エピソード45-5
・2022年7月3日付
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施設の入り口まで戻ってきた橿原隼鷹の目の前には、彼にとって衝撃的な光景があった。倒れている複数の警備員、それを倒したのはパワードスーツに近いガジェットを装備した青騎士と思わしき存在――。ある意味で、アレをリアルで見せつけられているのと同義であり――。
「何とかして、あの青騎士を――」
橿原はある意味でも切り札である巻物型の特殊ガジェットを懐から取り出し、式神を召喚しようと考える。しかし、召喚をしようとシステムを立ち上げ、呼ぶ直前で――。
【対応機種エラー。このガジェットは、この機種では使用できません】
まさかと言えるエラーメッセージだった。このメッセージには橿原も想定外と――。基本的にARゲームで、チートであればチート判定後にアカウントの強制凍結か切り離し、最悪の場合には削除される事がある。しかし、対応機種エラーと言うのは稀に発生する程度の細かいメッセージだ。このフィールドでは自分のガジェットが使えないと言う事も意味している。
「事前に使用可能ガジェットを調べるべきだったか――」
本来の目的ばかりを考えていたばかりに、他の事が見えなかったのか――それとも、完全に初歩的なミスだったのか。今の橿原には目の前の青騎士を止める手段がなかった。
もはや打つ手なしと思われたが――まるで、橿原に追い打ちをかけるような光景が、更に展開される事になる。
「なんだ――これは!?」
直後に姿を見せた人物、それが瞬時にして青騎士を撃破した。しかも、ガジェットも無力化した上で――。今回に限って言えばチートを使用した不正プレイではないのだが――所定フィールド外でのプレイと言う事で、ペナルティは避けられないだろう。
その際に瞬時というか――橿原に考える時間を与える事無く青騎士を撃破したのは――彼にも見覚えがある人物だった。アーマーの形状は、明らかに見覚えがない物だが――プレイスタイルを見れば、その正体は動画を見ている人物であれば分かるだろう。向こうも正体を隠すつもりはないのかもしれない一方で、橿原はこの人物が何故に今回の行動を起こしたのか――疑問に思う部分はある。
「あの人物は――」
その人物が橿原の方を振り向く。そして、何を思ったのか――。
『人の命をもてあそぶような――それこそ、ARゲームをデスゲームにしようと言う人物がいるのならば――』
話の途中で、目の前の人物がARメットのシステムを解除した。
『人の命は宝であり、それを拝金主義の勢力が奪う様な事は――あってはいけないのだ』
微妙に涙が――という気配のする言葉だが、その言葉には何かの強い思いがある。そして、その言葉には何かの覚悟が込められているのだろう。
「そうした勢力は、例え芸能事務所AとJ、その上にいるであろう神であっても認める訳にはいかない!」
彼女の正体――メガネをかけた美少女が、目の前に現れたのだ。体格はアスリートだが、それでも巨乳は明らかに目立つ。それを見れば、動画を見ているようなヘビーユーザーには特定されても当たり前――。彼女の正体とは、何とアルストロメリアだったのである。何故、彼女がここに現れたのかは分からない。
【アルストロメリアだと? 騙りじゃないのか】
【あのメガネは――明らかに本物だ。偽者だったら、あそこまでの肉体は持っていない】
【何故、この場所に彼女が姿を見せたのか?】
【噂によればアイオワも向かっているとか――】
【青騎士狩りが本格化するのか? それとも、別の何かが起こるのか】
ネット上でも、今回の中継を見ていたユーザーが驚いている。つぶやきサイトでも、ホットワードにアルストロメリアが浮上する程のレベルで。
騒動から5分後、橿原の思考は止まっているに近い状態だった。超有名アイドル商法を巡るリアル炎上、ガングートの一件、青騎士騒動――これらにはまとめサイトや一部の炎上勢力が共通していると思っている――。しかし、それさえも覆すような状況をアルストロメリアはやってしまった。
「お前は――ARゲームに止めを刺す気か!?」
橿原は本気で叫ぶ。それこそ、今まで何度も終了危機がささやかれ、ネットでも炎上マーケティングと言われていた――ARゲームを、アルストロメリアは終わらせようと言うのか?
「日本のコンテンツ流通は、一度リセットする必要性が出ている。だからこそ、芸能事務所AとJがやっている事を――世界中に拡散する必要があるのだ」
アルストロメリアの言葉に揺らぎはない。何を言っているのか理解できない可能性もあるが、彼女の目は真剣そのものである。彼女の言葉に橿原の方が逆に動揺を隠せないのだが――それこそ、あの時のアニメ作品と同じ事をアルストロメリアがリアルで行おうとしている可能性が高い。
「フィクションを――現実にする気か?」
橿原の質問にアルストロメリアが答える事はなく、そのまま姿を消した。一体、彼女は何を見極めようとしているのか。疑問は深まるばかりである。




