エピソード44-2
・2022年7月3日付
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午後2時40分、ガングートのプレイ終了後に別のプレイヤーが同じアンテナショップへ姿を見せた。先ほどまで隣の店舗にいたジャック・ザ・リッパーが、まさかの来店をしていたのである。殴りこみと言う様な物騒なものではないのだが。
「あれは、ジャック・ザ・リッパーじゃないのか?」
「まさかの展開だ。ガングートだけでなく、上位プレイヤーのジャックまで姿を見せるとは」
「これはラッキーと言うべきか?」
「しかし、ガングートのレベルではジャックには勝てないだろうな。まぐれでもない限り――」
「プレイヤーのレベル差があると対戦が成立しないジャンルもあったはず」
ギャラリーもジャックの出現には驚きを感じているようだ。その一方でガングートもいると言う事で、対戦を望む声もあったのだが――。
『貴様が噂のガングートか――』
話を切りだしたのは、意外な事にジャックの方からだった。遭遇したのは、ガングートの方が先でジャックの方は通りかかったというレベルであり――。
「ジャック・ザ・リッパーか。都市伝説の殺人鬼をプレイヤーネームにするとは――こちらも人の事は言えないが」
ガングートはジャックの名前に関してツッコミを入れようとしたのだが、それを言ってしまうと自分も同じなのであえて言及を避ける。
『それは貴様の方も同じだろう。ロシアの実在戦艦を名前に使うとは――』
「これは、あくまでもハンドルネームと言うよりも――芸名が近いか」
『本名は語らないと言う事か? それもよかろう。ARゲームでは本名を詮索しないのが一種のマナーだからな』
「自分の場合は、ほぼ本名と言っても差し支えのない――そう言う事だ」
ジャックはガングートの『本名と言っても――』と聞いた時に驚いたような表情をするが、それがガングートに見える訳ではない。ジャックのARバイザーは透明度的な意味でも素顔が見えないのだ。ガングートはARメットを被っていないので、素顔が丸見えなのだが。
『――それ以上の詮索は避けるが、何のために自分と接触しようと思った?』
ジャックはガングートが接触してきた理由を聞こうとした。しかし、ガングートはジャックをにらみつけることはせず――逆に、何かのモニターを見ているようでもある。まるで――そっちを見ろと言わんばかりに。
ガングートが見つめていたモニター、それはARゲーム用の専用モニターである。アーケードリバース専用と言う訳ではなく他のARゲームにも対応しており、そちらの動画を視聴する事も可能だ。
『モニターに何が映って――』
ジャックがモニターを見ると、そこにはまさかの光景が映し出されていたのである。あまりにも予想外過ぎて、言葉を失う程の下剋上だった。
倒されていたプレイヤーはチートを使用していたプレイヤーではなく、何とアイオワである。彼女もプロゲーマーとまではいかない物の、実力者と言う事でネット上では有名なのだが――想定外のジャイアントキリングにギャラリーも言葉を失っていた。
「おいおい、まさか過ぎるだろ?」
「チートプレイヤーを倒した程度では自慢にならないが、これはどういう事だ?」
「倒した人物は? アルストロメリアか? それともデンドロビウムか?」
「ジャックが言葉を失っているという事は、よほどの新人プレイヤーによる下剋上かもしれない」
周囲のギャラリーも数秒の沈黙ののちに動揺し始めていた。それほどに衝撃的な映像だったのだろう。プレイ動画の方は終盤まで進んでおり、残りは雑魚プレイヤーだったのか――あっという間に撃破される。
【ウイナー】
ウイナーのメッセージと共に画面上に姿を見せていた人物こそ、ジャックの目の前にいた人物でもあるガングートだった。まぐれでアイオワを倒した訳ではないのは、先ほどまでプレイの様子を見ていた人間ならば誰もが認めている。この動画を見て驚いたのは、ジャックが来た辺りで集まったギャラリーなのだ。
『プロゲーマーのガングートも、名前だけではないと言う事か』
ジャックは改めてガングートに尋ねようとしていた。ただ、自分の顔をみたいだけではない――のは明らかだろう。その目的を――。
「ARゲームを町おこしで使う事に、何の意味がある? ARゲームはイースポーツと同じく一種のビジネスと似たような物――違うのか」
ジャックの方も閉口するような質問に、ただ驚くしかなかった。ジャックもふるさと納税や町おこしに関しての話はネット上で聞く程度の知識しかない。それをガングートが訪ねてきたのだ。彼女はチートプレイヤーには興味がないのか? それとも――。




