エピソード67-6
・2021年10月9日付
カクヨム移植に伴う修正。
同行できる⇒どうこうできる
汗一つ書いていない⇒汗一つかいていない
・2022年7月11日付
行間調整版へ変更
残り2人、タイムリミットも2分を切った辺りで動きがあった。まさかの乱入者だったのである。アルストロメリアとデンドロビウムも唐突な乱入者には焦った。このタイミングで乱入者が認められるのか――と思われがちだが、1分前で締め切られる為に問題はない。基本的に、2分弱でもレイドバトルモードではレイドボスのライフを削るのには師匠がないらしいが――。
「これ以上、あの連中にARゲームを荒らさせるわけにもいかなくなった」
2人の目の前に姿を見せた人物は、何とガングートだったのである。何故に彼女が――と2人は状況を呑み込めない。ガングートはスコア的にも2位に該当する人物なのだから。
ガングートの動きは、明らかに機動力タイプのソレではない。おそらくはバランスタイプだろうか? それでも的確に攻撃を当てているのは、彼女がプロゲーマーに由来する可能性は高い。使用している武器は長距離タイプのビームライフルで、追尾機能等は存在しないが――。
「あの武器で当てられるのか――?」
デンドロビウムは、ガングードの命中精度に関しても驚きを隠せないでいた。しかし、火力は決して低い武器ではないはずなのに――相手のライフゲージはあまり減っている気配がない。
その一方で、ゲームの様子を本部ビルで監視していた運営サイドは――。
「このデータは想定外すぎます」
「レイドボスの強さは、こちらでプログラミングした物の10倍――もしくは、100倍に匹敵!」
「これでは今回のプレイには支障がなくても、今後のイベント運営に支障が出ます」
「あのレイドボス自体がチートと言う噂もネットで拡散している模様――」
スタッフの方は大慌てであるのに加え、この様子には運営側も頭を痛める。今回のバトルは不測の事態という発表で通じるかどうかも、微妙かもしれない。逆に芸能事務所側が炎上させるネタとして利用するのは目に見えているし、まとめサイト勢力やネットイナゴが――。
「仕方がない。このレイドバトルは――」
運営の偉い人も、さすがにこのままではネット上が荒れると判断し中止を宣言しようと――。
『その中止は待っていただきたい!』
突如として、運営の入り口である自動ドアが開いたと同時に姿を見せたのは――鹿沼零だった。何故、彼が運営に姿を見せたのか? 周囲のスタッフも若干だが動揺している人物もいる。
「ARゲーム課の――しかし、あなた方でも強制介入で中止にする権限はないはずでしょう?」
『確かに、旧ガイドラインであれば――権限はない。しかし、今はガイドラインでどうこうできる状態ではない』
鹿沼がタブレット端末を運営側に見せ、事の重要性を伝える。その端末に表示されていたのは、先ほどメールで送られて来たメッセージでもあった。
「これは――!?」
『迂闊な中止は、向こう側の思う壺でしょう。それに、あのサーバーにハッキング可能な手段があるとネットで拡散すれば――』
「確かに、迂闊な中止でイベントを混乱させるのはこちらの総意ではない」
『では、今のバトルは止めずにタイムアップまで待っていただきたい。丁度――』
運営側も鹿沼の意見を聞き、タブレット端末に書かれていた情報を見定め、中止に関しては撤回する事にした。しかし、それも一時しのぎにすぎないのは鹿沼にも分かっている。
レイドバトルは時間切れで終了となった。残りメンバーはガングートを含め、3名が残った。その後、スコアリザルトが表示され、残った3名にダメージを与えた分のスコアが配分される。撃破されたプレイヤーにもスコアは入るのだが、残ったメンバーよりは非常に少ない。これでは、上位争いも難しいだろうか?
バトル終了後、3人はログアウトして外で小休止する。連続プレイも可能ではあるが、相手が相手だった為に疲労の方が蓄積していた。3人とも汗をかいており、その汗の匂いも気になる所だが――それどころではない。シャワーを浴びてからプレイするのも可能だが、それを許すような状況なのか? 仕方がないので、3人ともタオルで汗を拭きつつ――水分を取る事にした。
「所で――あなたが乱入した理由は?」
デンドロビウムは汗一つかいていない為か、息切れもしていない。アルストロメリアとは大きく違うだろう。その彼女がガングートに事情を聞くが――それを聞かなくても彼女は答える気があったようだ。
「あのレイドボスは、秋葉原で奪われた試作ガジェットで生み出された存在――」
『秋葉原で――奪われた物?』
「そうだ。あのガジェットは、本来であれば究極のガジェットと言えるような物とネット上でも言われていた」
『ネット上の噂なんて、あまり信じられるような物じゃないわ』
「しかし、あのレイドボスの強さを見れば――どれだけ危険なのか分かるだろう?」
『―――っ!』
アルストロメリアも、ガングートの言う事をにわかには信じられない。しかし、チートや不正ツールでもないような圧倒的な能力は――見てきた自分も信じざるを得ないだろう。
「不正ツールでもチートでもない――それでは、公式チートの様な物か?」
「試作型である以上は、公式チートではないだろう。あくまで調整中の物だろうな」
「それがマーケットに出回ればどうなる?」
「バランスブレイカーの増加で、ARゲームが終了に追い込まれる」
ガングートからはっきりと告げられた事実――それはデンドロビウムにも衝撃があった。これだけの事をするのは、今までチートガジェットをマーケットに流通させていたアイドル投資家――とも考えた。
「しかし、犯人はアイドル投資家の様な下の存在ではない。芸能事務所Aの有名プロデューサーと言えば、分かるだろう?」
まさかの衝撃発言が飛び出した。試作ガジェットを持ち出し、レイドバトルを混乱させているのが有名プロデューサーだと言うのである。この話自体がフェイクニュースの類と否定したいのは、デンドロビウムもアルストロメリアも同じだろう。
「その表情は――そう思うだろうな。しかし、これはフェイクニュースではない。ソースはある」
ガングートが見せたのは、自分の手に送られて来たメールのメッセージだった。その内容を見て、2人は驚きを隠せないような表情を見せる。ある意味で分かりやすいと言うべきか。
5分後、再びレイドバトルが行われようとしていた所で中止と言う情報が拡散されていた。この情報は正式な物ではなく、公式発表と偽装したネットイナゴによるフェイクニュースだろう。
「これで中止はあり得ない!」
「チートが使われていないようなバトルで中止と言うのが、頭おかしいだろう」
「芸能事務所の圧力を恐れて、ARゲームの観戦が出来る物か!」
周囲のギャラリーもフェイクニュースには否定的である。それに、ネット上の反応もギャラリーと同意見だ。
「公式で不利益が出たという報告はない。中止する方が、逆にネット炎上に利用されるだろうな」
「俺たちは芸能事務所にもネットイナゴにも屈しない! ARゲームは自由なんだ!」
次第に声が強くなっていき、下手をすればデモ行進が起きかねない状況にもなっている。しかし、それを止めるかのように姿を見せたのは――。
「声を上げて言うのは止めないけど、今の状況では――感心しない」
ARスーツ姿の人物が4人いる。しかも、その内の1人は先ほどのレイドバトルを観戦していたジャック・ザ・リッパーだ。4人のうち、メットをしていないのはジャックとアイオワの2人。瀬川アスナ、ビスマルクは既に臨戦態勢と言う気配か。
「今まで無関心だった人物が、声を上げてもネットイナゴと認識され――また炎上する」
炎上に関して言及したのはアイオワだった。彼女はこの場所には来ない予定だったが、ビスマルクに誘われる形でやってきたのである。
『このバトルは、アキバガーディアンや他の勢力からしても――大きな問題になっている』
ビスマルクの方はある人物のメールを受け取ったことで駆けつけ、その途中で目撃したアイオワも連れてきた形だ。
『ARゲームのコンテンツ価値をゼロにしようとする芸能事務所の圧力――それに屈しない事を試されている』
瀬川の方もメールを受け取って駆けつけたメンバーだが、本来は単独でも止めるつもりだったらしい。しかし、到着した頃にはジャックと遭遇し、更にはビスマルクとアイオワも発見した。それを遠目で見ていたガングードは、4人に対してこちらへ来るように手まねきをする。
そのガングートの姿に驚く人物はいなかったが、ビスマルクの方は顔には出さないのだが驚いていた。
「あのレイドボス――そう言う事で構わないのだな?」
ガングートはこちらへやってきた4人に対して確認を取ると、4人とも同じ回答だった。どうやら、あのメールは偽物ではないらしい。
「このメンバーで挑めば、勝てるかもしれないと?」
アルストロメリアは協力に関して若干否定的な意見をするのだが、そうも言ってられない状況なのは分かっている。
「ここは、共闘してレイドボスを倒すのが正解だろう。レイドボス自体、そう言う物じゃないのか?」
デンドロビウムの一言にはガングート達も同意する。そして、最後の戦いが始まろうとしていた。これが――アーケードリバースの今後を占う様な展開になるのだろうか?