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エピソード67-5

・2022年7月11日付

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 午後4時15分、デンドロビウムがフィールドCでレイドバトルにエントリーする。アルストロメリアはマッチング待ちでセンターモニターで待機――今回は遭遇戦がない、そう思われていた。


《マッチングが決定いたしました》


 センターモニターではなく、ARメットにマッチング完了のメッセージが届く。これには別の意味で驚いたが――驚くのはそこじゃない。


『まさか――これって?』


 ARメットを被り、バトルの準備をしていたアルストロメリアも――これに関しては驚きを感じずにはいられなかった。何と、マッチングの中にデンドロビウムの名前があったのである。


 現状でランキング1位の自分と、ランキング3位のデンドロビウムが――ここで激突するのだ。


『やはり、この激突は避けられない――』


 アルストロメリアは覚悟を決めた。あの時に――あの計画を考えた段階で、こうなる事も分かっていたはずである。そして、自分で全ての決着を付けなければ――今の状態では、また芸能事務所等にリサイクルされ、それこそ愛されるコンテンツではなく――芸能事務所の資金源とされてしまう。


『どちらが勝ったとしても、この勝負は――アーケードリバースを変える一戦となる』


 そして、アルストロメリアはフィールドにログインする。ログインと言ってもARゲームの場合、ゲームフィールドに入り、ARガジェットでログインと言う物理的な要素も存在していた。ソシャゲ等の様に端末だけで完結するような一連動作ではないのである。



 デンドロビウムは、スタートエリアからあまり動く気配がない。実は――アルストロメリアとはゲームスタート前に顔を合わせたのだが、視線を合わせる事はなかった。何故、そこまで――と言われそうだが、あの時のバトルと今回は別物と考えているのだろう。


「何だ――あのボス?」


「人型は珍しくないだろう。歴戦の傭兵とかSFチックな円卓の騎士――そう言ったレイドボスもいたはずだ」


「人型なのは間違いないが――肖像権は大丈夫なのか?」


 聞きなれないような言葉を聞いたプレイヤーが、その一言を聞いてARバイザーのスコープ倍率を上げた。そして、その視線の先にいたのは――間違いなく超有名アイドルをモチーフとした衣装のレイドボスである。しかも――その数は20人以上――推測でこの数なので、もしかしたら更に数もいるのかもしれない。


「何て数だ――さっきの襲撃事件を再現する気か?」


 別のプレイヤーも、同じレイドボスを別の場所で目撃し――動揺をしていた。まるで、数時間前のアルストロメリアの一件を再現したかのようなシチュエーションに、ギャラリーも動揺している。


【あのデザインは、運営公認なのか?】


【一連のハッキング――除去できていないデータがあったとか?】


【超有名アイドルのデータを再現しているのかもしれない。外見が似ているだけでは、著作権侵害と言えるかどうか――】


【まさか、芸能事務所が遂にゴリ押しだけでなく――運営も買収したのか】


【それこそありえないだろう? ARゲームからは撤退したはずだ】


 今回のレイドボスの出現で賛否両論とも言える発言が、つぶやきサイトだけでなくARゲームのコミュニティ内でも広がっている。このままでは――またもやネット炎上を避けられない状況になってしまう。



 この一連の中継を見て、何かを閃いたのは橿原隼鷹だった。丁度、この動画を谷塚駅に到着した所で視聴していたのだが――。


「あの時に奪われたプロトガジェットを――」


 彼は拳を握り、今にも怒りを爆発させそうな状況だったが――この状況で周囲に八つ当たりしても解決しないのは分かっている。このタイミングでARフィールドへ駆けつけても間に合うかどうかは微妙な為、ガーディアンに連絡を取ろうとしていた。


「こっちもか――」


 スマホが圏外だった事に対し、別の場所でARゲームが始まり、それが谷塚駅構内にも影響していると判断できる。それならば――と橿原はARガジェットでメッセージを送る事にした。


「これで間にあうのか微妙だが――」


 ショートメッセージの送り先は鹿沼零、山口飛龍、ビスマルク、瀬川アスナの4人に絞る。他のメンバーに送るにしては、情報の内容が若干危険であり――下手をすれば悪用されかねない状況もあった。



 プロトガジェットと言う事もあり、試作品でもARゲーム側公認と言う事もあり、チート認定はされない。それが――悪い意味で猛威をふるっていた。周囲にいたプレイヤーの内、わずか3分の間で9人のプレイヤーが撃破されたのである。5分と言う制限時間がある中で、この状況はひどいと言えるが――中には1分で全滅と言う動画も出回っているので、それよりはマシだろう。


「なんて奴ら何だ――不死身ではないと言うのに!」


 レイドボスは基本的に無敵ではない。ライフを完全に削れば、撃破できる仕組みにはなっている。その部分を改悪されていた場合、レイドボスが出現しないように隠しプログラムが存在していた。これが作動していない以上、不死身ではないのは事実だが――未だにレイドボスのライフは80%から下回らない。


「そんな馬鹿な事が――」


 粘りに粘ったプレイヤーも、レイドボスの前になすすべなく倒された。これによって、残るメンバーはデンドロビウムとアルストロメリアだけである。このプレイヤー以外は、全てワンパンチで撃破されている部分を踏まえると――攻撃力特化型なのは間違いない。しかし、それなのに機動力も通常以上と言うのは――試作品ガジェットから生成されたレイドボスだからだろうか?



 この動画を見ていた一人でもある山口飛龍は、この様子を見てバグデータと考える。


「このバトルは無効だ。バグが発生したバトルを続行しても――プレイヤーが炎上させるだけだ」


 山口は周囲のスタッフに指示を出し、アーケードリバース運営に連絡を取るようにも言及する。しかし、その直後に橿原からのショートメールが届く。


「秋葉原のプロトガジェット――だと言うのか? あのデータが?」


 メッセージの内容を見て、山口も驚くしかなかった。秋葉原のARゲームは若干特殊なのは知っているが、アーケードリバースで同じタイプのガジェットが使えるとは思えない。正規品で試した事もあるのだが、無反応だったのを自分も覚えている。


「まさか――試作品だからこそ、細工をする事も可能だったのか――」


 ARガジェットに関するデータを更に要求した山口だが、その返答がすぐに来るとは思えない。それを待っていては手遅れになるとも判断し、山口は直接アーケードリバースの運営がある草加駅近くのビルへと急いだ。


「あのバランス未調整のデータを放置しておくのは――問題があり過ぎる」


 このようなデータが拡散すれば、リアルウォー待ったなしもあるのだが――それよりもコンテンツとしての価値も失われる。何としても――あの時の悲劇と同じ事は回避するべき、と山口は電車で草加駅へと急ぐのだった。


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