エピソード45-4
・2022年7月3日付
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目の前の山口飛龍と名乗る人物に疑いを持たない橿原隼鷹は、ある衝撃的な事実を知る事になった。
『ガングートと言う人物は知っているか?』
彼はガングートと言う名前を出すのだが――ネット上でガングートと調べると、違う人物がヒットする。一体、これはどういう事なのか? 橿原はガングートと言う名前は聞いた事があるのだが、この場で聞く事になるとは予想外だった。
『――では、この人物を知っているか?』
山口が持っているタブレット端末に表示されていたのは、一人の女性だったのだが――。
「何故、その人物を知っている?」
端末に表示されていたのは、地下アイドルグループの会場で歌を披露している女性の姿だが――。何故、山口は彼女をガングートと言及したのか? 橿原は彼女の所属グループ名を知っているような気配だったが、何故か思い出せないでいた。
『この人物の過去は抹消されている。数少ない写真と動画が残っているだけで、彼女の本名及び経歴等は――』
「それこそ、怪しいとしか言いようがない。芸能事務所の情報戦なのか?」
『情報戦であれば、このような手は使わない。直接的にネットを炎上させ、該当グループを黒歴史化するのもたやすい』
「直接的に行う事も不可能ではないが――芸能事務所が実行したという形跡があれば、それをネット上に晒されるのが落ちだろう」
『そうだ。これに関しては情報戦ではない。だからと言って、晒し上げの類でもないだろう』
「では、どういう事だ?」
『それは――』
山口が何かを話そうとした矢先、山口のARメットにインフォメーションメッセージが表示された。
【該当セキュリティアカウントを持ち合わせていません】
このメッセージが出た時、山口は思わずチッと一言――。この声は橿原には聞こえていないのだが、彼のリアクションを見て偽者ではないか――とも考える。
『ここは撤退をするしか、方法がないのか――これ以上、正体を悟らせない為にも』
このボイスはカット機能により出力されていない為、周囲のスタッフや橿原には聞こえていない。そして、次の瞬間にはステルス迷彩を使ったかのように姿を消したのである。ARゲームにおけるステルス迷彩は、ARゲームプレイヤーには見えていないが、ARゲーム関連のバイザーを使っていないギャラリーにはバレバレと言う物だ。
しかし、彼の使ったステルス迷彩は――実用レベルに到達しているような物であり、ARバイザーのシステムをカットした橿原でも姿を確認出来なかったのである。
「あの人物には覚えがあった――だが――どういう事なのか」
橿原は山口らしき人物が見せた画像――それに覚えがあった。あの場所は、秋葉原の某劇場で正解かもしれないが、それを裏付け出来るような時間はないだろう。そうしている間にも山口と思わしき人物は何処かへと逃げてしまうからだ。
「あの人物が仮にガングートだとすれば、草加市に現れたガングートと同一人物なのか?」
別の問題も浮上している。草加市に姿を見せたガングートは、画像の人物とは外見が異なっていた。整形手術をしているような形跡はネット上のプロゲーマーであるガングートにはなかったし、便乗して名乗っているなりすましとも思えない。だからこそ――この目でガングート本人を目撃しなければ、この問題は解決しないと感じていた。
橿原はサーバールームから出て、施設の入り口まで戻る。その時にはガーディアンの警備がいなくなっており、ある種の異変が起きたのかと感じていた。
「――案の定か」
嫌な予感が的中した。外へ出ようとした所で、気絶した警備員の姿が見えたのである。気絶と言っても、あのARアーマーを一気に貫通して物理ダメージを与えられるような手段があるのか?
このビルでは銃刀法違反に該当しそうな物を持ち込む事は不可能、それに爆発物も厳重に警戒されており――持ち込めるはずがない。ここまでして彼らは大規模なテロが草加市で起こる事を恐れ、厳重な警備やセキュリティ強化をした結果――わずかなネット炎上でも通報可能なディストピアを生み出したと言える。
「一体、ここまでのテンプレ展開を起こして――!?」
橿原が警備員の一人と戦闘をしている人物を発見した。警備員が戦っているのは、人物と言うよりはパワードスーツに近いだろうか? 厳密には――。
「青騎士――ここにまで現れるのか?」
警備員と戦っていたのは、何と青騎士だったのである。既に壊滅寸前であり、都市伝説としての青騎士も衰退しつつあるような状況で――彼のネームバリューに価値観を持っている勢力が残っているのか? 橿原は様々な疑問を持ちつつも、何とかして警備員を助けようと動くのだが――。




