もうひとつの9月12日
・2022年7月9日付
行間調整版へ変更
タイトルを「もうひとつの9月12日」に変更
9月12日、13日にはデンドロビウムが上位10人に入るのだが――。その前日、とあるプレイヤーがRTA勢力の残党と発覚し、アカウント凍結を受けたらしいニュースがネット上で拡散した。これに関しては、何時も通りのネット炎上を狙ったネタつぶやきの類と思われていたが――事実だと言う事が後日発覚する。
それよりも衝撃的だったのは、午後2時のレイドバトルだった。この段階では20位の付近だったデンドロビウムだが、このレイドバトルでは予想外のターゲットが出現する。
「ドラゴン!? ファンタジーじゃあるまいし」
あるプレイヤーは、目の前に出現したのがドラゴンだと思い込む。しかし、その形状は一般的にネット上でドラゴンと言う物とは――決定的に違う個所がある。
【良く見ると、機械的な意匠がある】
【メカドラゴンと言うには――何か違うだろう】
【ドラゴンと言っても、爬虫類的な物ではない――】
【ボスレイドは様々なデザインがあると聞いたが、ああいうのもあるのか?】
【そこまで言われると――】
ネット上でも様々な意見が飛ぶが、ボスレイドのドラゴンは一般的なファンタジーで定義されるドラゴンとは違うらしい。だからと言って、全く違う存在をドラゴンとも言っている訳ではないのだが――。
次の瞬間、ドラゴンと思われていた物は変形をし始める。しかも、その形状は数十メートルクラスのロボットと言っても差支えないだろう。
【は!?】
【じゃあ、なんでドラゴンだったのか】
【アーケードリバース自体、世界観はSFに近い。そう言うトリックアート的な演出だったのかも】
【どうしてこうなる?】
【なん……だと……】
様々な驚きの声がありつつも、レイドバトルは始まった。この時のマッチングには、とあるプレイヤーの名前があったのだが――そちらには気づかれていない。
そのマッチングでは、周囲も驚かされる展開が起こっていた。ゲーム開始から30秒も経過していない時間だった為に、周囲の衝撃も大きかったのだろう。それは――剣の斬撃と言ってもいいような物である。その大剣は、まるでチェーンソーだったという声も。
【あの剣が噂のバランスブレイカーなのか?】
【あのドラゴン、さりげなく別エリアで6割位の体力を削られていた物だな】
【しかし、だからと言って一気に体力が0になる訳がない】
【遠距離武装で削っていた人間はいるようだが】
【削った後に、あの剣で止めだったという事だな】
結論はどうであれ、武器の形状がチェーンソーに似ていた事で『一撃必殺武器が発見』というまとめ記事で取り上げられる事になった。しかし、これがフェイクニュースなのは当然分かるはずなのだが――ある都市伝説もあって、それが嘘だと気付くのに時間がかかり過ぎたのである。この武器を使用したのは、実はデンドロビウムだ。武器に関してもアンテナショップで見れば発見できるような物――。
今回の一件を風評被害やネット炎上狙いのニュースとして使うにしても、調べられたら嘘と一発で見破られるような手抜きニュースなのは間違いない。
それでも――見破られるのは、これより後の話となる。そこまで気づかなかった理由は色々とあるのかもしれないが、あまりにも手抜き過ぎてニュースを見るネット住民が少なかったのかもしれない。視聴者が少ないというのも見破られるのに時間がかかった部分だが、それとは別にネット上で創作小説が存在し――。
【チェーンソーって、あそこまで凄いのか】
【神殺しの武器と言うのも、案外正しいのかも】
【しかし、違法動画を今のご時世でアップして――何の得があるのか?】
【もしかすると、芸能事務所AとJからバイトと称して、動画をアップする仕事があるのかも】
【どっちにしても、違法動画のアップロードは――】
その小説では、違法動画のアップロードがきっかけとなり、チェーンソーでバラバラにされてしまう物語だ。かなりの短編であり、3000文字にも満たないが――ネタ的にはインパクトがあったらしく、これをベースにした創作と思っていたらしい。それが――偽ニュースを見破れなかった理由の一つのようだ。
まさか、レイドバトルが二次創作小説化しているとは――誰も思わなかっただろう。ある意味で二流の夢小説を通報しても、逆に運営からオオカミ少年と思われる可能性が高い――と言う人間がいたのか、と言われると定かではない。そして、あの日を迎える事となったのである。