エピソード35.5
・2022年6月30日付
行間調整版へ変更
7月25日、会社の社長室でタブレット端末を片手にサイトを検索していたのは山口飛龍だった。
「ARデュエル――決して欠陥があった訳ではないのだが、対戦格闘も飽和状態なのだろうか」
山口が見ていたのはARデュエルのロケテストを告知しているホームページだった。当初はゲリラロケテだったのだが、本日からは正式のロケテストになっている。ARゲームのゲリラロケテは禁止されている訳ではないのだが、客足的な意味で正式なロケテストを申請したのかもしれない。
「こちらもプロジェクトが断念した物もある以上――下手な鉄砲を撃つ事は不可能。さて、どう出るべきか」
山口も過去に何個かのARゲーム関係の企画を立ち上げた事がある。しかし、それらの計画は実行に移す段階で資金難や既存の作品との差別化等を出せなかった――と言う理由で計画は打ち切り。その後も色々な計画を立案している中で、アーケードリバースの話を耳にした。最終的には様々な条件があったものの、彼にとっては悪くない条件だった為に参加する事になる。その一方で、彼はアーケードリバースがどのようなものか密かに調べ始めていたのだ。
アーケードリバース、ジャンルとしてはFPSと言うカテゴリーに設定されているのだが、そのルールはFPSと異なるシステム等も含まれている。6対6というチーム戦がメインで、特定の輸送機等を護衛、コンテナ内のアイテムを回収してゴール地点へ運ぶ、拠点防衛の3つが存在する。それ以外のルールとして、スタート地点からマップの何処かにあるチェックポイントを通過してゴールへ向かうパルクールと言うシステムも確認された。
パルクールと言うシステムは未実装状態であり、将来的に実装する可能性は示唆されている。ただし、山口が資料を見た際にはパルクールの文字は全くない。つまり、このシステムを実装考慮し始めたのは山口が途中で会議に参加しなくなったタイミングか?
大きなルールとしては、相手プレイヤー及びギャラリーの負傷及び事故を誘発する行動や意図的な妨害行為の禁止、チート及び不正アプリ禁止、八百長禁止だろう。細かい規定に関しては、公営ギャンブルの様に扱う事、戦争の道具にする事、ネット炎上に悪用する、特定アイドルコンテンツとのコラボ等――大まかだが、細かい禁止項目があった。露出の高いスーツは禁止していないのだが、あまりにもアレな衣装はプレイ前に警告を受けるらしい。
しかし、こうしたルールを設定したのは自分である。最初に運営側が禁止にしていたのはチートと八百長、プレイヤーやギャラリーに危害を加える行為の禁止だけ。つまり、公営ギャンブル等の部分は運営側も設定する予定がなかったと言える。山口は本来であればゲーセンでプレイ出来るようなゲームの延長線上としてのARゲームを想定していたのだが――。その後、運営が想定している物は何か――それを山口が探った結果として、様々なルールが設定されていく。
この様子を黙って見ている訳ではないのは、芸能事務所側も同じだった。新たなコンテンツが生まれる状況――それは自分達のコンテンツが終了する事を意味している。さすがに、そう言う考え方をするのは特定芸能事務所2社だけだろう。
それに加えて――2社がコンテンツ流通で暴走しているのは、過去の事例を見れば火を見るより明らかだ。芸能事務所2社は、地球上全ての資産を自分達の手中に収めようと言うのか? あるいは地球上の絶望を希望に変えると言うマッチポンプを行う気なのか?




