エピソード46
・2022年7月3日付
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午後3時、草加市役所のゲーム課の部屋に入る一人の男性がいた。
『芸能事務所AとJが行っていた炎上マーケティング、その真相を掴まなければ――』
鹿沼零、ARメットを装着したままだが役所の職員等に呼び止められる事はない。彼が特殊な権限を持ち合わせている事の証拠なのかもしれないが――。
周辺の通りかかる人物が、鹿沼に声をかける様子はない。余計な事に首を突っ込むべきではないと考えている可能性もあるのだが――彼を怪しんでいる人物も何人かいると言う証拠だろう。
『その判断は正しい。ゲーム課に所属する人物に対する反応は、大抵がそうなる』
鹿沼の方もゲーム課の風当たりが悪い事は分かっており、ふるさと納税に関しても強行決定や鶴の一声系で決まった訳ではないのだが――。それ以外でも今まで起きていた事件を踏まえると、ゲーム課が関与していると思わしき事件も少なくない。事件が大規模テロ等に該当しない物だけでもマシと考える位の思考であれば、分かりやすいと思うかもしれないが――そうは問屋がおろさないだろう。
『一連の破壊行為や妨害工作――そう言った物の元凶は、超有名アイドルのライブ等を炎上マーケティングと認定し、排除した草加市にも責任がある』
鹿沼はARメットで様々な情報を調べている。ARメットにはインターネットとは別の特殊なネットへアクセスする事も可能なシステムも持っているのだが――。一方で、有力情報を簡単に手に入れられるほど、難易度の低い情報は彼が求めていない。
草加市役所のゲーム課、彼らの仕事は市民等からの情報で不正プレイやチート、様々なARゲームのガイドライン違反をゲーム運営とは別に取り締まる部署である。ARゲーム運営からすれば、彼らの存在は第3者機関と言われているのだが――そこまで簡単な組織であれば、彼らが市役所内部からも邪魔物にはされないだろう。
彼らが邪魔者扱いされるのは、芸能事務所A及びJの炎上マーケティングに関する情報を集め、海外を含めてコンテンツ流通の闇を暴こうと言う噂があったからである。これが真実なのか、ネット上の噂なのかは――鹿島も沈黙を続けている為に不明のままだ。
超有名アイドルのライブ禁止等に関しては、草加市も一部勢力が起こした大規模テロなどを踏まえての禁止処置と公式発表はしているのだが――それをファンが認めるのか? 残念ながら、その答えはNOと言わざるを得ないだろう。彼らが一連のライブ禁止を解除させる為に、強行手段やコンテンツ流通妨害を続けていたりするのは――。
『チートと言う技術自体、スポーツにおけるドーピング問題と同じレベルだ。チートは何としても排除しなくてはならない』
鹿沼の考え自体、デンドロビウムに類似しているようなチートに関する対応だが――?
谷塚駅から1キロほど離れた場所にあるARゲームエリア、そこではあるプレイヤーがアーケードリバースをプレイしていた。フィールドは廃墟、そのプレイスタイルは一般人のようなプレイスタイルとは全く違う物である。だからと言って、この人物がチートを使っているかと言うと――そうではない。
身長180センチほど、狩りゲーに見られるようなコートを着ており、ARアーマーの様な物も使用していないような気配もする。ARメットは必須なので、メットだけはしているようだが――。
『ガングートか――』
大剣を構えるのは、ジークフリートである。ハンドルネームを見て、久々に見たというプレイヤーもいるほど、プレイ率は減っているのだろうか? そのジークフリートの目の前にいたのは、何とガングートである。しかも、白銀のARメットを被っている為に素顔は見えない。アーケードリバースではモードによってARメットが必須の為か、それに従っているのだろう。
『ジークフリートとやら、お前に聞きたい事がある』
『聞きたい事があれば、ゲーム外で――』
『ゲーム外では困るのだ。あくまでもゲーム内で聞きたい』
ジークフリートも、まさかの反応には驚くしかなかった。彼女はゲーム内で聞きたい事があると言いだしたのである。内容によっては、答えようがないのだが――。
『貴様は、チートプレイに関しては寛容な方か?』
ガングートの質問を聞き、思わずジークフリートも真顔になる。一部プレイヤーからはブーイングも飛ぶ。それ程に、彼女の質問は衝撃的だったのだろうか。
『チートプレイや不正ガジェットが取り締まりを受けているのは、知らない訳ではないだろう?』
ジークフリートの方も若干のやる気をそがれた様子で話すのだが――ガングートの方は本気である。チートに関する認識がジークフリートとガングートでは違うのだろうか?




