ケースオブガングート
・2022年7月9日付
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ARゲームとVRゲームは、似ているようで似ていないと言われている。簡単に言えば、VRが仮想現実と言われている事に対し、ARは拡張現実と言われているのだが――。何度も繰り返しになるが、これを把握しないでニワカにARを語ると悲惨な事になる。それは、一連の青騎士騒動やネット炎上を見れば――嫌でも理解できるだろう。
『何処から何処まで説明すれば――そう思うときはありますが、それでも分からない人はいるでしょう』
山口飛龍は武者道で新作のARゲームをリリースすると発表した際、このような事を言ったと言う。その後、VRとARの違いを織り交ぜながら新作ゲームの説明を行ったらしい。その時に発表した新作ゲームと言うのは、アーケードリバースではなかった。あちらは、あくまでも草加市が主体となって開発した物である。厳密には草加市以外にも様々な会社が関係していたのは事実なのだが――。
「近年はARを表示できる端末は増えていて、ARゲームもいくつかリリースされているが――」
アーケードリバースを数回プレイした後、ガングートはそう思っていた。彼女はFPSに関してはプロゲーマーと呼ばれる程の実力を持っているが――他のジャンルには疎い部分もある。しかし、アーケードリバースにはFPSでの技術が応用できるような箇所があり、そこに戸惑っているようでもあった。
その後、ガングートのプレイ動画が拡散され始めると、それに関して驚く声もあったのだが――。
【ガングート? いつぞやのなりすましが復活したのか?】
【この場合は復活したというよりは、何も知らないニワカのなりすましだろうな】
【いや、これは違うぞ――】
つぶやきサイトでは、以前のなりすまし事件を踏まえ、ガングートと言う名前を見ても本物とは信用しない。しかし、プレイ動画の動作は――FPSの大会で見せたような動きであり、本物と言われていた。
【本物? まさか、偽物アカウントが増えている事に対して――】
【そうではないだろう。いちいち、ささいなスパムアカウントの事件に首を突っ込むのか?】
【それよりも、本物のガングート? まさか?】
本物のガングートが草加市に来ている事自体、既に衝撃のニュースなのは間違いない。稀にプロゲーマーが来たときにも大きなニュースになる事があるのだが、そのクラスを超えている人物が来たのだ。どちらにしても――ネット炎上勢力に利用される可能性は十二分にあるだろうか。
1クレジットで100円と言うプレイ料金は、ゲーセンに置かれている体感ゲームと同じくらいの値段である。その値段でARゲームがプレイ出来る事は別の意味でも衝撃があった。アトラクション施設でも入場料で1000円単位で取られる場所もある事を踏まえると、赤字経営を疑うレベル。それでも草加市のARゲームはふるさと納税で運営されている事もあり、赤字と言う箇所は不安視されていない。しかし、どちらにしても色々と考えさせられるレベルなのだが。
「どちらにしても、ARゲームとVRゲームでは感覚も違う――まずは、それを覚える事が重要か」
ARゲームとVRゲームは全く同じシステムで展開されている物ではない。VRが仮想現実、ARが拡張現実と言うのは――ガングートにも分かっている。問題は――それさえも超えるような演出や体験をもたらしているアーケードリバースは、本当にARと言っていいのか?
「どちらにしても、アーケードリバースは虚構だ。現実の世界で起こっている出来事ではない。これが現実の出来事と重なれば――」
バーチャルとリアルの区別がつかなくなる現象は、様々なサイト等でも言及されている。しかし、どれもガングートにとっては理解できないような世界であり、興味の範囲外でもあった。その状況を変えようとしているのが、今プレイしているアーケードリバースなのである。
間違いなく、この世界は何時か別の次元――別の世界で技術が急速に進歩した時に現実と虚構の区別がつかなくなる現象も起こるだろう。テレビのヒーローに誰もがなれる世界、ラノベやアニメの主人公が現実世界に現れる世界、ゲーム世界で起こった出来事がリアルの世界で重要な事件として取り上げられる世界――。ガングートは、アーケードリバースのシステムに何かの危機感を抱いていたのである。
そして、何度かプレイしていく内に――彼女はある人物に遭遇する事になった。
『貴様が噂のガングートか――』
その人物とは、ジャック・ザ・リッパーである。彼女の知名度はアーケードリバース内では、上位ランカー以上の注目度を持つ。そういった人物を発見した事、それはガングートにとっては重要な何かを意味しているのだろうか?
「ジャック・ザ・リッパーか。都市伝説の殺人鬼をプレイヤーネームにするとは――こちらも人の事は言えないが」
ジャックと言えば、殺人鬼の名前でもあった為――このような発言になったのだろう。このガングートの発言は別の意味でもブーメランと化した。
『それは貴様の方も同じだろう。ロシアの実在戦艦を名前に使うとは――』
「これは、あくまでもハンドルネームと言うよりも――芸名が近いか」
この段階で、ジャックは異変に気付くべきだったのかもしれない。確かに実在戦艦でも同名の物は存在するだろうが、それはビスマルク等も一緒だと言う事に。
『本名は語らないと言う事か? それもよかろう。ARゲームでは本名を詮索しないのが一種のマナーだからな』
「自分の場合は、ほぼ本名と言っても差し支えのない――そう言う事だ」
他の人物とは違う何かが、このガングートの発言にあった事には周囲のギャラリーは気づいていない。プロゲーマーのガングートに関しては一種の有名人かもしれないが、それはFPSと言うジャンルでの話だ。
ARゲームでは他のジャンルのプロゲーマーでも、圧倒的なアドバンテージを持っている訳ではないのはネット上でも当然の認識である。そんなガングートが、何故にジャックと接触しようと考えたのか――?