ではARゲームが稼働していないのだ。類似機種があったとしても、ARゲームの様な動作システムが導入されているとは考えられない。
動画サイトでは、自作した人間の投稿動画もあるのだが――クオリティは到底日本のARゲームには及ばないだろう。それを踏まえると、プレイして数回というようなレベルで上位に入るような技術を得られるのか?




