エピソード21.5
・2022年6月27日付
調整版に変更
午後1時30分、ファストフード店の店内に設置されたモニターで一連の動画を見ていたのは――。
「あの人物――そう言う事かもしれない」
背広姿のアンテナショップの男性スタッフは、コーヒーを飲みながら観戦している。その隣にいるのは、ペンドラゴンだった。こちらはスタッフ専用作業着だが。
「あの人物って、相手のプレイヤーか?」
ペンドラゴンはモニターで相手プレイヤーを指差すのだが、彼の言う人物とはそちらではない。相手の人物は十中八九でチートプレイヤーだろう。しかし、ペンドラゴンにはそれが見分けられていないようだ。
「違う。そっちのプレイヤーではない。むしろ、そっちのプレイヤーが戦っている相手だ」
背広の人物が言う人物とは、アイオワの事だった。アイオワの装備はSF物と言うよりは、北欧神話等も混ざっているようなデザインだろうか。メットのデザインは北欧神話で間違ない。この人物もメットを被っている関係で正体が判断できない状態だ。
アイオワは、本来であればアーケードリバースに参加する気がなかったのである。しかし、色々な事情や『いわくつき』という事で参加を決した経緯が存在していた。それ以上に――彼女がアーケードリバースに適応出来た理由、それはネット上でも議論が持ち上がっている。
【アイオワって名前に何かを感じる】
【デジャブか?】
【そうではない。むしろ、何処かで見たような――】
【ロケテストの動画は半数以上が既に削除されている。削除と言っても、コピーは残っているが】
【コピーではないオリジナルの動画で、同じ名前のエントリーネームを見た事がある】
【ロケテストのプレイデータは反映されないはずだ】
【確かにそのはず。しかし、同じプレイヤーが――】
ネット上で議論されていたのは、アイオワがロケテスト勢である可能性だった。ロケテストから始めているプレイヤーでも、アーケードリバースが全く同じ仕様でリリースされているはずはない。それを踏まえると、ロケテスト勢が圧倒的なアドバンテージを持つ事はおかしいだろう。仮に色々な部分で調整が入るのは確実であり――。
【格ゲーでもパターンが見つかれば、それは修正されるはず】
【アーケードリバースはFPSだ。一部プレイヤーに有利な法則は残すとは思えない】
【ランカーでも適応するのには時間がかかった話がある。それを踏まえると――?】
ここでランカーと言う単語が出た事で混乱する事になった。ビスマルクもロケテストの一件は知っていたはずであり、他の有名プレイヤーも情報収集はするだろう。それを踏まえれば、アイオワが圧倒的な強さである説明がつかない。
【チート装備か? アイオワの強さはチートガジェットか?】
このコメントを見たネット住民は、ランカーの本当の強さを知らないで発言していると――そう思った。ゲームの事情を知らないで発言した場合、それが芸能事務所等のネット炎上に利用されるのは目に見えているのに。
午後2時、地方局では競馬中継が放送されている頃、谷塚駅よりは若干離れたコンビニで何かを探している女性がいた。身長は177辺り、体格はアスリートっぽいのだが――彼女の場合は、ファンタジーのアマゾネスを思わせる。その証拠として――彼女が着用しているのはスポーツブラだ。一部の男性が釘付けになると思ったが、そんな視線を送る人物はいないだろう。
「あとは、アンテナショップへ行けば――」
彼女が端末で発行していた物、それはARガジェットの注文カードと言えるもので、これをアンテナショップへ持っていけば受け取れる仕組みだ。事前に予約はしていたのだが、入手に時間がかかってしまったらしい。あるいは、彼女が本来プレイするはずのARゲームガジェットが品切れだったとか。
「いよいよ、私の出番ね」
彼女の名はアルストロメリア――ふるさと納税でARゲームを支えている人物だ。
彼女の様な人たちがいるからこそ、アーケードリバースを含めたARゲームは成り立っている。こうした事例は、現状では草加市以外にはない。転売されそうな返礼品よりも、こうしたケースに生かそうと進言したのは草加市の方だが――。まさか、こうなるとはだれも予想していなかったに違いない。




