別の可能性として
・2022年7月9日付
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10月1日、アーケードリバースのあの一件から変化があったのだろうか? 何も変わっていないと言うと嘘になるが、変化があったのは事実である。
「あれから、様々なジャンルでユーザーが増え始めたらしい」
「本当なのか?」
「運営側の体制にも変化があったし、それに――」
「それに?」
「マナーを守らないようなユーザーも、今までと比べて減った」
アンテナショップのフードコーナーでコーヒーを飲んでいた2人は、センターモニターのプレイ動画を見て話し合っている。どんな内容なのかは想像出来るのだが――それが周囲に分かるように話している訳ではない。その辺りはネット炎上防止の観点なのか? それとも、煽り的な要素は禁止と言う事になったのか?
「チートプレイヤーは、新作でない限りは減ったように見える。それに――」
別のテーブルでメロンソーダを口にしていたのは、アイオワである。アーケードリバースでの目的は現段階では果たされていない。残念な事に、まだゲームの全貌を見極めたとは言えないからだ。
「アーケードリバースに限って言えば、まだ全てをクリアしたとは言えないし――」
思わぬ乱入者もあった。青騎士騒動の様な事件もあった。それに、やはりというかネット炎上も――。全てがフェアな状態でゲームを楽しんだとは言えないし、目標も未達成のままだ。自分の本当の目的は、他人に話すような物ではない。本当に些細なものである。
「今の所は、何も考えないでゲームを楽しむ方が優先かな?」
少し残ったメロンソーダを勢いよく飲み干し、コップをカウンターの方へ返却する為に席を外す。他のプレイヤーもアイオワを見て、指を指すようなことはせず――放置をするような流れである。
アンテナショップでは、新作のARガジェットも入荷していた。アーケードリバースは新作ガジェットがなく、アプリ等のシステム的な物がメインで――陳列棚には置かれていない。アプリ自体はダウンロードをすれば済む物なので、アンテナショップには置かないのだろう。
他のジャンルでは、屋外に大型ARガジェット及び搭乗型のARシステムが置かれている。これらの大型ガジェットでも十万円単位の高価なものではない。ARゲームによってはレンタルと言うパターンだが、大抵は五万円弱で買えるものだ。ただし、置き場所に困るのでコンテナに収納して使用する際に展開するパターンが多い。
ARガジェットと言っても、腕に装着するようなタイプやタブレット端末タイプが多く、特殊形状は少ない。ARウェポンはアンテナショップでも取り扱いがない。その理由は、これらもCGで作られている物であり――ARガジェットで呼び出すタイプが多いからだ。
ARアーマーは――インナースーツやベースアーマーは並んでいるが、本格的なアーマーもCGなのでARウェポンと同じ理由で置かれていないのだろう。ただし、アーマーに限って言えば露出度が高い物等の様なものではない限り――疑似的にアーマーが展示されていたりする。
ARフィールドでの試着はジャンルによっては可能だろう。アーマーは水着などと違って、試着しなければ分からないような部分もあるのだから。
そして、ARゲームはニューステージへと進むだろう。その場にデンドロビウムとアルストロメリアもいるかどうかは別としても――。物語には始まりと終わりと言う物があるように、ARゲームにもサービス終了と言う物があるかもしれない。ARゲーム自体は据え置き機の様な形式では、サービス提供が難しいゲームでもあるからだ。
いつか飽きられてしまい、誰からも見向きもされなくなった時にサービスが終わるのか? それとも、運営の不祥事で幕切れするのか? それは、ガイドラインや運営方針が変化したばかりの今では判断が難しいだろう。
しかし、ARゲームの収益で草加市の道路整備や洪水対策、様々な分野の資金が――と言う現状は続いている。ふるさと納税と言うシステムでは失敗したが、今度こそは失敗しない方法を――と言う事で試行錯誤は続く。草加市が変化していく様子はテレビやメディア等でも取り上げられているが、今度はネット炎上等を誘発するような方法ではない。そうした方式を禁止した事で――と言う事かもしれないが、全てのメディアが従うとも思えないのは事実だ。
『デンドロビウムとアルストロメリアが示した物――それが歪められれば、またリアルウォーが始まる』
白銀のARアーマーにデュアルアイのメット、デザインとしては戦艦モチーフと思われるようなデザイン――。明らかに何処かで見た事あるような存在が、草加駅の近くにあるARフィールドに姿を見せた。その人物が、おそらくはガングートなのではないか――と指摘する人物もいる。
しかし、形状はガングートのそれとも違うし、明らかに新型ガジェットを思わせる箇所もあるだろう。この人物は何を思って草加駅に姿を見せたのか――それは、まだ誰も知らない。敵か味方か、それとも――新たな始まりなのか? それをフライングで判断し、ネット炎上させる勢力もいるだろう。風評被害やネット炎上が容易なSNSが存在し続ける限り――ネット炎上を懸念する運営サイドの戦いは続く。どのような判断を下し、世界が再構築されていくのか――?
『新たな戦いがあるとすれば――悲劇的な結末ではなく、自分は大団円を望む!』
そして、この人物はARウェポンのフライングビットを展開する。周囲にいたと思われる敵は、あっさりと撃退された――。おそらくはネット炎上勢力だろうか?
全ての敵を撃破し、ゲームが終了したと同時に――彼女はメットを脱いだ。
「本当にゲームを楽しむ為にも――私は、このフィールドで改めてゲームのいろはを学び直すつもり――」
その人物の正体、それは過去に青騎士とも呼ばれていた――ヴィザールだった。今は過去のアカウントは保留状態として、仕切り直しでARゲームをプレイしている所である。果たして、彼女は――本当の意味でゲームを楽しむ事が出来るのか?
「デンドロビウムとアルストロメリアが愛したARゲームを――そんなことは、どうでもいいわね」
ヴィザールは改めて思った。デンドロビウムとアルストロメリアの為にゲームをプレイするのではない。自分が改めてゲームを楽しみたいからこそ、アーケードリバースに正式参戦をする事になったのである。
「これから、ARゲームを楽しめば――楽しんだもの勝ち、かな?」
ヴィザールは右手で握りこぶしを作り、大空に向けて突き上げる。これからが、本当の意味での自分のリスタートだ――という決意表明でもあった。